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■2010/01/10 (Sun)
第1問 バカとクラスの召喚戦争

16025b06.jpg校舎を囲む壁を彩るように桜の木が並んでいた。風に散る花びらが風景を鮮やかな桃色に染めている。
そんな花びらの雨の中を、吉井明久は息を弾ませながら走っていた。今日から2年生に上がる。だというのに、遅刻寸前の危機だった。
ac0096d8.jpg「遅いぞ吉井!」
やっと校門の前にたどり着くと、大塚明夫声のいかつい教師が吉井を呼び止めた。
「ゲッ! 鉄人!」
西村はぎょっとした足を止めた。
220c7df8.jpg「鉄人じゃない。西村先生と呼べ。ほら、お前が最後だ。振り分け試験の結果通知だ。今日からそこがお前のクラスになる」
西村宗一は封筒を吉井に差し出した。側にテーブルが置かれていたがその上には何もなかった。どうやら、吉井が本当に最後の1人らしかった。
「はーい!」
吉井は元気に返事して封筒を受け取った。中には二つ折りにされた紙切れが一枚。吉井はにわかに胸をドキドキさせて紙切れを摘み取った。
「吉井、今だから言うがな……」
78e074e1.jpgふと西村がしんみりした調子で話しを始めた。吉井は手を止めて西村を見上げた。
84bda17e.jpg「俺は去年1年間お前のことを見て、もしかしたらこいつはバカなんじゃないかと疑いを抱いていた。だが、試験の結果を見4f47da83.jpgて先生は自分の間違いに気付いたよ。すまなかったな吉井。お前を疑うなんて、俺は間違っていた。お前は疑う余地のない正真正銘の――バカだ!」
西村はこれ以上のない力強さで断言した。
吉井は紙切れを摘み出し、開いてみた。そこに乱暴な走り書きで「F」の字が書き記されてあった。
 
文月学園には教育史上例の見ない特殊なシステムを採用した進学校である。
その名も「試験召喚システム」だ。「試験召喚システム」とは科学とオカルトが組み合わされ、偶然の結果生み出されたシステムである。このシステムを使うと、召喚の主は自身の分身である「召喚獣」を呼び出せ、それを手先に戦いを挑むことができる。
621a4cf3.jpg召喚獣の能力はテストの点数によって決定付けられる。だから文月学園では徹底した差別化を計るために、テストの成績順によってA~Fの6クラスに振り分けられている。クラスAに入ればエリートとして最上級の教育が受けられるが――クラスが下に行くほどに設備も環境もどんどん劣悪になっていく。

82385412.jpg吉井明久は成績最下位、学年一番のバカとしてFクラスへと移された。同じくFクラスになったのは、坂本雄二、島田美波、木下秀吉、土屋康太、それから試験中に具合を悪くしてテストを白紙で提出してしまった姫路瑞希たちであった。
Fクラスの環境はまさしく“最悪”のものだった。床は畳で机は卓袱ba5295d8.jpg台。しかも卓袱台の足は消耗して軽い衝撃でも折れてしまう。座布団は継ぎだらけで綿がほとんど入っておらず、隙間風が常にひゅうひゅうと入ってくる。生徒たちはFクラスに来るだけあって学習意欲ゼロで先生も教える気なし。空気も悪く、埃が積もり悪臭が漂う場所であった。
b5400dff.jpgその環境は病気がちな姫路にとってとてもいいものではない。吉井は姫路のために坂本と共謀し、Eクラスに「試召戦争」を持ちかけた。もし「試召戦争」に勝利すれば、教室をFクラスとEクラス入れ替えることができる。
だがもちろんEクラスは簡単に教室を明け渡すつもりはない。かくして、教室の環境をかけた戦いが始まった。
ba487578.jpgac82f279.jpg
9939fd2c.jpgf2c1a879.jpgd14e622d.jpg8ecefa06.jpg
989600eb.jpgeea7e1ce.jpg4b9776b4.jpg4c266f75.jpg


