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■2016/03/15 (Tue)
創作小説■
第6章 フェイク
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19
ツグミが椅子に座ったところで、木野が「おや」とツグミのバッグを覗き込んだ。「へえ、それすごくいいバッグですね。どこのやつですか? 見せてくださいよ」
「え、そんな駄目です」
ツグミは思わずバッグを手で隠そうとした。
「見るだけですよぉツグミさん。実は私、鞄コレクターで気になる鞄は見ておきたいんです。中は見ませんから。警察は約束守ります」
木野は眼をキラキラさせて、「是非」と懇願する。
ツグミはどうしようかと迷った。しかしよくよく考えてみれば、バッグに問題ありそうなものは何も入れていない。それにこんなふうに目を輝かせて期待されると、断りづらい。
「じゃあ、見るだけですよ。中は見ないだくださいよ」
ツグミは念を押して、木野にバッグを差し出した。
木野は大喜びでバッグを受け取った。よほど気になったのだろう。木野の喜びに反比例して、ツグミは不安になった。
ここで、高田がツグミに声を掛けてきた。
「ツグミさん、ちょっといいですか。こっちを見てください」
振り向くと、テーブルの上に、資料が何枚か置かれていた。どうやらこれまでに集められた捜査資料らしい。事件が起きた時刻から、車の行方や、目撃証言などが細かく書かれていた。警察はかなりの労力を割いて、今回の事件に集中しているらしかった。
前にも聞いたけど、宮川大河は蛇頭と繋がりのある国際的な犯罪者だ。しかし逮捕しても充分な証拠が見つからず、刑事起訴には至らない。それが今回の誘拐事件は、はじめて宮川の尻尾を掴めるかも知れない事件だ。そういう意味で、警察としては重要度の高い事件らしかった。
しかし、ツグミはどうしても木野が気になって仕方なかった。確かにバッグに問題ありそうな物は入っていないけど、それでもプライベートな代物だ。抵抗感がある。
「木野さん、いい加減にしたらどうですか」
ついに高田のカミナリが木野に落ちた。怒鳴ったのではないが迫力満点だ。ツグミまで首をすくめてしまった。
「ごめんなさい。ツグミさんありがとう。高かったでしょ。牛の本革製ですよ。変なブランドものよりよほど使い勝手がよくて、長く使えますよ」
木野が苦笑いして、バッグをツグミに返した。
「父の遺品ですから」
ツグミはバッグを受け取った。そう、このバッグは父が残していったものの1つだった。
「そうだったんですか。ごめんなさい」
木野は、やっと反省するような顔になった。
ツグミは「最初からそう言えばよかったんだ」と今さら思った。
ツグミは、しばらく高田が提示した資料に集中した。メモや写真を見せられ、いくつか質問をされる。しかし、ツグミに答えられそうなものはあまりなかった。どの情報もツグミの知る範囲を越えるものばかりだった。
それに、ツグミの本心は別のところにあった。今日、必ず岡田から電話がかかってくる。その電話を待って、ツグミは緊張していた。
「ご苦労様です。もう、いいですよ」
いくつかの情報を確認した後で、高田はそういって打ち切った。それから席を立つと、ツグミに背を向けてどこかに電話をする。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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