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■2016/04/14 (Thu)
創作小説■
第6章 フェイク
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34
トヨタ・クラウンがトンネルに入った。オレンジの光が車全体を包み込む。オレンジの光で、車の中はむしろ影を濃くした。風を切るような音が、唸るような重さを持って車内を包んだ。
「それで? フェルメールは日本に入ってきた。その後、アンタらが購入した」
ツグミ話の続きを促した。
「その前に例の港湾会社が潰れた。アレが盗み出されたのは1990年だ。日本はまだバブル景気のつもりでいた。ところが、アレがようやく日本に入ってきたのはその4年後……。社会そのものが変わっていた。連中はアレで大儲けするつもりで、あちこちに金を撒いていた。それを回収するまでに、企業を維持する体力がなかったわけだ」
二ノ宮は絵画を『アレ』呼ばわりした。
ツグミは二ノ宮を心から嫌悪した。『アレ』と呼べるから、貴重な絵画を盗めるんだ、と。
「でも、それはアンタらにとっては、都合がよかったんやろ。倉庫から持ち出すだけで良いようになったんやから。それでもアンタらは警戒した。アンタらは来歴を隠すために『絵ころがし』をやった」
車の中とはいえ、トンネルの中の騒音はかなりのものだった。ツグミはいつもより大きな声を出して、二ノ宮を挑発した。
「そんなところだ。我々は『予約』と呼んでいたがね」
二ノ宮が窓の外に目を向けた。ツグミは二ノ宮の横顔を見た。その顔に僅かな打撃が浮かんでいるように見えた。
なぜならばその後、予想もしなかったトラブルが起きたからだ。
絵ころがしの過程で、妨害者が現れたのだ。ツグミの父である太一であり、大原眞人であり、そして川村鴒爾だ。
宮川たちは、フェルメールの『合奏』を恐らく数年後くらいの間に入手するつもりでいたのだろう。しかし8年前、事件が起きて、フェルメールの『合奏』は完全に行方知れずになってしまった。
ツグミにとって、途方もない時間の流れのように思えた。フェルメールが盗み出されてから18年(※)。フェルメールを中心に様々な事件が起きた。今現在も、事件は進行中だ。ツグミは知らないうちに、事件の渦中にいたのだ。8年前のあの日から今に至るまで。
※ 物語の舞台は2008年の設定。執筆当時。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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