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■2016/04/28 (Thu)
創作小説■
第6章 イコノロギア
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1
ツグミはヒナの後に従いて、休憩室の外に出た。廊下は相変わらず仄暗い明かりを、床に映していた。今は不気味さはなく、どこかばたばたとした雰囲気があった。
ヒナは早足で階段に向かった。ツグミはヒナの背中を追いかけた。しかし階段の前までやってきて、躊躇ってしまった。ツグミはもともと階段を下りるのが苦手だったけど、この階段は暗く、しかも幅が広い上に手摺りがない。
ヒナは先に階段を下りていった。ツグミは、「置いて行かれる」と思って、階段を下り始めた。1段1段、壁に手をつきながら、慎重に降りていく。
するとヒナが数段下に降りたところで立ち止まった。少し戻ってきてツグミの手を握った。
ツグミは振り返ったヒナの顔を、ちらと見た。ヒナの顔はまだ冷たくて、いつもの優しさがなかった。でもヒナは、ツグミが足を滑らさないようにゆっくりと1段ずつ降りてくれた。
1階に下りて、真っ暗の廊下を通過した。建物の入口は開けたままになっていた。車に乗っていた人はみんな建物の中らしく、周辺の人の影はなかった。
建物の外も真っ暗だった。月明かりがドアの周囲だけをかすかに照らしている。建物を取り囲む藪が、暗い壁になって立ちふさがっていた。
藪が暗闇の中でざわざわと囁きあっていた。きっと風だと思うけど、その向こうに何かが潜んでいるような気がして不気味だった。
ヒナはツグミの手を引いて、駐車スペースまで進んだ。ダイハツ・ムーブの前まで進んで、ヒナはツグミの手を離す。
やっぱりヒナの車だったんや……。
ツグミがこのダイハツ・ムーブを見たのは、あのミレー贋作事件の後だった。妻鳥画廊に置かれていたミレーの真画を回収するために、ヒナは自前の車でやってきた。その時の車がダイハツ・ムーブだった。
それに、福知山市といえば京都だ。ツグミははじめはわからなかったけど、間もなくヒナが左遷された場所を思い出した。
ヒナがキーを取り出し、運転席に乗り込み、助手席のロックを外した。ツグミはドアを開けて、助手席に乗る。この車に乗るのは初めてだった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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