■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2009/09/17 (Thu)
映画:外国映画■
「ボスが用済みを殺せってさ。分け前が増える」
「そうか。偶然だな。俺も言われた」
殺し合いに殺し合いを重ね、ついにはたった一人になってしまった。
「仲間を殺して得意か?」
銀行員の一人が襲撃者の生き残りを罵った。
「お前もボスから同じ目に遭わされるぞ。昔の悪党は信じていた。名誉とか敬意ってものをな。今時の悪党はどうだ? 信念はあるか!」
「俺の信念はこうだ。“死ぬような目に遭ったやつは――イカれる”」
襲撃者がピエロお面を脱いだ。その下に現れたのは、――まるでピエロのような粗末なメイクをした男だった。
映画を取り巻く状況は冒頭から急激に動き始めている。
ハービー・デント検事は組織犯罪に戦いを挑むジム・ゴードン警部補と同調し、各銀行への捜査令状を発行。ゴッサムシティ・マフィアの根絶を狙った。
事件の中核にいるのは、中国人のラウ。そこまでわかっていたが、し
警察の権限ではもう手出しできない――頼れるのはただ一人、バットマンだけだった。
その一方で、マフィアの内部にも葛藤があった。バットマンとハービー・デント二人の活躍で、マフィアの活動は限られつつある。いつしか中国人のボスに頼るようになっていた。
そこに現れたのは、本物のキチガイ――ジョーカーだった。
ジョーカーのおかげで、隠し持っていた自分たちの貯金が警察に暴かれてしまった。資金と活動場所を奪われ、組織の衰退を予感していた。
そんなマフィアの集会に、ジョーカーが堂々と姿を見せた。
「どうするつもりだ?」
「簡単だ。バットマンを殺す。だがタダじゃやらない。全資金の半分をよこせ」
映像感覚はどこまでも現実的に、高詳細に描かれ、いかにもコミック原作然とした跳躍した部分は少ない。スーパーヒーローが登場し、デウスエキスマキナ的パワーで事件解決、とはいかない。警察とマフィアの戦い、感情と暴力のぶつかり合いを正面から描き、犯罪映画らしい緊張感のある画面と物語構成を作り出している。
それはバットマンの存在である。
バットマンが登場し、秘密アイテムを駆使してアクロバットな活劇を見せる瞬間、『ダークナイト』
もちろん、バットマンの存在は魅力的だ。警察も検察も法的に手が出せなくなった瞬間、バットマンが超法規的活劇によって悪が封じられる。秘密アイテムも、今作においては非常に現実的な設計で描かれている。バットマン・スーツにしてもより機能的で、現実にありえそうなディティールで描かれている(疑似科学みたいなものだが)。
しかしバットマンはコミックヒーローなのである。犯罪映画の主人公ではない。
『ダークナイト』には二つの違う映画が同居している。コミックヒーロー映画と、犯罪映画だ。バットマンは犯罪映画としての『ダークナイト』に深く介入せず、飽くまでコミックヒーローという立場のまま、犯罪者の動きを周辺から監視している。
ジョーカーといえば、かつてジャック・ニコルソンが演じた強烈なキャラクターだ。ジャック・ニコルソンのもともとの凶悪そうな容貌もあって、あ
だが『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒース・レジャーの存在感は、ジャック・ニコルソンを完全に忘れさせた。あまりにも圧倒的。夢に見そ
ジョーカーはコミック・ヒーローのキャラクターだが、犯罪映画としての『ダークナイト』とコミック映画としての『ダークナイト』の両方に調和したキャラクターだ。二つの『ダークナイト』の中心的存在であり、そのどちらの状況、社会に対して決定的な影響力を持っていた。
ジョーカーは犯罪者達を突き動かし、一般の社会に対してもこう囁く。
「お前は俺と一緒だ。さあ、引き金を引け。楽になるぞ」と。
ジョーカーには世界をそのものを変容させる力を持っている。それは、本来主人公にのみ許された特権であるはずだった。
だからこう表現すべきである。『ダークナイト』の主人公はジョーカーであると。
ジョーカーは圧倒的存在感で世界に対する影響力を持っているが、しかし何ら主体性を持っていない。彼はただの野良犬に過ぎない。映
ただ気まぐれに吠えて、気まぐれ状況を混乱させるだけ。ただのキチガイぴえろだ。
『ダークナイト』の物語は、途中からどこに流れていくのかわからなく
それはジョーカーがなんの蓋然性も達成目標も持っていないからだ。だから映画は、ジョーカーに引き摺られるように、渾沌とした闇の中を
ジョーカーは不敵に笑いながら、世界に向かって語り始める。
「マフィアはバットマンを殺せば、以前に戻れると思っていた。だが戻りやしない。お前が変えたからだ――永遠に。世間のモラルや倫理なんてものは、善人の戯言だ。足元が脅かされりゃ、ポイ。たちまちエゴむきだしになる。見せてやるよ。いざって時、いかに文明人とかいう連中が争いあうか――」
当初、ジョーカーはマフィアの連中に「バットマンを殺す」と宣言した。だが、はじめから殺す気などなかった。というかバットマンを殺すと、自分の存在意義が無になってしまう。バットマンがいなければ、自分はただの変態男に過ぎない、とジョーカーは冷静な部分で理解している。
ジョーカーの動機は、バットマンを殺そうと行動することで、社会がどのように変質し、人間の世界が混乱するか――人々が狂気に狂うさまを見て、愉しみたかっただけだ。それがジョーカーという人間であり、ジョーカーはジョーカーのやり方で、世界そのものを具体的方法で啓蒙したのだ。
自分のような人間が世界に注目されるように。そして世界が元通りにならないように。世界の視点、ベクトルを自分の都合のいい方向に転換させたのだ。
犯罪映画としての世界が変質し、混乱が深まっていくと、不思議とコミックヒーローとの距離が接近していく。世界が超現実の領域に踏み込み、むしろコミック的な状況に突入していく。
次第に、犯罪映画という風景の中から、ジョーカーとバットマンの二人が際立ち始める。そうなると映画はクライマックスに向けて、ジョーカーVSバットマンという構造を完成させていく。ジョーカーがひたすら世界を引っ掻き回した結果、犯罪映画はバットマンの存在を必要とし始めたのだ。
『ダークナイト』は「何が起きるかわからない」という緊張感を久し振りに感じた映画だった。
強烈なキャラクターに、重厚なディティールを持った描写。状況のなにもかもが、大きな歯車のひとつに過ぎない。しかし、次第に状況は変質していき、バットマンとジョーカーという変質者を2大ヒーローとして浮かび上がらせていく。
『ダークナイト』はコミック原作映画としての、新しい境地を踏み込んだ作品だ。
映画記事一覧
作品データ
監督:クリストファー・ノーラン
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード ハンス・ジマー
脚本:ジョナサン・ノーラン クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベイル マイケル・ケイン
〇〇〇ヒース・レジャー ゲイリー・オールドマン
〇〇〇アーロン・エッカート マギー・ギレンホール
〇〇〇モーガン・フリーマン エリック・ロバーツ
PR