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■2010/04/15 (Thu)
シリーズアニメ■
Story・1 刻、動き出す
雲が途切れて、太陽の光が淡く大地を照らした。そこは戦場だった。夥しい数の剣が墓標のように突き立てられていた。動く者はない、死の風景だった。
白いドレスの女は、その風景から目を背けるように、男の胸に顔を埋めていた。
「……ねえ、ルカ。最後の刻はお願い。このまま死ぬ運命なら……解放してほしい。あなたの手で。あなたが私を殺して」
女の声は怯えるように震えて、言葉の一つ一つに絶望が滲み出ていた。
「お前を苦しませるようなことはしない」
男――ルカが答えた。
女は顔を上げた。フードを被った男の顔が、薄靄のなか灰色に浮かんでいた。鋭い刃のような灰色の瞳。それでもそこに深い哀れみと慈愛が浮かんでいた。
ルカは女から離れて立ち上がると、側に突き刺さっていた剣の柄を握った。装飾に彩られた美しい剣だった。
「それはもしもの時の話だ。お前は俺が守る」
ルカは一度女を振り向き、そう告げた。
「待って!」
女は必死に声を上げて手を伸ばした。雨を吸った泥が、女の白いドレスの膝を汚した。だが女は構わず泥をドレスに浴びて、ルカの背中を追いかけようとした。
「俺はお前を裏切らない」
ルカは言葉を残して去っていった。
児童養護施設、朝陽院。祇王夕月はそこで暮らす高校生だった。1歳の頃、養護施設の前に捨てられ、以来そこを古里として過ごしてきた。
そんな夕月はこの頃、おかしな夢を見るようになった。目を覚めると何も憶えていないけど、忘れてはいけないような気がする――不思議な夢だった。
夕月がぼんやり夢のことを考えていると、若宮奏多が夕月に声を掛けた。夕月と同じく養護施設の出身で、今は1人暮らしをしているものの頻繁に訪ねてくるのだ。
奏多は養護施設の子供たちのために絵本を持ってきてくれた。それからそろそろ1人暮らしをするつもりの夕月は、奏多に部屋を探してくれるようお願いする。
夕月は奏多と別れて学校へ向う。バス停に向うと、柄の悪い不良たちが暴れているのを見かけた。夕月は得意の合気道で倒そうとするが、不意に頭にイメージが浮かび上がる――。夕月は時々、相手の心を見ることができる。その時も不良に触れた瞬間、相手の心を読んでしまっていた。
夕月が動揺しているところを、不良たちが逆襲しようとする。とそこに、叢雨九十九と叢雨十瑚の2人が助けに現れた。不良たちは負けを認めて去っていく。
叢雨姉弟とは初対面だが、叢雨姉弟は夕月を知っているように話し、「あなたとは仲良くやっていけそう。またね」と去っていく。
放課後、夕月は奏多が過ごすアパートを訪ねた。奏多は夕月のために部屋をいくつか探してきてくれていた。
夕月は奏多としばらく対話を続け、ふと机に見られない本が一冊置かれているのに気づく。『ラジエルの鍵』――そう呼ばれる本で、奏多が養護施設に預けられた時、唯一持っていた本であった。
謎めいた本で、書かれている言語も不明。奏多自身、最近ようやく読めるようになった、と語る。奏多によると、世界のためになる本だ、という。
さらに奏多は語る……。
「今、世界はゆるやかに滅びに向かっている。環境破壊、飢餓、終わらない戦争……。人間はなんて愚かで罪深い人間なんだろうね。この汚れた世界をリセットさせるには、すべてを終わらせるしかない……」
養護施設に帰宅する夕月。その後も、奏多の言葉をずっと考えていた。
そんな夕月の側に、子供たちが「お話聞かせて」と集ってくる。夕月は子供たちの部屋へ行き、お話を聞かせる。
「……遠い昔、何もない大地に王子様とお姫様だけが暮らしていました。2人はついこの間会ったばかりなのに、なぜか遠い昔から知っていた気がして、すぐに仲良しになりました。なぜなんだろう。初めて会ったのに――お姫様はとても不思議に思い、王子様に尋ねます。「私たち、本当に始めて会ったの?」。王子様は答えます。「会ったのははじめたかもしれない。だけど僕は君を知っている。そして君も僕を知っている」。王子様は笑ってそう言いました。だから僕たちは必ず出会う。それは神様と交わした、2人の約束だから……」
◇
物語は歴史の時代から始まっていた。常人とは違う力を持った『祇王一族』と『悪魔(デュラス)』。その戦いは決して終わらず、数百年ごとに繰り返されていた。
桜井夕月はそんな運命に捉われる少年だった。夕月は相手の心を読み取る能力を持っていた。しかしなぜ自分がそんな力を持っているのか、どうして捨てられたのか、自分の由来を求めて迷っていた。
そんな時に、夕月を知っている人物が次々に現われる。叢雨姉弟、それからゼス。ゼスは「死を招く赤い月の夜“ワルプルギスの夜”には外に出てはならない」と忠告する。
輪廻転生を繰り返し無間に続く戦い――刻は少年たちの意思とは無関係に巡りだす……。
やがて激しい戦いに身を投じる少年たちの物語。第1話はその前奏となるおだやかな風景と不安な予感を描いてみせた。
