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■2016/01/01 (Fri)
創作小説■
第5章 Art Crime
前回を読む
18
すぐにコルリが席を立った。ツグミは杖を手にして、1歩遅れた。ツグミとコルリが絵の両側について、裏を返してみた。
「2重になってる!」
思わずツグミは声を上げた。
麻布をめくれば、確かに2枚重ねになっていた。それに、麻布の穴が少し大きく裂けていた。釘を打ち直した跡だ。
それでいて、キャンバスも木枠も、手抜かりなくフランス製だった。明らかな贋作だったが、作りは本格的だった。
コルリが物置に飛んで、工具を持って戻ってきた。
絵がテーブルの上に置かれ、コルリが1本1本釘を引き抜いた。ツグミは立っての仕事ができないから、椅子に座ったまま絵をしっかり支えた。
中に入っているのがどんな絵なのか――異様に胸が高鳴る瞬間だった。
しばらくして、キャンバスの3面の釘が抜き終えた。まだ全て外れていないが、いよいよ裏の絵と対面の時である。
コルリが工具をしまい、キャンバスをテーブルの上に寝かせて置く。立ったまま、麻布を手に取った。ツグミが下の絵をしっかり持って固定する。
ドキドキしながら、コルリと顔を見合わせた。コルリの顔も、緊張と興奮で強張っていた。
ゆっくりと、麻布と絵具を傷めないように、上の絵を持ち上げる。無理をすると絵具が剥離してしまう。
しかし、下の絵には何も描かれていなかった。真っ白のごく最近の麻布で、白色灯の光が落ちていた。
あまりにも拍子抜け――と思ったとき、上の麻布に張り付いていた何かが、パタッ、と白い麻布の上に落ちた。
カードだった。ツグミもコルリも、思わず身を屈めて覗き込む。
ツグミはおそるおそる手を伸ばしてみた。指先で、ちょっとカードに触れてみる。
当り前だけど、危険ではなさそうだった。手にとって、カードを目の高さに持ってきて、裏を向けたりする。
「何やろ、これ?」
カードは装飾のないブルーで、黒のラインが一本引かれているだけだった。裏に、三宮の三井住友銀行の住所が書かれていた。
キャッシュカードだろうか。川村がこんな回りくどい方法でツグミに託したかったのは、お金だった、なのか?
「それ、貸金庫のカードやね。ツグミ、行ったことなかった?」
コルリは麻布に皺がでないように、元通り2枚重ねに戻した。
「うん、ないけど……」
言外に、「一緒に行ってほしい」という感情を滲ませた。行った経験のない場所に行くのは、やはり不安だ。
「ごめん。悪いけど、私、もうしばらく用事があるんや。1人で行ってきてくれへん? 大丈夫。行けばわかるから」
コルリはツグミの心を読んだように、済まなさそうな顔をして、片手で拝むようにした。
「ううん。いいんよ。わかったわ」
ちょっとコルリの用事が何なのか、詮索したい気持ちになった。
でも、「一緒に」なんて、ツグミの我儘だ。思えばいつもコルリに頼ってばかりだ。1人で何でもできるようにならなくちゃ駄目だ。
「よし、じゃあご飯にしよっか」
コルリはすぐに気分を改めて、明るい声を出した。ツグミも、笑顔で頷いた。
それにしても、貸金庫に何が預けられているのだろう。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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