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■2016/07/31 (Sun)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
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28
高田はツグミを抱きかかえながら、階段を降りていった。1階に下りると、真っ白な照明がいくつも点いていた。何人もの刑事がいた。制服の警官もいた。警察官にねじ伏せられている男たちがいた。何人かが、ツグミと高田を振り向いて、敬礼を送った。
ツグミは、まだ何が起きているのかわからなかった。警察がどうしてここにいるのか、どうして自分の居場所を知っていたのか、わからなかった。
高田が廃墟の外に出た。海とは反対方向で、波の音が背後に聞こえた。
廃墟の手前は、寂れた道路だった。道路が幅が広く、人の気配は全くなかった。ぽつぽつと照明があるだけで、暗かった。
深夜の道路は、闇が深く、波の音しかしなかった。そんな道路の向こうの角から、パトカーの警光灯が現れた。パトカーに続いて、覆面車のセダンや救急車が続いた。
静かな通りはあっという間にパトカーで一杯になった。暗い通りが、赤色灯の光で満たされた。サイレン音がうるさいほどに周囲を包んだ。
救急車の後部ハッチが開いて、救命士が2人降りてきた。救急車はストレッチャーを準備して、高田の前に走ってきた。高田も救命士の許に走った。
その時、突然、ダーンッと破裂音がした。銃声だ。廃墟全体を揺らすような、重々しい音だった。銃声は2発連続で繰り返された。
パトカーから顔を出した捜査員が、一斉に廃墟を注目した。先までと違う緊張感で、騒然となり始めた。
高田がツグミをストレッチャーに乗せた。すぐに救命士2人がツグミの体を調べようとした。
「待って! 待って!」
ツグミは救命士たちの手を振り払い、行こうとする高田の手を掴んだ。
「川村さんを助けてあげて!」
「誰ですか?」
高田がツグミの振り返った。さっきの銃声を聞いたからか、顔が強張っていた。
ツグミはジーンズのポケットから、川村の写真を引っ張り出した。
「この人です。まだ、あの建物の中にいます。私の大切な人なんです」
「わかりました。必ず探します」
高田が川村の写真を受け取って、頷いた。
ツグミはやっと安心して、ストレッチャーに横になった。ストレッチャーは、スムーズに救急車の中に入っていった。
ツグミの後を追うように、ストレッチャーがもう1台、救急車の中に入ってきた。ツグミは顔を右に向けて、横に並んだストレッチャーを見た。ヒナだった。
ヒナは顔の左半分を真っ赤に腫れ上がらせていた。首元に血が付いていて、髪もグシャグシャだった。
ヒナはツグミを振り向いて、軽く微笑んだ。ちょっと無理した感じの微笑だったけど、いつもの優しさがあった。
ツグミも微笑み返そうとした。しかし、急に意識が遠のくのを感じた。安心したせいか、体から緊張をなくしてしまった。
ツグミは自然と目蓋が落ちてきた。暗闇が安らかにツグミを包むみたいだった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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