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■2009/09/24 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
5
千里は考えを諦めるように、溜め息をひとつついた。
「男爵をどうにかするのはできない、というのは理解しました。それでは、あの少女は何者なのです。あの風浦さんそっくりの女の子。あれはどう見ても、風浦さんの双子か何かです。先生、そういうのに覚えはありませんか?」
千里は顔を上げて、次なる疑問を口にした。
「知らないです。そもそも私、風浦さんの家族構成なんてあまり知りませんから。複雑な家庭らしいのはわかっているのですが……」
糸色先生は頼りなげに頭をくしゃくしゃと掻いた。
私は糸色先生と終業式前に交わした会話を思い出した。糸色先生は、可符香の正しい住所すら知らない。
でも、可符香の内情で知っているといえば、どれだけあるだろう。可符香は複雑な家庭環境にあるらしい。父は自殺未遂。母は悪霊に取り付かれ、霊媒師に救われた過去がある。おじさんは刑務所で過ごしていて、時々“出島”で会話しているという。それから、幼い頃はあちこち引越しばかりの生活をしていた。
ここまでを整理すると、可符香には父と母と従兄の男性がいる。それが全てであって、「姉か妹がいる」なんて話は一度も出てきていない。
多分、他の誰かに聞いても新しい情報が出てきたりはしないだろう。もしかすると、本人に尋ねても、答えをはぐらかされてしまうかもしれない。可符香を覆うヴェールは、誰の手によってでも明らかにできないような気がした。風浦可符香の本当の名前を含めて……。
「いずれにしても、私は男爵のゲームを引き受けるつもりです。というか、もう逃げ道はありませんし、このまままごついていたら、私は殺され、風浦さんは殺人罪で捕まってしまいます。私は、風浦さんを警察に突き出すような真似はしたくありません。皆さんは被害者ですが、私に協力してくれませんか。皆さんの想いを、私に託してください」
糸色先生は私たち全員の顔を見て、落ち着いた言葉で説いた。いつも教壇で聞くより、ずっと頼りがいのある大人の男性の声に思えた。それが多分、17歳の頃の糸色先生が持っていた眼差しなのだろう、という気がした。
「もちろんよ。」
千里が一番に答えて頷いた。
「私も、可符香ちゃんを不幸にさせたくないから」
私も同意して追従した。
「同じく」
藤吉はちょっと手を上げて私に続いた。
「私も。先生が言うんだったら」
まといが糸色先生に熱い眼差しを送りながら頷いた。
「皆さん。ありがとうございます」
糸色先生は改まったふうにスツールの上で頭を下げた。
「それで、警察の手を一切借りず、お前は男爵に立ち向かうわけだ。どうするつもりだ。策はあるのか?」
命先生が試すように糸色先生に訊ねた。
「まずは情報です。ここで、全員の情報を共有しましょう。皆さんは事件の当事者です。事件を解決するためのヒントを、どこかで接していたり、目撃していたりするはずです。だからどんな些細なことでも構いません。最初の事件から今までの経緯をすべて私に話してください」
糸色先生はさらに説得するように言葉に力を込めた。
「それじゃ、困ります。どこから話すべきなのか、きちんと指定してください。私、生まれてから現在に至るまでの話をしますよ。」
千里は腕組をして、厳しく答えを返した。
「えっと、それじゃ……。そうですね。蘭京さんの事件、やはり気になりますね。では、7月5日から。日塔さんがあの秘密の部屋で蘭京さんの失踪に気付いたところからお願いします。特に日塔さんは、事件の最初から関わっていました。決定的な何かを見ているか、あるいは知っている可能性があります。お願い、できますね」
糸色先生が決断を迫るように私に真剣な目を向けた。
私は、脇の下に汗が浮かぶのを感じながら、重く頷いた。
次回 P065 第6章 異端の少女6 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P064 第6章 異端の少女
5
千里は考えを諦めるように、溜め息をひとつついた。
「男爵をどうにかするのはできない、というのは理解しました。それでは、あの少女は何者なのです。あの風浦さんそっくりの女の子。あれはどう見ても、風浦さんの双子か何かです。先生、そういうのに覚えはありませんか?」
千里は顔を上げて、次なる疑問を口にした。
「知らないです。そもそも私、風浦さんの家族構成なんてあまり知りませんから。複雑な家庭らしいのはわかっているのですが……」
糸色先生は頼りなげに頭をくしゃくしゃと掻いた。
私は糸色先生と終業式前に交わした会話を思い出した。糸色先生は、可符香の正しい住所すら知らない。
でも、可符香の内情で知っているといえば、どれだけあるだろう。可符香は複雑な家庭環境にあるらしい。父は自殺未遂。母は悪霊に取り付かれ、霊媒師に救われた過去がある。おじさんは刑務所で過ごしていて、時々“出島”で会話しているという。それから、幼い頃はあちこち引越しばかりの生活をしていた。
ここまでを整理すると、可符香には父と母と従兄の男性がいる。それが全てであって、「姉か妹がいる」なんて話は一度も出てきていない。
多分、他の誰かに聞いても新しい情報が出てきたりはしないだろう。もしかすると、本人に尋ねても、答えをはぐらかされてしまうかもしれない。可符香を覆うヴェールは、誰の手によってでも明らかにできないような気がした。風浦可符香の本当の名前を含めて……。
「いずれにしても、私は男爵のゲームを引き受けるつもりです。というか、もう逃げ道はありませんし、このまままごついていたら、私は殺され、風浦さんは殺人罪で捕まってしまいます。私は、風浦さんを警察に突き出すような真似はしたくありません。皆さんは被害者ですが、私に協力してくれませんか。皆さんの想いを、私に託してください」
糸色先生は私たち全員の顔を見て、落ち着いた言葉で説いた。いつも教壇で聞くより、ずっと頼りがいのある大人の男性の声に思えた。それが多分、17歳の頃の糸色先生が持っていた眼差しなのだろう、という気がした。
「もちろんよ。」
千里が一番に答えて頷いた。
「私も、可符香ちゃんを不幸にさせたくないから」
私も同意して追従した。
「同じく」
藤吉はちょっと手を上げて私に続いた。
「私も。先生が言うんだったら」
まといが糸色先生に熱い眼差しを送りながら頷いた。
「皆さん。ありがとうございます」
糸色先生は改まったふうにスツールの上で頭を下げた。
「それで、警察の手を一切借りず、お前は男爵に立ち向かうわけだ。どうするつもりだ。策はあるのか?」
命先生が試すように糸色先生に訊ねた。
「まずは情報です。ここで、全員の情報を共有しましょう。皆さんは事件の当事者です。事件を解決するためのヒントを、どこかで接していたり、目撃していたりするはずです。だからどんな些細なことでも構いません。最初の事件から今までの経緯をすべて私に話してください」
糸色先生はさらに説得するように言葉に力を込めた。
「それじゃ、困ります。どこから話すべきなのか、きちんと指定してください。私、生まれてから現在に至るまでの話をしますよ。」
千里は腕組をして、厳しく答えを返した。
「えっと、それじゃ……。そうですね。蘭京さんの事件、やはり気になりますね。では、7月5日から。日塔さんがあの秘密の部屋で蘭京さんの失踪に気付いたところからお願いします。特に日塔さんは、事件の最初から関わっていました。決定的な何かを見ているか、あるいは知っている可能性があります。お願い、できますね」
糸色先生が決断を迫るように私に真剣な目を向けた。
私は、脇の下に汗が浮かぶのを感じながら、重く頷いた。
次回 P065 第6章 異端の少女6 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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