『バカとテストと召喚獣』は楽しい作品だ。
作品のアイデアはすでに他作品で提示されたアイデアを寄り合わせただけに過ぎない。“ありあわせ”の材料で作られた作品だといえる。
キャラクターの容姿や性格といった造形はライトノベルにありそうな定石をそのまま踏襲し、意外性は皆無。異色学園ものはすでにそれがスタンダートをされるほど使い回され、使い古されつつある設定である。その中心的なファクターである「召喚獣」も今時珍しいものではない。アニメ、漫画、ゲームといった分野でうんざりするほど見てきたアイデアだ。
だが『バカとテストと召喚獣』は思いがけない楽しさを提供する。ノリのいいキャラクターにテンポよく流れていく台詞、カット。「召喚獣」といった学問とはまるで無関係なアイデアをあえて学園物という題材と組み合わせ、意外な相乗効果を上げている。
また「召喚獣」を呼び出してでの戦闘シーンが楽しい。明るくて楽しく、それに子供っぽさが大人の視聴者に子供心を与えてくれる。
b9008f77.jpg188fed5a.jpg「召喚獣」はすでに「素材の1つ」としてあらゆる漫画、アニメ、ゲームで見られるようになった。しかし、元ネタは何なのだろう?悪魔召喚などは古くから黒魔術の世界にあったのだが、それをキャラクターにしたのは『ファイナル・ファンタジー』からだろうか?
97ee3e3e.jpg映像の作りは独特だ。通常の作画の上に様々なエフェクトをかけて完成させている。鮮やかなパステル調のトーンカラーに、漫画風のスクリーントーンが要所要所に配され、文字を強調する漫符表現が堂々と演出に組み合わされている。背景にはホワイトがかった質感エフェクトが掛けられている。
7371df49.jpg写実的な奥行きや演技空間は皆無だが、その一方で平面的な画面作りは常に賑やかで楽しい雰囲気に満たされている。カットの移り変わりが早く、カット間の演技的空間はあえて無視されている。平面的な構図が強調され、紙の漫画的な面白さを映像の中で具現化している。
37324970.jpgそもそも平面でしかない線画のキャラクターは、パース皆無の構図の中でむしろ生き生きと、楽しげに物語を紡ぎ始めている。
e8590128.jpgこういった画面は作り手がゲームを知らず、興味もなく、何となく通俗的なゲーム的イメージを作品の中に(揶揄を込めて)描く場合が多かったし、それで許される社会的空気(むしろ奨励されていた)もあった。この作品のように演出的なコントラストを作りつつ映像に取り入れられるのは最近の傾向だ。最近の作家は勉強熱心である。
63bcded7.jpg『バカとテストと召喚獣』における最大の特色が召喚獣を呼び出してでの戦いだ。
召喚獣はどんなキャラクターが登場するのだろうと思っていると、何のことはない、召喚主を2頭身に書き換えただけのキャラクターだった。ということは、召喚主のキャラクターとしての強さが、そのまま召bac86a36.jpg喚獣のキャラクターとして反映されるわけである。
2頭身で示されるキャラクターはまるまるとして愛らしく、6頭身キャラクターよりはるかに生き生きとした躍動が与えられている。現実世界という制約を受けず、2頭身キャラクターは思い思いの衣装に武器を手に取り、作品世界の領域を自由に広げている。召喚獣のアイデア119d7f8f.jpgはリアルなパース世界に制約を受け続ける6頭身キャラクターという束縛から解放され、より自由に創作されたキャラクターとの同居を実現させている。
戦闘シーンは徹底してテレビゲームの世界が再現されている。極端な俯瞰構図に色でより分けたサイトを強調する手法。対決場面はバ189c8fab.jpgストショットの止め画に、2頭身キャラクターが自由に飛び回る。キャラクターの頭に飛び交うダメージポイント、目線カットインの挿入(戦闘シーンに入ると通常演出の構図がほとんど使われなくなる)。どれもゲームで見られる表現をよく研究し、アニメ演出の中に違和感なく溶け込ませている。
91ab1db3.jpg学校教育は物差しの1つに過ぎない。確かに学校教育は宗教めいた力を持ち、就職まで絶大な影響力を持つ。だが学校教育で得たものは実社会でほとんどというかまったく役に立たない。利口な判断力があるなら、実戦可能な技術や免許を取得し、美術的感性を磨いてから社会に出るべきだろう。学校で得たものだけで得意になり社会に出るのは、井戸の中の間抜けなカエルである。
ふとするとその描写は子供じみて見えるが児童向け作品とは明らかに違い、より高度で上質だ(というか日本の児童向け作品はできが悪い。おそらくこの分野で本気になって作品制作している人が僅少なのだろう)。見ていると子供心に戻ってキャラクター達に声援を送っている我々がいる。難しいことは考えさせず、楽しい、という気分させてくれる。
大人が子供に、あるいは少年の遊び心を引き戻すための作品だ。

作品データ
監督:大沼 心 原作:井上堅二 キャラクター原案:葉賀ユイ
シリーズ構成:高山カツヒコ キャラクターデザイン・総作画監督:大島美和
色彩設計:木幡美雪 美術監督:東厚治 美術:ST.ちゅーりっぷ
撮影監督:中西康祐 撮影:旭プロダクション 編集:たぐまじゅん
音響監督:亀山俊樹 音楽:虹音 音楽プロデューサー:斉藤滋
アニメーション制作:SILVER LINK.
出演:下野 紘 原田ひとみ 水橋かおり 鈴木達央
  加藤英美里 宮田幸季 磯村知美 竹達彩奈
  寺島拓篤 加藤英美里 平田真菜
  南條愛乃 津田健次郎 大塚明夫



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