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■2016/03/29 (Tue)
第6章 フェイク

前回を読む

26
 モップ頭の青年はすぐにバイクをスタートさせた。廃品工場を出て道路を北側に進める。
 バイクは下山手通りを横切って、また裏通りに入っていった。
 ツグミはしばらくどこなのかわからなかったけど、次第にわかってきた。というより、左手に六甲山脈が見えているから瞭然だった。バイクは東へ真っ直ぐ進んでいた。
 バイクは派手に爆音を鳴らしながら、真っ直ぐに突き進んでいく。信号のない道を選んでいるらしく、ずっと停まらなかった。走るバイクは思った以上に早く、風が突き刺さるように流れ去っていった。コートがバタバタとひらめいた。ツグミは、初めは男の人の背中にドキドキしていたけど、今はバイクの移動感が恐くて、青年の背中にしがみついていた。
 バイクはほぼ直進状態のまま、中央区を出て、灘区に通過し、やがて六甲台町に入ったところで方向を変え、山手側の坂道を登り始めた。
 かなり急な坂道だった。モップ頭の青年の姿勢が、自然と後ろに下がってきた。バイクの速度は落ちたけど、むしろツグミは恐くてすがりつく手に力を込めた。
 ようやくバイクが停まった。目的地到着のようだ。ツグミはどこだろうと、頭を上げた。
 森を背にした、山小屋風の建物が見えた。六甲ケーブル下駅だ。
 ツグミはバイクを降りようとした。まず右脚から降りようとしたけど、脚が地面に届かない。モップ頭の青年がバイクを右に傾けてくれた。ツグミは青年の背中にしがみつきながら、やっと右脚を地面に付けた。それから杖を突き、慎重に脚を広げて左足をバイクから降ろした。
 バイクを降りると、ツグミはすぐにヘルメットを脱いだ。やっとバイクのストレスから、解放された気分になった。思った以上に緊張が強かったらしく、それだけで崩れそうになってしまった。
 モップ頭の青年は、ツグミからヘルメットを受け取ると、ストラップを手に引っ掛けて、すぐにネイキッドを唸らせた。
「あ、あの……ありがとうございます」
 ツグミはモップ頭の青年を引き留めて、深く頭を下げた。
 モップ頭の青年は、1つ、小さく頷いただけだった。ヘルメットをしていたので、どんな表情をしていたのか、わからなかった。
 ネイキッドがその場で素早くターンをした。スタートする瞬間、前輪が高く跳ね上がった。馬の腹を勢いよく蹴ったみたいだった。ネイキッドはあっという間に坂道を滑り落ちていった。
 ツグミはその背中を見送りながら、もう一度頭を下げた。

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目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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