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■2013/04/03 (Wed)
――グリッド。
7fa492a2.jpegそこはコンピュータの中に構築された世界。グリッドの中では、プログラムがあたかも自立した人間のように行動し、日々の生活を送っていた。プログラムたちの世界は小さないざこざを抱えながらも全体としてみれば平穏そのものだった。
しかし、テスラー将軍率いるクルーたちがやってきた。クルーは軍隊を率いて、プログラム達の社会を征服し、恐怖政治を敷こうとしていた。
そんなクルーに反抗するたった1人の男がいた。トロン……。グリッドの世界では英雄と呼ばれる男だった。
トロンはクルーの軍勢と果敢に戦い、圧倒するものの最後には破れ、殺されてしまう……。

グリッドの中に、アルゴンと呼ばれる街があった。ここではクルーとトロンの死闘の舞台から遠く、まだ平和を保っていた。しかし、間もなくテスラー率いるクルーたちの侵略が始まってしまう。
ベックはアルゴンの街でメカニックを営む平凡な男だった。だがクルー達がやってきて、理由もなく仲間達が拘束されてしまう。最初は横暴なクルー達に関わろうとしないでいたベックだったが、仲間が殺された瞬間、戦う決意を改める。ベックは単身クルーの基地に乗り込み、戦い、クルーのシンボルである像を破壊する。

そんなベックの行動は予期しない人物の目にとまった。トロン。死んだはずの英雄だった。
トロンはかつての戦いで辛うじて生き延びたものの、これ以上の戦いは困難なくらい負傷していた。だからトロンは自身のディスクを託し、こう言う。
「俺の名を継いでくれる者が必要なんだ。後継者になってくれ」

こうして、ベックがトロンとなるための戦いが始まった。


■登場人物■

3e23a720.jpegベック(イライジャ・ウッド/伊藤健人)
本編主人公。アルゴンの街に住む、平凡なメカニックだったが、友人がクルーに殺されたことを切っ掛けに“反逆者”として生きる道を選ぶ。


e0646926.jpegトロン(ブルース・ボックスライトナー/高瀬右光)
グリッド世界の英雄。世界の平和を守る戦士。しかしクルーたちとの戦いに敗れ、負傷した。現在はベックを後継者とするべく、指導に当たっている。

4d305711.jpegゼッド(ネイド・コードリー/高坂宙)
ベックと同じ職場で働くメカニック。ベックの良き友人。腕はいいが、判断力に欠け、失敗も多い。


ad53de2e.jpegマーラ(マンディ・ムーア/山口理恵)
ベックやゼッドと同じ職場で働くメカニック。しっかり者で、失敗の多いゼッドをいつも助けている。


b0db902b.jpegテスラー(ランス・ヘンリクセン/西凛太郎)
悪の軍団クルーを率いる将軍。グリッド全土を支配し、恐怖政治を敷こうと企んでいる。トロンを恐れ、執拗に追跡している。



04ef866b.jpegペイジ(エマニュエル・シュリーキー/棟方真梨子)
テスラーに忠誠を誓う女。テスラーの右腕として働く。身体能力が高く、自ら戦闘に参加してベックと戦うことも多い。

2a981a67.jpegパヴェル(ボール・ルーベンス/白熊寛嗣)
ペイジと同じく、テスラーの右腕として活動する。知恵に長け、参謀役として陰謀を画策する。野心家であり、常にテスラーの賞賛を得ようと考えている。ペイジとは対立関係にある。


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18e8bc1d.jpeg1982年に制作された『トロン』は、初めてデジタル技術が映画に使用されたことで知られる。それから28年後の2010年、28年越しの続編が制作された。『トロン:レガシー』である。『トロン:ライジング』は、『トロン』と『トロン:レガシー』という2つの物語の間に横たわる20年を埋めるために制作された作品である。
第40回アニー賞でキャラクターデザイン賞と美術賞を受賞。劇場版の監督であるジョセフ・コシンスキー、脚本には同じく劇場版を担当したアダム・ホロウィッツとエドワード・キッツィスの二人が参加している。主演にイライジャ・ウッド、トロン役には劇場版と同じくブルース・ボックスライトナー。ディズニー・アニメーションが全精力を傾けて制作するのがこの『トロン:ライジング』であり、スピンオフでありながら『トロン』という一大サーガの重要な核となる役割を持つ作品となっている。

