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■2016/01/03 (Sun)
創作小説■
第5章 Art Crime
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19
次の日曜日に、と思ったが、待っていられなかった。ツグミは火曜日の放課後、家に戻らず、その足で三宮に向った。阪急三宮駅を南口から出て、長い歩道橋を街の風景を見ながら通り過ぎていく。その辺りはそごうやマルイといった大きな建物が、巨人の建築物のように聳えた立ち、歩道橋から見ていると、人々はその足元で小さな蟻のように犇いて見えた。
フラワーロードと呼ばれる6車線の道路は絶え間なく車が行き交い、信号を前に行儀よく列を作っている。
雑踏が騒々しい活気を放ちながら、慌しく流れ去っていった。ツグミは歩道橋を1段1段降りて、そんな雑踏の中に紛れ込んでいった。
ツグミは雑踏に流されそうになりながらも、三井住友銀行の前で何とか留まった。その手前がバス停留場になっていて、特に人が多かった。バスを待つ人と、通り過ぎる人との間で、勢いの強い渦を作っているようにすら思えた。
ツグミはそんな雑踏の脇に外れて、少し三井住友銀行の外観を眺めた。落ち着いた感じのある茶色の外壁だが、その威容は見る者を圧倒するような巨大さだった。自動扉の向う側がATMコーナーになっているらしく、人の列で壁が作られていた。
人ごみは苦手なんだよなぁ……。
ツグミは憂鬱に感じつつ、流れ行く人にぶつからないように注意しながら、銀行の中へ入っていった。
銀行に入るとATMコーナーを通り過ぎ、左手の広いフロアに入っていった。そこは待合室になっていたが、やはり人は多く、たくさん並んでいるベンチはことごとく埋め尽くされ、受付用紙を片手に漂流する人が何人もいた。呼び出し音や、取引の会話、雑談で、広い空間はくらくらするような喧騒で満たされている。
ツグミは、ここでどうしたらいいのだろう、と困惑して待合室全体を見回した。
ふと向うのガラス面に、上に繋がる階段を見つけた。天井から吊り下げられている案内板に《2階 貸金庫コーナー》と書かれてあった。
ツグミは2階へと上がっていった。2階にも似たような空間が現れた。奥にカウンターが置かれ、ソファがいくつも並んでいる。やはり人が一杯いたが、1階よりずっと落ち着いた雰囲気だった。待っている人はなぜか年配の人ばかりで、なんとなく病院の待合室みたいだった。
ツグミはとりあえず受け付け番号の書いたカードを引いて、1人きりになれる場所を探して座った。
ぼんやりと座っている振りをしつつ、回りがどうしているか観察した。まず番号で呼び出され、受付に行く。次に、部屋の右手にある個室スペースへ行く。多分、あそこに貸金庫があるのだろう。
ツグミはそこまで確かめると、うつむいて気分を沈ませた。学校疲れが急に体にのしかかってきて、うとうととしかけてしまった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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