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■2009/09/22 (Tue)
a9e043bf.jpga71da4a8.jpgノースダコタ州 ファーゴ
ジェリーがおずおずとレストランの中へ入っていく。すでにあの二人は奥のテーブルで待っていた。二人の男はカールとゲアだ。
0d143599.jpgジェリーは、カールとゲアを雇い、自身の妻ジーンを誘拐させ、身代金を得るつもりでいた。“狂言誘拐”だ。
身代金の額は8万ドル。そのうちの4万ドルをカールとゲアに引き渡す約束だった。

ジェリーは金に困っていた。
dc7ff716.jpg40エーカーの土地を手に入れ、事業を始めるつもりだった。だが、資金がなかった。
ジェリーは裕福な義父を説得して資金を得ようとしたが、義父はなかなか納得してくれない。それでジェリーは狂言誘拐を思いついたのだ。
ところが、数日後、急に義父は心変わりをして、資金を出してもいいと言い始める。
お金の心配がなくなった。狂言誘拐は中止だ。
ジェリーは、カールとゲアに連絡を取ろうとするが、何度電話しても通じなかった。
ebb6a2ce.jpg画面だけ見ると、ゆるやかなファミリー映画のようにすら見えてしまう。だが、それも作り手の狙いなのだろう。穏やかに見えた映像が次第に暴力の恐怖に変わっていく。時々カメラは、極端に対象から遠ざかって、まるで幾何学的な何かのように見せる。ファミリー映画ふうの穏やかさだが、しかし監督の視点は俳優に接近せず、乾いた感性で暴力を客観的に描いている。
24c4faf9.jpg切っ掛けは、ほんの少しのお金を得るためだった。
だが、ジェリーの計画はボロボロに崩壊していく。
ジェリーは事業を起こすにしても犯罪を犯すにしても、あまりにも平凡で、世間知らずで、非力な存在だった。
狂言誘拐の計画は思いがけない方向へ進み、悪夢のような殺戮の連鎖へと変わっていく。
39a75bcc.jpgゲアの殺戮は止まることなく発展していく。「理由のわからない暴力」は、後のコーエン兄弟の監督作品『ノー・カントリー』に受け継がれ、完成していく。
コーエン兄弟はコメディとバイオレンスをはっきり視点を切り替えて描く作家だ。予備知識がないと、今回のコーエン兄弟はどっちのコーエン兄弟だろう、としばらく考えながら見てしまう。『ファーゴ』はバイオレンスのほうのコーエン兄弟だ。

1982ab2c.jpg映画『ファーゴ』は、犯罪映画だがいかにもな派手なシーンはない。
大袈裟なアクションはなく、スター俳優も登場しない。主人公であるマージの登場も、30分を過ぎてからだ。しかもマージは、ヒーローらしからぬキャラクターだ。ルックスにしても、お世辞にも美人女優とはいえない。
6a061baa.jpgもっとも、平凡に思える映画の中で、マージの名推理は素晴らしく冴え渡る。まぎれもない名探偵だ。
どのカメラワークも平凡で、特別な事件が起きそうな予感がない。
それだけに、じわりじわりと恐怖が滲み出てくる。
なにかのタガか外れて、次々と殺人が起きる。
『ファーゴ』は、何もかもが平凡に見えるように制作されている。
だからこそ、事件の異常さが異様な重みを持って際立ってくる。

映画記事一覧

作品データ
監督:ジョエル・コーエン
音楽:カーター・バーウェル 脚本:イーサン・コーエン ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド スティーヴ・ブシェミ
〇〇〇ウィリアム・H・メイシー ピーター・ストーメア
〇〇〇ハーヴ・プレスネル ジョン・キャロル・リンチ
〇〇〇クリステン・ルドルード トニー・デンマン



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c039050e.jpg冒頭に掲げられる問題のあるテロップ。『これは真実の映画化である』。
ユーモアだった、という話を聞くが、紛らわしい。私はかなり長い間、この映画が実話を題材に作られた映画だと本当に思っていた。今でも勘違いしている人は多いはずだ。



この映画は冒頭に『真実の物語である』とテロップで説明されるが、これは真っ赤な嘘。
物語のヒントとなる事件はあったが、しかし内容は全くのフィクションだ。
なのに、どうしてあんなまぎわらしい注意書きを冒頭に掲げたのか、疑問の残る映画だ。




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