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■2016/07/30 (Sat)
第14章 最後の戦い

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22
 ソフィーは地下への階段を駆け下りていった。背後で爆音と怒声が入り交じったものが何度も轟いた。だが今は振り返っている時ではなかった。
 いつ兵士が追いかけてくるかわからない。ソフィーは急いで階段を駆け下りていった。
 ようやく地下の回廊に出た。回廊は暗く、青い炎で浮かび上がっていた。宝が収められた扉が並んでいる。
 ソフィーはそこまでやってきてまごついてしまった。あの石版が収められている部屋は? 鍵は? 1つ1つ扉を吹き飛ばしていくしかない。ソフィーはそう考えた。
 と、そこに気配がした。ソフィーははっとして、振り向きざまに杖を身構えた。
 すると、それは顔なじみの老人であった。

ソフィー
「お、おじいさん」
管理人
「あなたは――ソフィー様ですか」

 ソフィーは慌てて杖を引っ込めた。

ソフィー
「失礼しました。――しかし何故? 王が代わって兵士はみんな入れ替えられたと思っていたのですが……」
管理人
「地上の政治はここまでは滅多に及びません。それに、私以上にこの場所を詳しく知る者はおりませんから。他に適任者がいなかったのですよ」
ソフィー
「そうですか。でも良かった。急いでお願いします。封印の魔法が記された石版が保管されている部屋までお願いします」
管理人
「お任せを」

 管理人は老人の足で、できるだけ急いで歩き、目的の扉までソフィーを案内した。鍵が開くまで、ソフィーは兵士がやってこないか気にして何度も振り返った。
 鍵が開いた。中へ入ってく。内部の様子は、時が止まったように何一つ変わっていなかった。棚に、無数の石版が収められていた。
 ソフィーは迷わず奥へと入っていく。あの石版も、台座に置かれたまま、動かされていなかった。

管理人
「しかし、この文字を読める者はおりません。書いた者にしか読めぬこの文字、さすがにあなた様にも……」
ソフィー
「私にはわかるのです。私に読めぬ文字などありません。書いた者も、いずれ『真理』を持つ者が解読しにやって来ると知っていたのでしょう」
管理人
「まさか、あなたが……」

 ソフィーは今一度気持ちを落ち着けて、石版の前までやってきた。文字盤の最初の1行を、指で触れた。

ソフィー
「……やはりそうだったのね」

 ソフィーは文字盤に描かれている文字を読み上げた。それは聞いたことのない言語による呪文のようだった。ソフィーはその言葉を、少しも淀まずに、正確に韻律を踏んで唱えた。
 すると、四方に置かれた青い炎が強く輝いた。炎が渦を巻き、台座を中央にしてぐるぐると回転し始める。それはやがて速度を緩めると、部屋の空間に青く輝く文字を残した。

管理人
「……これは」

 台座を中心に、無数の言葉が溢れていた。様々な国、様々な時代の文字が入り乱れた文字だった。それらの文字が、短い散り散りの文節に切り取られ、ばらばらの状態で浮かんでいた。

ソフィー
「この石版に描かれていたのは、これを呼び起こすための呪文のみです。どうやら、ここに本当の答えが記されているようですね。今では失われた文字が多くありますが、私に読めない文字などありません」

 ソフィーは千切れた文字を指ですくいあげると、別の文字と繋ぎ合わせた。文字を繋ぎ、言葉を作り始める。
 間もなく空間のなかに、円形をした巨大な文字盤が浮かび始めた。ソフィーは言葉を組み上げながら、できあがった文字を目で追いかけ、瞬時に記憶した。
 ソフィーは最後の文字を繋げた。すると突如として文字が元の炎に戻ってぐるぐると渦を巻き始めた。

ソフィー
「いけない!」

 ソフィーはとっさに台座から離れて、老人の前に立つと、魔術の盾を作りだした。
 爆発が起きた。文字盤は石版とともに弾け飛んだ。部屋中に破片が飛び散る。

管理人
「……一体何が」

 管理人は腰を抜かした様子で、茫然としていた。
 ソフィーが力なく首を振った。

ソフィー
「どうやら役目を終えたようです。私にもようやく意味がわかりました。『真理』が実体なき影に肉体を与えるのなら、『封印』の魔法は実体どころか言葉そのものを削除してしまう……。『消滅』の魔法です。一度きりしか使えず、使ってしまえば、何もかも闇へと封じられてしまう。もしも後の誰かが同じ言葉を思い浮かべても、そこにかつての力は宿らない。魔の者も、魔を操る魔術師の能力も、この魔法を口にした瞬間――すべて失われます」

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