『トロン:ライジング』が描く世界には生身の人間は登場してこない。すべてがプログラムだ。完全に自立した人格を持ったプログラムであり、グリッドの中に構築された都市や社会はプログラム達が運営している。
『トロン』が描く世界は、ある種の擬人化の世界であり、擬社会化された世界での物語である。グリッドの住人達はプログラムであり、自身もプログラムであるという認識の下で日々を送っているが、思想や行動は人間そのもので、人間社会と似たような社会状況を――友人がいたり、恋仲になったり、また対立したりといった普遍的な人間社会に見られるような光景をプログラム世界で構築している。
85bf01bc.jpeg映像が独創的だ。何もかもが鋭角的に切り取られたシャープなデザインに、光線が与えられている。街の風景などは、光のレイヤーのみでディティールや奥行きが表現されている。プログラムの世界だから現実世界のような“汚れ”がないために、光の当て方で映像的な奥行きを表現しようとする。ロングサイズでは光の層だけで街が浮かび上がるが、この描き方がなかなか美しい。
物語はテスラーが悪の軍団の約束事みたいに毎回なにかしらの陰謀を企み、それをベックが潜入して阻止するというのが定番の構造となっている。そのためにアクションが中心となり、日常を思わせるものが何一つ登場してこない。が、アクションそのものは疾走感ある展開で実に痛快だ。肉弾戦、爆破、それからバイクによるチェイスシーン。プログラム達は皆《バトン》と呼ばれるアイテムを持っており、これを2つに折って投げるとバイク《ライトサイクル》が出現するという仕組みである。
この物語中いつでも出したり引っ込めたりできるライトサイクルが、映像をなかなか印象的にしている。肉弾戦、脱出シーン、それからライトサイクルでの疾走という一連のアクションの動きが、映像の移動速度を高めるだけではなく、物語に滑走するような勢いを追加している。いつでもどこでもライトサイクルを出せる状況が、人間のアクションだけでは表現しきれないスピード感を加味し、映像を刺激的な活劇に仕立て上げている。
登場人物は、極めてシンプルな色彩で切り分けられている。正義は青。悪は赤。救世主であるトロンは白。白のトロンに対して、プログラム世界の住人の基本色は黒だ。主人公側のコミュニティはもちろん青い光をまとっているのだが、その中でも黄色に輝くリングをはめていたり、登場人物を見誤ることはなく、また色彩の効果だけで人物の背景までわかる仕組みになっている。
adeecfa5.jpegキャラクターデザインは、全体を見ても無味無臭な黒のスーツに発光のみという個性を出しにくいスタイルだが、その中でも様々な工夫が見られる。最重要となると思われる顔面部分――基本的には個体差はもはや顔面以外なにもないのだが、シンプルに造型されているが、骨格が誇張され、顔に貼り付けられたパーツではなく、骨格の形でキャラクターが識別できるようになっている。こういった発想は、日本の漫画・アニメ界にないもので、なかなか新鮮だし学ぶべきところでもある。
色彩や骨格……。極限にまで切り詰められたシンプルさと誰が見ても明らかな個性の作り方によって、世界観そのものを容易に識別できるように作られている。この作りの見事さには学ぶべきものは多い。

