■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2016/03/29 (Tue)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
26
モップ頭の青年はすぐにバイクをスタートさせた。廃品工場を出て道路を北側に進める。バイクは下山手通りを横切って、また裏通りに入っていった。
ツグミはしばらくどこなのかわからなかったけど、次第にわかってきた。というより、左手に六甲山脈が見えているから瞭然だった。バイクは東へ真っ直ぐ進んでいた。
バイクは派手に爆音を鳴らしながら、真っ直ぐに突き進んでいく。信号のない道を選んでいるらしく、ずっと停まらなかった。走るバイクは思った以上に早く、風が突き刺さるように流れ去っていった。コートがバタバタとひらめいた。ツグミは、初めは男の人の背中にドキドキしていたけど、今はバイクの移動感が恐くて、青年の背中にしがみついていた。
バイクはほぼ直進状態のまま、中央区を出て、灘区に通過し、やがて六甲台町に入ったところで方向を変え、山手側の坂道を登り始めた。
かなり急な坂道だった。モップ頭の青年の姿勢が、自然と後ろに下がってきた。バイクの速度は落ちたけど、むしろツグミは恐くてすがりつく手に力を込めた。
ようやくバイクが停まった。目的地到着のようだ。ツグミはどこだろうと、頭を上げた。
森を背にした、山小屋風の建物が見えた。六甲ケーブル下駅だ。
ツグミはバイクを降りようとした。まず右脚から降りようとしたけど、脚が地面に届かない。モップ頭の青年がバイクを右に傾けてくれた。ツグミは青年の背中にしがみつきながら、やっと右脚を地面に付けた。それから杖を突き、慎重に脚を広げて左足をバイクから降ろした。
バイクを降りると、ツグミはすぐにヘルメットを脱いだ。やっとバイクのストレスから、解放された気分になった。思った以上に緊張が強かったらしく、それだけで崩れそうになってしまった。
モップ頭の青年は、ツグミからヘルメットを受け取ると、ストラップを手に引っ掛けて、すぐにネイキッドを唸らせた。
「あ、あの……ありがとうございます」
ツグミはモップ頭の青年を引き留めて、深く頭を下げた。
モップ頭の青年は、1つ、小さく頷いただけだった。ヘルメットをしていたので、どんな表情をしていたのか、わからなかった。
ネイキッドがその場で素早くターンをした。スタートする瞬間、前輪が高く跳ね上がった。馬の腹を勢いよく蹴ったみたいだった。ネイキッドはあっという間に坂道を滑り落ちていった。
ツグミはその背中を見送りながら、もう一度頭を下げた。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
PR