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■2015/12/29 (Tue)
第7章 王国炎上

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13
 夕暮れが迫る頃、ソフィーとバン・シーの2人は王城前の草原にたどりついた。平原を舞台にしていたはずの殺戮は、すでに次の段階へと移っていた。草原にはネフィリムと人との争いがまだ残されているものの、今は亡骸の数のほうが多い。それよりも、戦いの中心は城壁の内側に移ろうとしていた。城壁の一角が崩され、大門が解放されている。壁のむこう側で火の手が上がり、刃が交わり、阿鼻叫喚の声が木霊すのが聞こえた。

ソフィー
「バン・シー様、あれを!」

 森を振り返ると、そこにネフィリムの第4陣が向かってくるのが見えた。

バン・シー
「行こう。待っている者がいるのだろう」
ソフィー
「はい」

 ソフィーとバン・シーは馬の腹を蹴った。
 草原を一気に通り抜けると、大門を潜り抜けた。すると唐突にネフィリムが2人を襲った。ソフィーはとっさに光の珠を飛ばした。
 そうしてから、改めて街を見回す。そこは修羅の真っ直中だった。大門を抜けた向こうの繁華街は戦場と化して、ネフィリムと兵士の死体があちこちに転がり、血がタイル張りの道路を小川になって流れていた。
 壮麗なる建物は崩壊し、壁には漆喰の代わりに臓物がぶちまけられていた。火が点けられたのか、あちこちで煙が上がっていた。兵士達に統制立てられたものがなく、誰の目にも敗戦色濃い様子が見て取れた。
 ソフィーはそんな有様を見て、息苦しくなって踏みとどまってしまう。バン・シーがソフィーの手綱を掴みのに、はっと我に返って馬を進ませた。
 血まみれの目抜き通りを抜け、死体の山を踏み散らかして真っ直ぐ城へと向かった。その最中に目にするのは、死と悲劇ばかりで、そんな様にソフィーは涙を落としそうになるが、それをこらえて馬を走らせた。
 ソフィーとバン・シーは城下町の中腹、防壁の前を潜り抜けようとする。するとそこに、瓦礫をバリケードにして積み上げている一団が見えた。そこで兵士達が防衛線を敷いていた。ソフィーは通り過ぎようとしたが、しかし兵士達の中にオークがいるのを見付けて、慌てて走る馬から飛び降りた。

ソフィー
「オーク様!」
オーク
「ソフィー!」

 オークは目の前のネフィリムを斬り伏せて、ソフィーの許へと走った。

オーク
「ご無事でしたか」
ソフィー
「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。……私、あなたに認めて欲しくて……」

 そう言うソフィーに、オークは何も言わず抱きしめた。
 普段しない彼の行動に、ソフィーは驚きつつも、その背に手を回し、血まみれの鎧に顔を埋めた。

バン・シー
「オーク、状況を説明してくれるか」

 バン・シーも戻ってきてオークに訊ねた。

オーク
「我が軍は壊滅しました。悪魔の襲撃で城壁は破壊され、セシル様は負傷して城へ運ばれました。我が軍勢は統制を失い、城下町はネフィリムらによって蹂躙されています。私はここで生き残った兵士達を集めて食い止めているところです」
兵士
「敵襲!」

 言っている間に、ネフィリムの次の一団が駆けてきた。防壁の上の層から、弓兵が攻撃し、それを切り抜けたネフィリムと兵士の白兵戦になる。オーク達も戦い、ネフィリムたちを斬り伏せた。ソフィーも戦いに加わり、光の珠をネフィリムにぶつける。
 通りの向こうに、悪魔が姿を見せた。悪魔はネフィリムとともに防衛線を潜り抜けようとしたが、兵士達の抵抗の激しさに踏みとどまった。
 悪魔は人間達の攻撃にしばしまごついたが、ふとその向こうへと目を向けた。悪魔は助走をつけると、オーク達が築いたバリケードを軽々と飛び越えてしまった。さらにその向こうへと進んでいく。

オーク
「あいつを行かせるな! 落とせ!」

 悪魔は王の館の手前の坂道までやってきた。坂道は東の端まで進み、次に西の端まで続いている。人間が通行しようとすると道順通りに進まなければならないが、悪魔は悠然と手を伸ばし、真っ直ぐ上へ上へと向かった。
 弓兵達が悪魔に矢の応酬を喰らわせた。悪魔は矢の猛撃に少しまごついた様子を見せるが、城壁に飛びついて弓兵達を拳でなぎ払った。

バン・シー
「――奴め。ソフィー、呪文は間違いなく覚えてるな」
ソフィー
「はい」
バン・シー
「ならば、ここの防衛は任せた。私はあれと戦う」

 バン・シーは馬の腹を蹴って、王城へ向かう坂道を登っていった。

オーク
「悪魔との戦いはあの者に任せましょう。我々はここでネフィリムたちを食い止めます。これ以上は一体も通すわけにはいきません!」

 バリケードでの戦いは、尚も続いた。兵士らは魔の眷属と刃を交え、ソフィーは光の珠を次々と浴びせかけた。
 しかし敵の勢力は決して尽きなかった。向こうの角から、ネフィリムは次々と迫ってくる。街を徹底的に破壊し終えたネフィリムらは、どうやらそこが目指すべき場所だと気付いたようだった。
 休みのない戦いだったが、兵士らは果敢に挑み、刃を走らせた。
 ソフィーは高いところに登って、街の様子を眺めた。闇の手先で街は穢され、死で溢れていた。まだ戦っている兵士があちこちにいた。町中に戦いの物音で満たされていた。
 しかし破滅を間近にした街はことごとく突き崩され、あちこちで火の手が上がっている。そんな有様が生々しく見て取れた。

ソフィー
「オーク様、私に時間をください」
オーク
「どうしました」
ソフィー
「この魔法は大魔法になります。すべて詠唱し終えるまで、かなりの時間が必要になります。その間、私への防御は一切失われます。今、街を救う方法はこれ1つきりです。……オーク様、私を守っていてください」
オーク
「守ります。私の知る全てのものに誓って、あなたを守ります」
ソフィー
「オーク様……ありがとうございます」

 ソフィーは再び街の方に目を向けた。緊張が全身を走る。短く深呼吸して、目を閉じた。 呪文が始まった。深い瞑想から始まり、低く低く呟くような呪文が始まった。すぐに辺りは峻厳な空気が漂い満ち、ソフィーの体を囲うように光の粒が踊り始めた。ルーンの詠唱が辺りに満ち、何かが四方に広がっていくのを、兵士達は感じた。

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