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■2016/03/19 (Sat)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
21
ツグミは高田と一緒に、セダンに乗った。フロントガラスの向こうの風景を見ながら、ツグミはあれこれと考えた。岡田はどんな計画を立てたのだろう。危険はないだろうか。
せめてその一端でも、知る機会があれば……と思ったのだけど。しかしどんな方法を使っても、ツグミに知らせようとしたら同時に警察にも伝わってしまう。
全部ぶっつけ本番か……。ツグミは緊張して、逃げたいような気持ちにすらなってしまった。プレッシャーを掛けられるのが苦手だった。
何が起きるにしても、高田の手から離れる段階に入る。ツグミは、とにかく心の準備だけはしっかりしておこう、と思った。
高田は丁寧な運転で、高架橋脇の道路を進んだ。この辺りは車道の狭さの割に、車も信号も多い。セダンは信号や渋滞のたびに何度も停まった。
ようやく元町駅までやってきた。
高田は元町駅手前の有料駐車場に入り、セダンを駐めた。セダンから降りると、ツグミを先頭にして歩道に出る。
空が少し曇っているようだった。降りそうな気配はないものの、街の風景が暗く見えた。まだ昼過ぎなのに、高架橋下の影がひどく濃い。
ツグミと高田は、高架下の信号を2つ通り抜けた。この辺りは相変わらず人も車も多い。ツグミのゆっくりの足では、人の流れに押し流され、弾き飛ばされそうだった。
ツグミは時々後ろを従いてくる高田を気にした。高田はぴったりとツグミの背中を守りつつ、周囲に注意を払っていた。
高田はまるで護衛みたいで頼もしかった。できれば一緒にいたいと思ったけど、間もなく別れなければならないのがつらく思えた。
ツグミと高田は吉野屋の横を通り抜けて、アーケードに入った。この辺りが元町2丁目だ。
アーケードは天井が高く、道幅も広い。アーケードの天井は柔らかく光を通し、地面が敷石になっていた。今日は日が曇っているので、アーケード全体が色彩を失っていた。
ツグミと高田は、元町のアーケードを潜り抜けて、南京町の入口に進んだ。
南京町の入口である西安門を潜り抜けると、急にものすごい量の人混みとぶつかった。人通りが激しくて、人の壁がそこで遮っているようにすら見えてしまった。
しかしツグミは足を止めずに、やや早歩きで中華街に飛び込んだ。まごついていると、高田に止められてしまいそうだった。
南京町は想像以上に人で溢れ返っていた。地元の人や、観光客や、サボりの学生や、色んな人種でひしめいていた。道幅が狭いくせに妙に活気づいていて、人々が押しくらまんじゅうをしながら少しずつ向こうに流れていくように思えた。喧噪が凄まじく、側にいる人の声すら聞こえなかった。
ツグミは背後に従いていた高田の気配が、一瞬人に飲み込まれて遠ざかるのを感じた。
不安を感じたけど、ツグミは気にせず人の群れの中を進んだ。そうして、岡田はどこだろう、と探した。
「携帯は?」
突然に背後に誰かが立った。少し甲高いけど、男の声だった。真後ろに付かれていたせいで姿が見えなかったし、振り向いちゃいけない空気だとも察した。
「み、右のポケットです」
言葉が緊張した。
すると、右の腹を、掌でなでられるような感じがした。ツグミは手付きがいやらしく感じて、無意識に体をのけぞらしてしまいそうになった。でも今は我慢……我慢……。
男はすぐに手を引っ込めた。ついでに背後の気配も消えてしまった。
ツグミはちらと後ろを振り返った。南京町は群れのような人で賑わっていた。もう声の主が誰だったか、わからなかった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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