日常と非日常の狭間に立つ少年たちは、シャープな線でその存在が描き出されている。少年たちは頬肉がなく、顎に向って一気に線が滑り落ちている。その先端は鋭角的にピンッと尖っている。輪郭線だけではなく、目も鼻も口も、なにもかも鋭角的に切り取られ、ナイフのように突き刺さりそうなイメージで描かれている。
それは顔の印象だけではなく、体もすらりと長く、線の一本一本がすっきりしたシャープな線で描かれ、鋭角的に組み立てられた顔をしっかり支えている。
何もかも極端で、繊細な美意識が全体に緊張感を持って張り巡らされている。
『裏切りは僕の名前を知っている』は戦いの物語というより美意識の物語だ。
言葉の一つ一つはぼんやり漂う空気の中、独白のように流れ、互いの心を撫であっている。どの言葉もあまりにも甘く優しく、愛の告白のように強い響きを持っている。
背景美術は色彩が抑えられ、近景は彩度が抑えられた落ち着きのあるディティールが描かれているが、遠景ほど極端にコントラストが強くなり、真っ黒な影になって沈む。虹色の光がじわりと滲み出し、その効果が前面に立っているキャラクターの印象を強くさせている。
背景画がキャラクターが抱えている暗い運命と耽美な結びつきを静かに語るようである。
物語は現実的ではなく、どこか夢の中を漂うようなふわふわした印象が漂う。物語はなだらかに流れていくようで、慌しさや混乱は感じさせない。
ただそこに深い闇が静かに佇み、少年たちをゆったりと飲み込み、非日常に引きこもうとしている。その中心に立っている少年たちは、脆く崩れそうなくらい細い線で描かれている。
『裏切りは僕の名前を知っている』の物語は甘く、それでいて残酷な美意識を胸に抱きながら密やかに語りだす。
◇
夜になって夕月が携帯電話を確認すると、そこにメールが一通入っていた。クラスメイトの宇筑からたった一文――「助けて」
嫌な予感を抱いた夕月は、養護施設を飛び出していく。街に出ると、横断歩道に宇筑が1人きりで佇んでいた。
信号が赤になろうとしている。しかし宇筑はそこから動こうとしない。
夕月は横断歩道に飛び出し、宇筑を掴もうとした。しかし不意に宇筑の姿が消えてしまった。夕月は勢いをつけすぎて、その場で膝をついてしまう。
いったい何が……。夕月は動揺するように辺りを見回す。
とそこに、トラックが飛び出した。夕月はそこから離れようとする。が、何かにつかまれたように膝が動かなかった。
トラックは容赦なく向ってくる。
もう駄目だ。夕月は目を閉じた。
瞬間、誰かに掴まれた。体がふわりと浮かび上がる。
夕月が目を開けると、男に抱かれて空を漂っていた。
トラックはガードレールにぶつかり、ようやく止まった。夕月は男と一緒に歩道橋まで飛び、着地した。
「痛むところは?」
男は夕月の側に座り、静かな声で訊ねた。
「だ、大丈夫です」
夕月は緊張で高鳴る胸を抑えながら男を振り返った。そこではっとした。
男の銀色の瞳。眠っていた何かが呼び覚まされるような、そんな感覚があった。
何て言うんだっけ? 夕月は自分の体内から言葉を探していた。男の名前を。僕は、知っている。この人の目を、この人の印象を――。
……やっと会えた。
どこかで囁くように声がした。
「いま、何か……」
夕月ははっと立ち上がり、声の主を探そうとした。
男もゆっくり立ち上がる。
「奴には気をつけろ」
「奴?」
夕月は鸚鵡返しにして、はっと宇筑を思い出して立ち上がると歩道橋から身を乗り出し、横断歩道を覗き込んだ。
しかしそこに、宇筑はいなかった。
「あれは幻だ。幻は闇。闇は見えし者。その甘美なる誘惑に抗うことなく、黒く染まる……。やがて闇は光を覆い尽し、力を持ち、すべてを支配する」
男は静かな声で詩を吟ずるように語り始めた。
「闇がすべてを?」
夕月は戸惑うように訊ねた。
「心当たりがあるんじゃないか?」
男が訪ねた返した。
夕月はひそかにはっとした。この頃、脅迫状が届いていた。「桜井、死ね!」と。その送り主は――。
「俺がいる。自分1人で抱え込もうとするな。俺が助けてやる――夕月」
男は力強く有月を諭した。
「何で僕の名前を……」
夕月は信じられない思いで男をじっと見た。それでいて、きっとそうだろうという不思議な予感があった。
「俺はお前を裏切らない――」
男は答えず、代わりに短くそう告げると夕月に背を向けた。
夕月は男を追いかけようと手を伸ばし――。
裏切りは僕の名前を知っている 公式ホームページ
作品データ
監督:桜美かつし 原作:小田切ほたる
シリーズ構成:高橋ナツコ キャラクターデザイン:中山山美 松浦麻衣
プロップデザイン:植田和幸 美術監督:栫ヒロツグ 色彩設計:村永麻耶
撮影監督:岩井和也 編集:西山茂 音響監督:明田川仁 音楽:海田庄吾
アニメーション製作:J.C.STAFF
出演:保志総一郎 櫻井孝宏 井上麻里奈 福山潤
〇 石田彰 ゆかな 立花慎之介 田中晶子
〇 高岡瓶々 日笠陽子 関山美沙紀 米澤円
〇 永田依子 矢作紗友里 藤井啓輔 金光宣明
〇 酒巻光宏 中西英樹
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