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■2016/03/17 (Thu)
創作小説■
第6章 フェイク
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20
2時を過ぎる頃、画廊の電話が鳴った。画廊にいた全員が電話を振り返った。「逆探知します」
高田は自分の電話を中断して、別のところに掛け始めた。身代金要求の電話かもしれないからだ。
ツグミは木野に助けられて席を立った。電話機の前まで進み、受話器に手を伸ばしたところで、一度高田を振り返る。高田は頷いて、受話器を取るように促した。
ツグミは受話器を取った。
「妻鳥画廊です」
「おっ、わしや。岡田や。やっと今、準備が終わったで。すぐに出られるか」
岡田の声だった。気楽そうなその声で、画廊に漂った緊張が、一瞬にして氷解する音が聞こえる気がした。
しかしツグミだけは警戒を解かず、高田と木野の様子を確かめた。大丈夫。変なところはなかった。岡田も、こういうところで迂闊な情報を言う人ではない。
「絵の修復ですね。すぐに行きます」
ツグミも何気ない様子を装おうとした。しかし緊張して言葉を噛みそうだった。
「それじゃ、元町2丁目まで来てくれるか」
「元町2丁目。……南京町ですか?」
ツグミは頭の中で、地図を広げた。元町2丁目といえば南京町。神戸の中華街だ。あの辺りは人通りがあまりにも多いから、ツグミはあまり行かない。
「うん。南京町や。そこで待っとぉわ。そういえば嬢ちゃん、携帯、持っとった?」
岡田が確認する調子で訊ねた。
「はい。いま持っています」
岡田が何を聞き出そうとしているのか、それとなく察した。ツグミは本来、携帯電話を持っていない。岡田が訊ねたのは「警察の携帯電話を持っているのか」だ。
「そうか。わかった。じゃあ、南京町で待っとおで」
岡田の電話は一方的に切れてしまった。
いきなり切れたので、ツグミも調子が崩れる感じだった。もう一言二言あるのかなと思っていたから、受話器を耳に当てた状態でしばらく固まってしまった。
「電話番号、言いませんでしたね」
木野が不思議そうにツグミに訊ねた。確かに電話番号のやりとりがありそうな流れだった。
「そうですね」
ツグミも同意して、受話器を置いた。ツグミも岡田が携帯電話の番号を教えてくれるのかと思った。
「こっちでわかりましたから問題ありません。ツグミさん行きましょう。絵画を取り戻します」
高田が携帯電話をしまった。いつの間にか、ニコラ・プッサンの模写の補修が任務の一つになっているみたいだった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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