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■2009/08/27 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
13
時田を先頭にして、可符香、私という順番で地下の秘密の部屋を後にした。和室に戻ると、辺りはもう暗くなっていた。暗い部屋に、白い障子の色が浮かんでいた。
障子を開けると、廊下を挟んで手前に庭が現れた。全体が緑の苔に覆われ、照葉樹林がぽつぽつと立ち、奥に池があった。そんな中を、飛び石が点々と続いている。そんな風景にも夜の影が落ちかけていて、池が青い空の光を映していた。
「私は必要な道具をそろえてきます。しばし、ここでお待ちを」
「はい、わかりました」
時田は私と可符香に丁寧なお辞儀をすると、廊下の向うへと去っていった。
時田が去っていくと、なんとなく緊張から解放される気持ちになった。廊下を支える柱にもたれかかり、ぼんやりと庭園を眺める。
すると、近くでばたばたと走る音が聞こえた。さっきまで私たちがいた和室を挟んだ向こう側の廊下だ。そこを、誰かが走っていた。
「先生の奴、どこへ行ったのよ! いない、いない!」
苛立った千里の声だった。
私は頭を起こして、開けたままの障子に目を向けた。そのとき、向こう側の障子がぱっと開いて、千里が顔を出した。私は、とっさに目の前を掌で遮った。千里も同じようにしていた。ここにいると、確かに変なスキルが身につきそうだった。
「あら、あなたたち。糸色先生、見なかった?」
千里は私と可符香の姿を確認すると、節目がちにしたまま私たちに近付いてきた。
「ああ、千里ちゃん。先生だったら……」
と言いかけようとしたけど、
「目で見ようとするから見えないんだよ。心の目で見れば、全てが見えるんだよ!」
可符香の力強い助言が、私を遮った。
私は「え?」となって可符香と千里を交互に見た。千里は少し考えるふうにうつむき、顎をなでていた。
「わかったわ。心の目で見るのね。」
千里が納得したように言って、顔を上げた。
「千里ちゃん、何を言ってるの?」
私は困惑気味に千里と可符香の二人を見ようとする。
千里が目を閉じた。手の指を組み合わせて、何か念じるふうに「う~ん」と唸り始めた。
辺りの空気が、急に冷たく張り詰め始めた。夕暮れの闇が急に深くなっていく。風が力を持ち始め、私たちを取り巻くのを感じた。
その刹那、千里の額がかっと開いた。そこに、もう一つの目が現れていた。
「見えた! 先生は今、屋敷の西にいる。坑道らしき場所で眠っている!」
千里は託宣を受けたイタコのように声が震えていた。
「これは千里ちゃん。まさに千里眼!」
可符香が物凄い発見をしたふうに声をあげた。
「それを言いたいために、こんな不気味なことになってるの?」
私は非難するつもりで、可符香を振り返った。
だが、千里の千里眼はまだ終わりではなかった。千里はさらに深く念じ始めていた。辺りを取り巻く風が力を強めていく。障子がガタガタ揺れて、着物の裾がはためき始めた。
「見える! 見えるぞ! この国の未来が。悪い方向に向かっておるぞ、悪い方向に向かっておるぞォ! 政治基盤が崩壊し、隣国の植民地になる様が見えるぞ! 日本人が愚かな世論に扇動されて、自滅していく様が見えるぞ! 今こそ、行動の時ぞ。日本を崩壊から救うのじゃァァ!」
「千里ちゃん、正気に戻って!」
千里の声が明らかに別人の声になりかけていた。どうやら本当に何かが取り付いたらしかった。
次回 P038 第4章 見合う前に跳べ14 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P037 第4章 見合う前に跳べ
13
時田を先頭にして、可符香、私という順番で地下の秘密の部屋を後にした。和室に戻ると、辺りはもう暗くなっていた。暗い部屋に、白い障子の色が浮かんでいた。
障子を開けると、廊下を挟んで手前に庭が現れた。全体が緑の苔に覆われ、照葉樹林がぽつぽつと立ち、奥に池があった。そんな中を、飛び石が点々と続いている。そんな風景にも夜の影が落ちかけていて、池が青い空の光を映していた。
「私は必要な道具をそろえてきます。しばし、ここでお待ちを」
「はい、わかりました」
時田は私と可符香に丁寧なお辞儀をすると、廊下の向うへと去っていった。
時田が去っていくと、なんとなく緊張から解放される気持ちになった。廊下を支える柱にもたれかかり、ぼんやりと庭園を眺める。
すると、近くでばたばたと走る音が聞こえた。さっきまで私たちがいた和室を挟んだ向こう側の廊下だ。そこを、誰かが走っていた。
「先生の奴、どこへ行ったのよ! いない、いない!」
苛立った千里の声だった。
私は頭を起こして、開けたままの障子に目を向けた。そのとき、向こう側の障子がぱっと開いて、千里が顔を出した。私は、とっさに目の前を掌で遮った。千里も同じようにしていた。ここにいると、確かに変なスキルが身につきそうだった。
「あら、あなたたち。糸色先生、見なかった?」
千里は私と可符香の姿を確認すると、節目がちにしたまま私たちに近付いてきた。
「ああ、千里ちゃん。先生だったら……」
と言いかけようとしたけど、
「目で見ようとするから見えないんだよ。心の目で見れば、全てが見えるんだよ!」
可符香の力強い助言が、私を遮った。
私は「え?」となって可符香と千里を交互に見た。千里は少し考えるふうにうつむき、顎をなでていた。
「わかったわ。心の目で見るのね。」
千里が納得したように言って、顔を上げた。
「千里ちゃん、何を言ってるの?」
私は困惑気味に千里と可符香の二人を見ようとする。
千里が目を閉じた。手の指を組み合わせて、何か念じるふうに「う~ん」と唸り始めた。
辺りの空気が、急に冷たく張り詰め始めた。夕暮れの闇が急に深くなっていく。風が力を持ち始め、私たちを取り巻くのを感じた。
その刹那、千里の額がかっと開いた。そこに、もう一つの目が現れていた。
「見えた! 先生は今、屋敷の西にいる。坑道らしき場所で眠っている!」
千里は託宣を受けたイタコのように声が震えていた。
「これは千里ちゃん。まさに千里眼!」
可符香が物凄い発見をしたふうに声をあげた。
「それを言いたいために、こんな不気味なことになってるの?」
私は非難するつもりで、可符香を振り返った。
だが、千里の千里眼はまだ終わりではなかった。千里はさらに深く念じ始めていた。辺りを取り巻く風が力を強めていく。障子がガタガタ揺れて、着物の裾がはためき始めた。
「見える! 見えるぞ! この国の未来が。悪い方向に向かっておるぞ、悪い方向に向かっておるぞォ! 政治基盤が崩壊し、隣国の植民地になる様が見えるぞ! 日本人が愚かな世論に扇動されて、自滅していく様が見えるぞ! 今こそ、行動の時ぞ。日本を崩壊から救うのじゃァァ!」
「千里ちゃん、正気に戻って!」
千里の声が明らかに別人の声になりかけていた。どうやら本当に何かが取り付いたらしかった。
次回 P038 第4章 見合う前に跳べ14 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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