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■2009/09/17 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
16
まといが先頭に立って走り始めた。
「こっちです! 早く脱出しましょう!」
私たちはまといに続いて、廊下を走った。
廊下は細く、複雑に折れ曲がり、何度も分岐していた。大広間を突っ切り、階段をいくつも駆け上った。どこを見ても照明は暗く、床にも壁にも飾りはなかった。同じ場所を走っているような錯覚に陥るような気がした。
でも次の階段を登ると、市松模様の床が現れた。折り返すと、長く続く廊下があった。そこは、ちょうど階段の裏の陰に隠れた場所になっていた。
私たちは尚も走った。走りながら、私は廊下に並ぶ窓に目を向けた。窓の外は月明かりで暗く、針葉樹林が眼下に見えた。ここは2階なのだ。
廊下が正面と左の二手に分かれた。まといは迷いなく左に曲がった。私たちもまといに続いて左に曲がった。
するとそこは、広い円形のホールになっていた。中央が少し落ち窪んで、円を重ねるような階段と繋がっていた。天井は高く、ドーム状になって月の光が広場の中央に落ちていた。その光の中に、セーラー服姿の可符香が立っていた。
私たちは、可符香に気付いて足を止めた。
「よかった。風浦さん、あなただけ見つからなかったんですよ。さあ、こちらへ」
糸色先生が安堵の息をついて、階段を降りて可符香の前に進もうとした。
可符香はふわりと微笑み、スキップするような軽やかさで糸色先生の元に向かった。
私はわかっているのに、すぐに言葉にできなかった。姿形はそっくりだけど、あれは可符香じゃない。瞳は強い赤で輝いていたし、髪型は可符香そっくりに整えられていたけど髪留めを右につけている。
あれは、あれは……。
「先生、違う! あの子は可符香ちゃんじゃない!」
私はやっと頭の配線が繋がって、叫ぶような声をあげた。
でも遅かった。可符香が糸色先生の胸に飛び込んだ。糸色先生の体がくの形に折れて崩れかけた。
「風浦さん……」
糸色先生の顔が驚愕に凍り付いていた。可符香に屈服するように、膝をついた。その腹に、銀色に輝くナイフの柄が見えた。
可符香が糸色先生から一歩離れた。可符香とは明らかに違う、冷たく、それでいて恍惚の混じった微笑を浮かべて糸色先生を見下ろしていた。
「ちょっと、風浦さん何をしているの。」
千里が可符香の前に進み出て、その肩をつかもうとした。
可符香が振り返った。いきなり踏み込み、千里の肩を突き飛ばした。千里が尻をついた。
可符香は素早く背中に手を回した。掌で、きらりと輝くものが踊った。バタフライナイフだ。
可符香がナイフを振り上げた。千里があっと驚きを浮かべた。
しかし、ナイフは落ちなかった。その手前に、分厚い本が遮っていた。私は改めて、何が起きたのか確かめた。
可符香の前に、藤吉が立ち塞がっていた。可符香のナイフは、コミックマーケット案内本に突き刺さって塞がれていた。
可符香が表情を歪ませて、ナイフを持つ手に力を込めていた。だけど藤吉も、全身で踏ん張って押し返そうとしていた。ナイフの刃が、分厚い本をえぐる。可符香はじりじりとその刃先を藤吉の顔に近づけようとしていた。
いきなり可符香が踏み込んだ。藤吉の腹に膝蹴り。藤吉は体をつんのめさせて手からコミックマーケット案内本を落とした。
さらに可符香が踏み込んだ。鋭い爪が襲い掛かる。藤吉の顔がのけぞり、眼鏡が吹っ飛んだ。
「危ない! 藤吉さん逃げて!」
私は千里を抱き起こしながら、警告の声をあげた。
「いいえ、いいのよ。晴美は本来、視力が良すぎるの。あれは、視力を抑えるための眼鏡よ」
「もしかして、漫画を読むために?」
冷静に解説する千里に、私は驚いて振り返った。
可符香が背中に手を回した。3本目のバタフライナイフが可符香の掌で踊った。
先に藤吉が踏み込んだ。可符香の手から、バタフライナイフが落ちた。
可符香が一歩下がった。藤吉は追いかけるように踏み込み、拳を繰り出した。可符香は藤吉の攻撃を流して、間合いに飛び込んだ。藤吉はとっさにガードする。可符香は、藤吉のガードを崩し、顔に肘鉄を食らわした。
藤吉の足元がふらつく。可符香は拳を振り上げた。だが藤吉は踏み込んで、足を払った。可符香がバランスを崩す。瞬間、藤吉が勢いよく地面を踏んだ。強烈な一撃に、可符香が腹を押えてぺたりと座り込んでしまった。掌抵の一撃だった。
藤吉が、ふっと緊張を解いた。可符香がはっと顔を上げた。掴みかかろうと、飛びついた。
これまでにない音が、空間一杯に響いた。藤吉が地面を蹴り、肩をぶつけたのだ。可符香の体が数メートル吹っ飛び、地面に叩きつけられた。今度はすぐには起き上がれないらしく、可符香は苦しそうに咳き込んで体をひくひくとさせていた。
藤吉が、悠然とした足取りで可符香の前に進んだ。
「顔、殴られたくなかったら、走って逃げなさい」
藤吉が凛とした強い言葉で、可符香を見下ろした。
可符香の顔に、強烈な屈辱が浮かんだ。しかし可符香は攻撃に移らなかった。ふらふらする足で立ち上がると、ホールから逃げ出し、側の部屋に飛び込んでいった。
次回 P059 第5章 ドラコニアの屋敷17 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P058 第5章 ドラコニアの屋敷
