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■2010/04/07 (Wed)
シリーズアニメ■
第1話 雪華の都
雪村千鶴は走っていた。京の町は人が消えてしまったように沈黙していた。背後から追跡してくる気配だけが不気味に際立っていた。
本能からか、千鶴はより暗く、望みのない闇へと足を向けてしまっていた。そこに見つけた樽の陰に飛び込んで身を潜める。
追跡者が四つ辻の前で足を止めた。荒く息を吐きながら、せわしなく土を踏む音が聞こえる。
千鶴は熱く火照った体を抑えて、深く呼吸した。吐息が漏れないように自分の口を押さえる。
「そう遠くには行っちゃいまい。探せ!」
2人のやり取りが聞こえた。2人は手短に打ち合わせて、2手に分かれる。
ざっざっと土を踏む音が迫った。千鶴ははっと顔を上げた。正面の白
千鶴は小さく震えた。震える手を律して、刀の柄を握る。掌に力がこもらず、握るというより添えるようだった。
その時、どこかで悲鳴が漏れた。白壁に映った影が振り向き、刀を抜いた。
金属音が跳ねた。刀がぶつかり合っているのだ。千鶴は状況がつかめず、ただ恐怖に捉われて白壁をじっと見ていた。
白壁に影が映った。男の頭に、刀が突き刺さっていた。どさりと男が倒れた。千鶴の側だった。男は頭を刀で抉られ、恐怖に引き攣った瞬間で硬直していた。
千鶴は悲鳴が漏れそうになるのを必死に抑えた。恐怖がこみあげてきて、自分の意思とは無関係に目に涙を浮かべた。火照っていた体が急速に熱を失っていった。
侍が刀を振り上げた。千鶴は身をかばうように両手を突き出し、悲鳴を上げた。
しかし、刀は振り落とされなかった。奇妙に沈黙した間を置いて、どさ
千鶴は目を開けた。さっきの侍が足元に倒れ、空虚な目で雪の景色を見ていた。殺されたのだ。
千鶴は顔を上げた。目の前に、男が立っていた。男は手に持っていた刀をさっと振った。白い土壁にぴちゃりと液体が飛び散った。すっと刀を鞘に収める。
幼く聞こえる男の声が、斉藤と呼ばれる男をからかうように声を掛けた。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ」
斉藤は低く、闇に飲まれそうな声で呟いた。
斉藤がすっと刀の切っ先を千鶴に向けた。
「いいか。逃げるなよ。背を向ければ切る」
その時、偶然にも月明かりが現れた。風がちらつく雪を吹き上げた。男の頬をなでる漆黒の髪に、千鶴は息を飲んだ。その美しく、月明かりに浮かぶ麗人の顔は、まるで狂い咲きの桜のような――。
何か予感めいたものを感じた千鶴は、男装して
新選組の一同は人斬りの目撃者として千鶴を殺そうかと話し合う。しかし千鶴の父親の話しを聞くと一転して、父親が見付かるまでの期間、屯所で保護しようと申し出る。
半ば軟禁状態の千鶴は分が悪く、新選組の申し出を引き受けることにしたのだが――どうやら新選組には知られてはいけない秘密があるらしい……。
◇
少女は江戸という俗世を離れ旅を続け、どうやらその途上でこの世ではない場所に踏み込んだようである。
作品の中心となるのは、美しき少年達の戯れである。少年達は癖の
少年達を彩る唯一のメイクは、赤く際立った血だけだ。白く溶けたよう
どの少年達も鋭角的に輪郭線が区切り取られ、目元は特徴的なアイシャドーでくっきりと浮かび上がらせている。その瞳は異界の人間であることを明かすように、少年達は色とりどりに輝かせている。
少女は監視という名目で美しい少年達の視線を常に集め、翻弄され続けている。やがて少女は身も心も少年達に捉われ、危うく揺り動か
物語の舞台となる屯所はこの世ではない場所だ。歴史上のどの時代にも場所にも符合しない。「新選組」と「屯所」という名前だけを借りているだけだ。
日本家屋がもたらす光と闇のせめぎあい。その狭間に住んでいる幻
少年達は美しい見た目とは裏腹に凶暴な実体を持っている。美と狂気は常にどろどろに交じり合った渾沌の中で両立している。光と闇のように。
光と闇がきわどく混濁した場所に幻想は出現する。その存在は霧の粒のようにはかなく、一瞬の油断で霧散してしまう。幻想を長く抱いていたいのであれば、夢から目を覚まさぬことだ。
作品データ
監督:ヤマサキオサム 原案・構成監修:藤澤経清 原作:オトメイト
キャラクター原案:カズキヨネ キャラクターデザイン:中嶋敦子
美術監督:平柳悟 色彩設計:松本真司 撮影監督:下崎昭
編集:松村正宏 音楽:大谷幸 音響監督:岩浪美和
プロデューサー:小倉充俊 長谷川和彦 山崎明日香
アニメーションプロデューサー:浦崎宣光
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:桑島法子 三木眞一郎 森久保祥太郎 鳥海浩輔
〇 吉野裕行 遊佐浩二 大川透 飛田展男
〇 坪井智浩 小林範雄 斉藤龍吾 島崎信長
〇 川野剛稔 吉本秦洋