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■2016/01/02 (Sat)
創作小説■
第7章 王国炎上
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15
ヴォーティガン王は王城を目指して這い上がってくる悪魔を見下ろした。かつて悪魔と戦った若き日の記憶が、ありありと甦った。まず恐怖が浮かび上がった。間もなく恐怖は消えて、代わりに全身を支配したのは凄まじい怒りと憎しみだった。ヴォーティガン王は、聖剣ダーンウィンを握りしめた。
王
「来るがいい! 魔の下僕よ! 王はここだ。国はここだ。我が首を取りに来い! 国が欲しければこの首を取るがいい!」
悪魔も登りながらヴォーティガン王に目を向けた。赤く燃え上がる目を輝かせながら、ヴォーティガンに狙いを定めたようだ。
悪魔がついに最後の層に顔を出した。ヴォーティガン王がそれを待ち受けて、ダーンウィンの一撃を喰らわせた。悪魔の頭が裂けて、溶岩の如き血が飛び散った。さらにもう一撃。
しかし、老いた王は一撃目で力を使い果たしていた。2撃目に威力はなかった。
悪魔がヴォーティガン王の攻撃を弾き返した。ヴォーティガン王の体が跳ね飛ばされる。
悪魔は大階段のほうへ向きを変えて、這い上がった。王の臣下が悪魔に立ち向かい、矢を放った。剣を持つ者は接近して白兵戦を挑んだ。しかしそれはほとんど何の効果ももたらさなかった。悪魔は群がってくる戦士達を、虫けらのように払い飛ばし、握りつぶした。
ヴォーティガン王はそんな様を見ながら、よろよろと膝を着いた。息が苦しく、心臓が弱々しく打っていた。命がどこかに消え行こうとするのを感じた。
悪魔は、兵士達を押しのけ、あるいは無視して王の前まで進もうとした。
ヴォーティガン王と悪魔が対峙した。しかし王は、もはや剣を身構える気力もなく、ただ忌々しい敵を睨み付けるだけだった。
悪魔はその口に炎を溢れさせた。その口元を嘲笑するように歪ませて、最後の一撃を吐き捨てようとしていた。
その時、光が走った。バン・シーの魔法が、悪魔の横面に命中したのだ。悪魔の体が大きくのけぞった。炎の塊が王から外れて、城の一角を破壊した。
◇
ネフィリムの勢力は尽きず、むしろどんどん勢いを増やしながらバリケードに向かってきた。兵士達は果敢に矢で攻撃した。オークも戦った。上層から弓兵が次々と矢を放っている。
せめての救いは道幅の狭さだった。道幅の狭さゆえに、一度に戦うネフィリムの数が制限され、数が増えると押し合いへし合いの大騒ぎになって、それが却ってネフィリムの進路を押し留めさせた。
休みのない戦いが続いた。兵士達は一呼吸も手を止めず、ひたすら全力で剣を振るい続けた。
剣は次々に壊れる。少年兵が倉庫から剣を持ち出してくるが、その数もどんどん減った。もはや戦いが終わるのが先か、剣が尽きるのか先か、という状態だった。
オークは戦いながら、時々ソフィーの安全を気にして振り返った。
ソフィーの呪文はいよいよ様子が変わり始めていた。詠唱は歌うように堂々としていて力があり、複雑な旋律を奏でているように聞こえた。呪文はかつてないほどに複雑で、時々ソフィーの声が2重に3重に重なって聞こえた。これは幻聴ではなく、ソフィーは長大な呪文を圧縮し、一度に2行の詠唱を行っていたからだ。
ルーンが刻まれたリングが浮かび上がり、風が渦を巻きはじめ、長い金髪が風に巻き上がった。リングは連鎖反応を起こすようにいくつも作り出され、光の粒がソフィーを中心にあちこちに散らばった。
いや、この光の粒も1つのリングなのだ。光の粒は、やがて街全体を包み込む。光はゆるく糸を結び、それが巨大な一大曼荼羅絵巻のごとき魔方陣となった。
いよいよかつてない大魔法が起きようとしていた。想像もし得ない現象に、あらゆるものがひりひりと震え始めていた。
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