16
まといが先頭に立って走り始めた。
「こっちです! 早く脱出しましょう!」
私たちはまといに続いて、廊下を走った。
廊下は細く、複雑に折れ曲がり、何度も分岐していた。大広間を突っ切り、階段をいくつも駆け上った。どこを見ても照明は暗く、床にも壁にも飾りはなかった。同じ場所を走っているような錯覚に陥るような気がした。
でも次の階段を登ると、市松模様の床が現れた。折り返すと、長く続く廊下があった。そこは、ちょうど階段の裏の陰に隠れた場所になっていた。
私たちは尚も走った。走りながら、私は廊下に並ぶ窓に目を向けた。窓の外は月明かりで暗く、針葉樹林が眼下に見えた。ここは2階なのだ。
廊下が正面と左の二手に分かれた。まといは迷いなく左に曲がった。私たちもまといに続いて左に曲がった。
するとそこは、広い円形のホールになっていた。中央が少し落ち窪んで、円を重ねるような階段と繋がっていた。天井は高く、ドーム状になって月の光が広場の中央に落ちていた。その光の中に、セーラー服姿の可符香が立っていた。
私たちは、可符香に気付いて足を止めた。
「よかった。風浦さん、あなただけ見つからなかったんですよ。さあ、こちらへ」
糸色先生が安堵の息をついて、階段を降りて可符香の前に進もうとした。
可符香はふわりと微笑み、スキップするような軽やかさで糸色先生の元に向かった。
私はわかっているのに、すぐに言葉にできなかった。姿形はそっくりだけど、あれは可符香じゃない。瞳は強い赤で輝いていたし、髪型は可符香そっくりに整えられていたけど髪留めを右につけている。
あれは、あれは……。
「先生、違う! あの子は可符香ちゃんじゃない!」
私はやっと頭の配線が繋がって、叫ぶような声をあげた。
でも遅かった。可符香が糸色先生の胸に飛び込んだ。糸色先生の体がくの形に折れて崩れかけた。
「風浦さん……」
糸色先生の顔が驚愕に凍り付いていた。可符香に屈服するように、膝をついた。その腹に、銀色に輝くナイフの柄が見えた。
可符香が糸色先生から一歩離れた。可符香とは明らかに違う、冷たく、それでいて恍惚の混じった微笑を浮かべて糸色先生を見下ろしていた。
「ちょっと、風浦さん何をしているの。」
千里が可符香の前に進み出て、その肩をつかもうとした。
可符香が振り返った。いきなり踏み込み、千里の肩を突き飛ばした。千里が尻をついた。
可符香は素早く背中に手を回した。掌で、きらりと輝くものが踊った。バタフライナイフだ。
可符香がナイフを振り上げた。千里があっと驚きを浮かべた。
しかし、ナイフは落ちなかった。その手前に、分厚い本が遮っていた。私は改めて、何が起きたのか確かめた。
可符香の前に、藤吉が立ち塞がっていた。可符香のナイフは、コミックマーケット案内本に突き刺さって塞がれていた。
可符香が表情を歪ませて、ナイフを持つ手に力を込めていた。だけど藤吉も、全身で踏ん張って押し返そうとしていた。ナイフの刃が、分厚い本をえぐる。可符香はじりじりとその刃先を藤吉の顔に近づけようとしていた。
いきなり可符香が踏み込んだ。藤吉の腹に膝蹴り。藤吉は体をつんのめさせて手からコミックマーケット案内本を落とした。
さらに可符香が踏み込んだ。鋭い爪が襲い掛かる。藤吉の顔がのけぞり、眼鏡が吹っ飛んだ。
「危ない! 藤吉さん逃げて!」
私は千里を抱き起こしながら、警告の声をあげた。
「いいえ、いいのよ。晴美は本来、視力が良すぎるの。あれは、視力を抑えるための眼鏡よ」
「もしかして、漫画を読むために?」
冷静に解説する千里に、私は驚いて振り返った。
可符香が背中に手を回した。3本目のバタフライナイフが可符香の掌で踊った。
先に藤吉が踏み込んだ。可符香の手から、バタフライナイフが落ちた。
可符香が一歩下がった。藤吉は追いかけるように踏み込み、拳を繰り出した。可符香は藤吉の攻撃を流して、間合いに飛び込んだ。藤吉はとっさにガードする。可符香は、藤吉のガードを崩し、顔に肘鉄を食らわした。
藤吉の足元がふらつく。可符香は拳を振り上げた。だが藤吉は踏み込んで、足を払った。可符香がバランスを崩す。瞬間、藤吉が勢いよく地面を踏んだ。強烈な一撃に、可符香が腹を押えてぺたりと座り込んでしまった。掌抵の一撃だった。
藤吉が、ふっと緊張を解いた。可符香がはっと顔を上げた。掴みかかろうと、飛びついた。
これまでにない音が、空間一杯に響いた。藤吉が地面を蹴り、肩をぶつけたのだ。可符香の体が数メートル吹っ飛び、地面に叩きつけられた。今度はすぐには起き上がれないらしく、可符香は苦しそうに咳き込んで体をひくひくとさせていた。
藤吉が、悠然とした足取りで可符香の前に進んだ。
「顔、殴られたくなかったら、走って逃げなさい」
藤吉が凛とした強い言葉で、可符香を見下ろした。
可符香の顔に、強烈な屈辱が浮かんだ。しかし可符香は攻撃に移らなかった。ふらふらする足で立ち上がると、ホールから逃げ出し、側の部屋に飛び込んでいった。
次回 P059 第5章 ドラコニアの屋敷17 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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