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■2009/09/21 (Mon)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P061 第6章 異端の少女


「みんなごめんね」
ようやく落ち着いたらしい藤吉が、眼鏡をかけて私たちみんなに軽い感じの声をかけた。でも目元は赤く腫れたままで、少し痛々しかった。
千里と藤吉もスツールを持ってきて、私の右隣に並んで座った。私たちはちょうど、円陣を組む体制になった。
それでは先生。10年前の事件から話を聞かせてください。
皆の準備が整うと、千里が委員長らしく話を進行させた。
「そうですね。皆さんはすでに事件の当事者ですから。知る必要があるでしょう。……10年前、私は一つの事件と遭遇しました。私は高校2年生、17歳のときでしたね。当時の男爵は、あの屋敷に月数回のペースで人を集めて、パーティーを主催していました。そのパーティーの余興として、50人近い子供が、快楽のために殺害されていたのです」
糸色先生は私たち全員の顔を見ながら、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「あの、いったいどんなパーティーだったのですか? 快楽のために子供を殺害したって……。」
千里が困惑して言葉を引き攣らせていた。いつもきっちりしている富士額に、髪の毛がかかっていた。
糸色先生の代わりに、命先生が答えた。
「そこは聞かないほうがいいな。パーティーの余興として子供が殺されていた、この部分だけ理解していればそれでいい。私は外科もやるんで、大抵の修羅場は経験しているつもりだったが、それでも実際の写真を見て胸が悪くなった。精神衛生上のためにも、それ以上話は聞かないほうがいい」
命先生が腕組をして千里に忠告した。千里は顔をこわばらせたまま小さく二度頷いた。
「とにかく、あの屋敷では夜な夜な“殺人ショー”が行われていました。それを知った私は、男爵を告発しようとしたのです。しかし男爵の招いた客の中には、政治家、警察、マスコミといった人たちもいました。要するに、権力に関わる組織は、全員が男爵と共犯関係にあったわけです。告発が思うようにいくわけがありません。警察に届け出ても無視でしたし、マスコミも一切取り上げません。しかも私は、むしろ逆襲に遭って窮地に陥りました」
糸色先生がその続きを話しはじめた。
話を聞いているうちに、私は恐くなってしまった。あの屋敷、あの食卓で人が殺されていた。知らなかったとはいえ、私たちはそんな屋敷に押し入って、監禁されていたのだ。
それに約50人と説明されているが、それでは収まらないだろう。あの独房、それから水に浸された穴の中。回収されていない死体は、まだあの屋敷にたくさん眠っているはずだ。
「それじゃ、どうやって男爵を逮捕させたんですか?」
藤吉が真剣な顔をして訊ねた。そうだ。権力を味方につけていたとはいえ、結果的に男爵は逮捕されたのだ。
「父の大だよ。父は現職の国会議員だからな。要するに、父は男爵に抵抗できる権力だった、というわけだ」
命は少し誇らしげな調子で答えた。糸色先生が頷いて、話の続きを継いだ。
「そう。父が国会会期中に突然、私が作成したパーティーの参加者リストを読み上げたのです。もちろんNHKのカメラで完全生中継。男爵の背徳行為は、一気に全国の茶の間に伝えられたのです。これで初めて警察が捜査に乗り出し、事件は一気に解決。関係者は末端まで刑務所送りになりました。……情けない話です。最後には父親に助けられたわけですから」
糸色先生は淡々と説明し、その最後で少し気分を沈ませるように肩を落とした。
「いえ、先生、いいんですよ、それだけの事件でしたから。先生が無事で何よりです。それに、助かった子供もいたんでしょ?」
糸色先生の左隣のまといが、慰めるように言葉をかけた。まといはこんな時でも糸色先生にかぶりつきで、私は心の中で「近すぎよ!」と思った。
「ええ、少ないですが、救出された子供もいました。みんな体が衰弱していて、無事に成長した子供は少なかったですね。精神的な障害はもっと重いようでした。衰弱して皮膚が緑色になっていた子供もいましたね」
糸色先生はまといの厚かましい眼差しにちょっと顔をのけぞらせて、話を続けた。
「はい? 皮膚が緑色、ですか?」
聞きなれない症状に、千里が訊ねた。
「飢餓状態の一種だよ。腹が膨れるのはよく知られるが、皮膚が緑色になるのも、飢餓状態の症状だ。病名は『緑性萎縮黄病』。極端な飢餓による栄養失調がもたらす貧血病だよ。男爵は戯れで、毒を与えながら子供を飢餓状態に置き、次第に理性を失って衰弱死する様を見て楽しんでいたようだな。残念ながら、そういった飢餓状態で救われた子供に生存者はいない。それに、そうだ。実は男爵は表向きには東大付属植物園の研究員だった。人体実験していたという噂は、今も絶えんな」
命先生が腕組を外し、専門家らしい視点を加えた説明をした。
「他にも、助かった子供はいました。でも、救出された子供たち、というのと少し違う子供たちでした。『男爵の弟子』と呼ばれる子供たちです。男爵は子供達の中から素質のある者を選び出し、自分の後継者として育てていたようです。これがその13人のリストです。中には、著名な芸術家になった者もいますね。もっとも、“趣味が高じた殺人”が明らかになって逮捕されましたが。行方が明らかな者がどれだけいるか、わかりません」
糸色先生はそう前置きして、持っていたリストを私たちに差し出して見せた。リストはコピーを繰り返したらしく、文字が滲んだようにぼやけていた。それでも、判読不明というほどでもなかった。
リストには、次の13人が名前と住所が共に羅列されていた。

〇〇名前      当時の住所 
三田 智菜美  東京府調布市20-7
楠田 陽子   東京府調布市4-98
群 市太郎   静岡県駿河区31-121
火田 健次郎  福岡県福岡市5-21
帆府 茅香   東京府市川市3-55
市女笠 吉武  東京府守谷市大粕7-14
桜 妓市    東京府杉並区3-83
山形 富一   宮城県仙台市66-65
吉川 和海   千葉県茂原市11-534
幸田 邦仁   茨城県閲沼市3-8
池谷 彰    東京府久坂市2-35
源 民     東京府調布市20-7

次回 P62 第6章 異端の少女3 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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