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■2016/08/01 (Mon)
創作小説■
第14章 最後の戦い
前回を読む
23
イーヴォールは膝を着いた。激しい戦いに、辺りには死体が積み上げられている。イーヴォール自身も、全身を刃で切り刻まれ、血に染まっていた。
それでも敵の勢力はまだ血気盛んだった。すでに虫の息であるイーヴォールに最後の剣が迫る。
イーヴォールは地面に手を付けた。床に魔法の衝撃が広がる。壁や天井が弾け飛んだ。兵士は血鮮を残し、破片となって飛び散った。
しかしそれが最後だった。イーヴォールの意識はふつりと途切れて、倒れた。
兵士
「やったぞ! 殺せ! 殺せ!」
兵士達は勝利を確信してイーヴォールに迫ってきた。その体を掴み上げ、喝采の声を上げた。
が、兵士の歓声は急にやんだ。兵士達はある一点を注目し、頭を垂れた。群衆が2つに別れて、何者かが現れる。ブリデン王であり、現ガラティアの城主ヘンリー王だった。
イーヴォール
「…………」
イーヴォールの体に力は残されていなかったが、顔を上げて、ヘンリー王を睨み付けた。
ヘンリー
「……西の魔女であるな。こいつめ、ついに姿を現しおったか。不吉な予言を方々で振りまき、我が同胞を幾人も殺した魔性の女め。ついに先祖の恨みを晴らす時がきたわ!」
イーヴォール
「…………」
怒りにまかせて声を荒げるヘンリー王。だがイーヴォールは、なぜか薄く微笑を浮かべていた。まるで見えざる誰かと対話するように、かすかに口を動かしていた。
ヘンリー
「――この者に考え得るあらゆる拷問を与えよ! 容易に殺してはならんぞ。多くの者たちを悲劇に陥れた罰を、その体にとくと刻みつけてやるのだ。例え朝日が昇ろうとも、この者には決して希望など与えるな! 最後はエドワード2世と同じやり方で処刑しろ。悲鳴が海峡を越えて、我が王国に住む全ての耳に届き、喜びを分かち合えるようにな!」
ヘンリー王は言い捨ててそこを立ち去ろうとした。
イーヴォールはヘンリー王のじっと見ていた。
いや違った。
イーヴォールの目には、ヘンリー王との間に、もう1人男が立っているのが見えていた。それはかつてイーヴォールと取引をした、6本腕の神だった。
僧侶
「よくやった。あんたには拷問は似合わねぇよ」
イーヴォール
「まだ約束は果たしていない」
僧侶
「あいつらがやってくれるさ。お前はよく働いた。千年間も生きた。つらい日々だっただろう。もう充分だ。あんたは充分に務めを果たした」
イーヴォール
「死神らしくない言い草だな」
僧侶
「そっちこそ死神に言う言葉じゃないぜ」
イーヴォール
「そうだな。……ありがとう。最後にはお前達に救われたよ」
6本腕の神が、掌をイーヴォールに伸ばした。その体から、青く輝く珠を抜き取った。
イーヴォールがじっと青く輝く光を見ていた。神はイーヴォールを慈しむような目で見ながら、魂を握りつぶした。
突然に魔法使いの首ががくりと項垂れた。兵士がその様子を見て、騒然と声を上げる。
兵士
「死んでる!」
ヘンリー王も驚いて振り返った。
まだ死ぬような傷ではなかったはずだ。だがそれでも魔女は死んでいた。
思いがけない死に、兵士達が動揺する。ヘンリー王が舌打ちした。
だが魔女の死に顔は、驚くほど穏やかで、かすかな微笑みが浮かんでいた。
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