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■2009/08/25 (Tue)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
11
巨大ディスプレイに表示された時計が、17時を指した。地下の部屋には光は入ってこないけど、そろそろ夕暮れの時間だ。
留まっていた点のひとつが、活発な動きを始めた。糸色先生が動き出したのだ。
すぐさま二つの点が、糸色先生に気付いて急速な追尾を始める。もちろん千里とまといだ。
時田が状況の変化を察して、キーボードを叩いた。椅子の前にカウンターが置かれ、そこにキーボードとドラックボールがあった。どうやらディスプレイとキーボードの仲立ちをしているのは一般的なパソコンらしい。
地図だけを表示していたディスプレイに、小さなウインドウがいくつも開いた。監視カメラの映像と繋がっているらしく、屋敷の様子を天井の高さから映し出した。
監視カメラの映像は、青く沈み始めている。常夜灯や石灯篭にオレンジの光が宿りつつある。その最中を、糸色先生が必死の様子で走っていた。その後を、千里とまといが追跡している。監視カメラを映すウインドウが次々に開いて、糸色先生の姿を追尾していった。
私ははらはらと監視カメラの向うで展開する追跡劇を見守った。やはり糸色先生を応援していた。そこを右、掴まっちゃ駄目、と心の中で声援を送った。
糸色先生は屋敷の内部を熟知しているし、逃げ足は抜群に速かった。屋敷の中を自由に動き回り、巧みに千里とまといの追跡をかわしていく。
糸色先生は、やがて千里とまといの追跡を逃れて庭の裏手へと潜り込んでいった。糸色先生の姿が、監視カメラから外れた。地図上の点が、ゆっくり奥へ奥へと進んでいった。
先生の行く先に、蔵が現れた。地図上の点は、少し躊躇うように留まり、それから蔵の中へ入っていった。
蔵の中にも監視カメラが仕掛けられてあった。糸色先生の姿が再び監視カメラに映し出された。
蔵は僅かな常夜灯の明かりがあるだけだった。画像は粒子が粗く、ぼんやりと蔵の全体像と糸色先生の姿を浮かび上がらせている。糸色先生は慎重に重そうな鉄扉を閉じて、蔵の中を見回していた。
蔵の中はいくつもの棚が並び、つづらが整然と並んでいた。当り前だけど人の気配はない。糸色先生は、少し蔵の奥へと入っていくと、地面に置かれた箱に座り、呼吸を整えるように深呼吸していた。
しかし、蔵の奥から何かがのそりと動いた。小森霧だった。小森霧は白い着物を着ていて、やはりタオルケットを肩から掛けていた。
糸色先生が霧に気がついた。びっくりしたように箱から滑り落ちた。霧がゆっくりと糸色先生に近付こうとしていた。
「どうやら、会話しているようですな。音声を拾ってみましょう」
時田がウインドウのスピーカーボタンをクリックした。だけど、ノイズばかりでとても人の声なんて聞こえなかった。時田は素早くプロパティ画面を呼び出し、音の波長からその一部を抜き出した。
「……学校から拉致されて、宅配便で運ばれてきたんだよ」
ノイズが消えて、霧の細く消え入りそうな声が聞こえてきた。
「それで今度は蔵に引きこもっているというわけですか。まあ蔵には、何かしら引きこもっているものですからね。でも、小森さんで安心しました。髪の毛で目が合うこともないですからね」
糸色先生が警戒を解いて、霧を振り向こうとした。
霧はさっと顔を隠す髪を掻き分けた。
「っと、やっぱり危険な気がするので、見ないほうがいいです」
糸色先生はとっさの判断で目を背けた。私も見合いの儀終了かと思ってどきりとしていた。
「先生、私を見て」
霧が前髪を掻き分けたまま、糸色先生に近付いた。
「見ません!」
糸色先生は目を逸らしたまま、蔵の入口に戻り始める。
「私、家のことなら何でもでるよ。ねえ、先生」
霧の声に、訴えるような切なさがこもった。霧の肩からタオルケットが落ちた。水色と赤色で構成された、着物の幾何学模様が見えた。霧は糸色先生を追い詰めようと、歩調を速めて迫った。
糸色先生は入口附近で折り返して、別の通路に飛び込んだ。そのまま蔵の奥に向かって駆け出す。霧は一瞬虚を突かれ、タオルケットを拾おうと振り返った。その間に糸色先生を見失ったみたいだった。霧は、棚と棚に挟まれた通路を順番に見て回った。しかし、糸色先生の姿は見つけられないようだった。
次回 P036 第4章 見合う前に跳べ12 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P035 第4章 見合う前に跳べ
