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■2015/12/24 (Thu)
第7章 王国炎上

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11
 悪魔が一気に迫った。配下の怪物を踏みつけ、騎士達を踏みつけて、人とネフィリムが混じり合う戦場を何の障害ではないというふうに疾走すると、城壁の前で高く跳躍した。
 誰もが信じられない光景に瞠目した。城壁の高さは10メートルに及ぶ――。この城壁を登って越えてみせた者などいない。が、この恐るべき獣は自らの脚でその巨体を宙に浮かばせ、その指先で銃眼を掴んでいた。
 城壁に配されていた弓兵は突然の襲撃に、大混乱に陥って悪魔から逃れようとした。何人かは勇敢に接近して矢の攻撃を加えようとするが、何の効果もなかった。
 悪魔は巨体を持ち上げて、城壁をよじ登った。そこに集まる兵士達を、虫でも払うかのように、はたき落とした。
 勇敢な兵士達は怯まなかった。用意していた油を巨人に浴びせかけ、斧の一撃を食らわせた。
 悪魔はほんの一瞬のけぞった。いくらかのダメージにはなったようだ。だがむしろ悪魔を怒らせてしまった。
 悪魔は勢いをつけて城壁に這い上がった。そのまま向こう側へ転落した。住居の屋根に背中をぶつけて、瓦屋根が吹っ飛んだ。
 ついに悪魔が大門の内側に侵入した。しかし兵士達の最初の驚きはもう終わり、全員で取り囲んで矢の攻撃を加えた。無数の矢が通りから、城壁の上から一斉に降り注いだ。悪魔は一見効果があるように呻いたが、実際には傷1つ負わせられなかった。悪魔は兵士らに飛びついて、炎の塊を押しつけた。長い尾で、兵士どころか近くの建物を巻き添えに突き崩した。さらに城壁の兵士達に向かって瓦礫を投げつける。
 セシルは悪魔の侵入に気付くと、軍を配下に任せて、大門の内側へと飛び込んだ。すぐに暴れ回る悪魔を見付けて、ダーンウィンを抜いて走った。
 セシルが駆けつけてみると、悪魔を中心に混乱が広がっていた。兵士達は攻撃を加えるが、ほとんど効果がない。暴れ回る悪魔の圧倒的な脅威に、兵士らは驚き、慌てふためき、恐怖を覚えて遁走し始めていた。

セシル
「悪魔に囚われるな! 奴には聖剣しか効かぬ! 無駄な戦いをするな!」

 セシルは兵士達に呼びかけつつ、悪魔の側まで駆ける。
 すると悪魔のほうもセシルに気付いた。悪魔は、忌々しいダーンウィンを手にする王子を標的に定めた。
 悪魔がセシルに飛びついてきた。セシルは方向を一転させて走った。悪魔がセシルの後を追いかけた。セシルは通りから通りへと移り、狭い路地裏へと飛び込んだ。巨人の入り込めない場所に、あえて飛び込んだ。
 悪魔は周囲の建物を破壊しながら手を伸ばしてきた。セシルはその指先をダーンウィンで斬りつけた。傷口に火が走り、溶岩のような血が飛び散った。目に怒りを宿した悪魔は、炎の塊を吐いた。
 炎は勢いが凄まじく、路地裏に灼熱が走った。堪らずセシルは大通りへと飛び出した。
 悪魔がセシルの前に飛び出してきた。逃げ場所はどこにもない。セシルは悪魔に立ち向かった。
 が、悪魔の掌がセシルを掴んだ。そのまま、高く放り投げてしまう。セシルが壁に叩きつけられた。
 悪魔は勝利宣言である咆吼を上げると、再び城壁のほうへ向かった。
 兵士達が集まり、悪魔を足止めしようとした。だが悪魔は構わず突進した。悪魔は兵士達を薙ぎ倒し、その向こうの壁に激しくぶつかる。鉄壁の城壁がぐらぐらと揺れた。その上に配された兵士が、突然の振動に足下を掬われる。
 悪魔は尚も壁にぶつかった。兵士達は悪魔が何をしようとしているのか察して、矢で攻撃した。だが矢はほとんど効果はない。
 ついに城壁に亀裂が走った。悪魔が壁に体当たりを続ける。激しい振動と衝撃が広がっていく。そして――壁が崩れた。信じがたい轟音と土煙を噴き上げながら、城壁の一角が崩れた。

オーク
「セシル様!」

 オークは倒れているセシルの側に駆け寄った。まさか死んでしまった……。いや、抱き起こすと、かすかに呻いた。体にぬくもりが残っている。――生きている!
 オークは側に転がっているダーンウィンに気付き、拾い上げようと手を伸ばした。
『王族以外の者が柄を握ると、火を放つ』
 が、はっとセシルの言葉を思い出して手を引っ込めた。オークは柄に触れぬように、慎重に聖剣を鞘に収めると、それを手にしてセシルを担ぎ上げた。かりそめの安全を探して、城下町を走る。
 ネフィリムの大軍が城壁のこちら側になだれ込んでいるのが見えた。今や街は、修羅に変わろうとしていた。

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