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巨大ディスプレイに表示された時計が、17時を指した。地下の部屋には光は入ってこないけど、そろそろ夕暮れの時間だ。
留まっていた点のひとつが、活発な動きを始めた。糸色先生が動き出したのだ。
すぐさま二つの点が、糸色先生に気付いて急速な追尾を始める。もちろん千里とまといだ。
時田が状況の変化を察して、キーボードを叩いた。椅子の前にカウンターが置かれ、そこにキーボードとドラックボールがあった。どうやらディスプレイとキーボードの仲立ちをしているのは一般的なパソコンらしい。
地図だけを表示していたディスプレイに、小さなウインドウがいくつも開いた。監視カメラの映像と繋がっているらしく、屋敷の様子を天井の高さから映し出した。
監視カメラの映像は、青く沈み始めている。常夜灯や石灯篭にオレンジの光が宿りつつある。その最中を、糸色先生が必死の様子で走っていた。その後を、千里とまといが追跡している。監視カメラを映すウインドウが次々に開いて、糸色先生の姿を追尾していった。
私ははらはらと監視カメラの向うで展開する追跡劇を見守った。やはり糸色先生を応援していた。そこを右、掴まっちゃ駄目、と心の中で声援を送った。
糸色先生は屋敷の内部を熟知しているし、逃げ足は抜群に速かった。屋敷の中を自由に動き回り、巧みに千里とまといの追跡をかわしていく。
糸色先生は、やがて千里とまといの追跡を逃れて庭の裏手へと潜り込んでいった。糸色先生の姿が、監視カメラから外れた。地図上の点が、ゆっくり奥へ奥へと進んでいった。
先生の行く先に、蔵が現れた。地図上の点は、少し躊躇うように留まり、それから蔵の中へ入っていった。
蔵の中にも監視カメラが仕掛けられてあった。糸色先生の姿が再び監視カメラに映し出された。
蔵は僅かな常夜灯の明かりがあるだけだった。画像は粒子が粗く、ぼんやりと蔵の全体像と糸色先生の姿を浮かび上がらせている。糸色先生は慎重に重そうな鉄扉を閉じて、蔵の中を見回していた。
蔵の中はいくつもの棚が並び、つづらが整然と並んでいた。当り前だけど人の気配はない。糸色先生は、少し蔵の奥へと入っていくと、地面に置かれた箱に座り、呼吸を整えるように深呼吸していた。
しかし、蔵の奥から何かがのそりと動いた。小森霧だった。小森霧は白い着物を着ていて、やはりタオルケットを肩から掛けていた。
糸色先生が霧に気がついた。びっくりしたように箱から滑り落ちた。霧がゆっくりと糸色先生に近付こうとしていた。
「どうやら、会話しているようですな。音声を拾ってみましょう」
時田がウインドウのスピーカーボタンをクリックした。だけど、ノイズばかりでとても人の声なんて聞こえなかった。時田は素早くプロパティ画面を呼び出し、音の波長からその一部を抜き出した。
「……学校から拉致されて、宅配便で運ばれてきたんだよ」
ノイズが消えて、霧の細く消え入りそうな声が聞こえてきた。
「それで今度は蔵に引きこもっているというわけですか。まあ蔵には、何かしら引きこもっているものですからね。でも、小森さんで安心しました。髪の毛で目が合うこともないですからね」
糸色先生が警戒を解いて、霧を振り向こうとした。
霧はさっと顔を隠す髪を掻き分けた。
「っと、やっぱり危険な気がするので、見ないほうがいいです」
糸色先生はとっさの判断で目を背けた。私も見合いの儀終了かと思ってどきりとしていた。
「先生、私を見て」
霧が前髪を掻き分けたまま、糸色先生に近付いた。
「見ません!」
糸色先生は目を逸らしたまま、蔵の入口に戻り始める。
「私、家のことなら何でもでるよ。ねえ、先生」
霧の声に、訴えるような切なさがこもった。霧の肩からタオルケットが落ちた。水色と赤色で構成された、着物の幾何学模様が見えた。霧は糸色先生を追い詰めようと、歩調を速めて迫った。
糸色先生は入口附近で折り返して、別の通路に飛び込んだ。そのまま蔵の奥に向かって駆け出す。霧は一瞬虚を突かれ、タオルケットを拾おうと振り返った。その間に糸色先生を見失ったみたいだった。霧は、棚と棚に挟まれた通路を順番に見て回った。しかし、糸色先生の姿は見つけられないようだった。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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