29857344.jpegしかし映像作品として見ると、技術の低さや粗さが目に付いてしまう。
例えば人物の骨格は、股間部分が極端に切り上げられていて、手や足がひょろっと長く見えてしまい、力のない棒っきれのような印象だ。胸や腹にも筋肉を感じさせる隆起はなく、ぺらっとポリゴンの板を貼り合わせたような貧相さしか感じない。肉体でキャラクター間の個体差を表現しようという努力は完全に放棄されていて、個体差といえばせいぜい男女の性差、バストの有無だけしか描き分けられていない。
画面は静止画だけを見るとなかなか美しく見えるが、動き始めると途端に平面的な人形劇になる。基本的にアニメーションの出来が悪い。一つ一つの動きが、動きの全体から浮き上がってしまい、動作に一連の流れが感じられない。さらに抑揚がなく、例えば大きなアクションをする手前に、構えたり腰を沈めたりといった予備運動は一切しない。何もかもがいきなりで、ひゅん、ひゅんと力感なく飛び交ってしまっている感じだ。動きに何ら抑揚も尾を引くものもない。
アクションが中心だというのに、格闘アクションには肉体がぶつかり合う重量感はまったくない。重量感がないから、動きの軌跡が美しく見えず、動きがくちゃくちゃに混乱しているように見え、また力学的な感覚がなくぶつかり合うからひょろひょろと組み合って倒れている、というようにしか見えず、アクションで燃え上がるものがなにひとつない。
1f2ea58d.jpegそもそもコマ数が少ない。これは3コマ撮りだろうか。日本のアニメもリミテッドアニメーションだが、それを感じさせることは少ない。だが、『トロン:ライジング』のアニメーションはどのシーンを切り抜いてもがたついて見えてしまう。走りの動きは日本のアニメとほぼ同じ枚数で動くのだが、足の動きに連動が感じられず、ぱたぱたと足を振り回しているだけに見えてしまう。アニメの現場に入ってきたばかりの新人アニメーターが描くような動きだ。
それから、おそらく走りの動きはあらかじめテンプレートが用意されているのだろう。どの走りも同じポーズ、同じ感覚だ。また、例えば走りからジャンプ、といったアクションの間にもやはり連続性が感じられず(間を埋める動きが殆どないか、全くない)、あらかじめ用意された動きのテンプレートを組み合わせたように見えてしまう。
a8170ac1.gif左はクラブのシーンで、激しいリズムの音楽を背景に、若者達が酒を飲んだり踊ったりしている……という場面である。しかし実際の動画を見ると、男女が異様な密度で集まって、せいぜい立ち話をしている、というくらいにしか見えない。何人か頭の上に手を置いて踊っているような仕草をしているのだが、せいぜいリズムを取るくらいである。どうにもこうにも、アニメーターにダンスシーンを描く技量がなかったようだ。
光の効果だけで街のディティールが描かれているが、これが美しく見えるのはおそらくロングサイズだけだ。接近してみると光の印象は平面的で、何より光が光と感じられない。ぼんやりとした印象で、光といわず、せいぜい色の識別ができる程度の処理でしかない。単独の光に厚みが感じられないことが、デザインの安っぽさも加わって映像をいかにも一昔前のぺらぺらのデジタル映像にしてしまっている。
bce15238.jpegアクションの核は間違いなくライトサイクルによる疾走感にあるのだが、このライトサイクルの尻に付いてくる光の効果がまったく美しくない。妙にプラスチック感覚の、固い印象のエフェクトをそこに置いただけだ、という感じだ。光に美しさを感じられないことが、映像の魅力を大幅に減退させている。
a11c65fb.jpegまた、基本的にポリゴン数は少ない。ポリゴン数が少なくとも、くっきりとしたフォルムが浮き上がるようにデザインされているのだが、それにしても人間の手足があまりにも棒っきれだ。(滅多にないが)時々クローズアップになるが、ポリゴンの粗と固さがあまりにもはっきり見えてしまう。クローズアップを想定したデザインを作っていないのだ。正直なところ、最近のゲーム機がリアルタイム演算処理した動画の方が完成度は上だ(PS4クラスとなると、あまりにも下過ぎて比較のしようがない)
アニメーションとしての完成度は、日本のアニメで例えると『gdgd妖精s』をもう少し手間暇かけてブラッシュアップした、という感じだろうか。もちろん、映像の中にはいいと感じられる瞬間はいくつもあるのだが、大抵はその一瞬だけだ。その一瞬をシーン全体の活力として引っ張り上げようという努力は見られず、また映像をよりよくしようという方法を知らないのではないか、とすら思った。

be62f3c5.jpeg映像面には問題ありだが、ストーリーはなかなか惹き付けさせるものがある。根本的にこの物語の登場人物には日常部分がまったくなく、人間的な顔をしているものの生活の感覚がまったくない非現実的なものにしているが、そのぶんストーリーの展開とアクションの流れには力が入っている。
基本的には悪の将軍テスラーが何かを企み、ベックがそれを阻止する、という繰り返しなのだが、その背景に大きなプロットの流れが意識されており、人間の情動が少しずつ変化する過程が描かれている。登場人物があまりにも少ないのが弱点だが、毎回趣向を凝らしたアクションの舞台構築と、そこに添えられる人間のドラマの連動で、作品を見る価値のあるものに押し上げている。見終わって「面白かった」と思わせる秘密がここである。
それはかつて、日本の漫画・アニメが描いていて、現在の日本が描かなくなったもの、あるいは描けなくなったものだった。毎回活劇があり、その背景に人間がいて、といった普遍的な構図。それから人間の配置を少しずつ変化させながら、大きなプロットを操作し作家が構想したクライマックスへと接近させる。『トロン:ライジング』の貧相な映像の向こう側に、日本が描けなくなったものを見つけて愕然とした思いになった。
それから、救世主トロンに扮装して戦うベックの姿は、実は普遍的なアメコミ・ヒーローの姿にだぶってくることに気付かされる。ヒーロー特有のタイツスーツを身にまとい(『トロン』の場合、全員が基本タイツ姿だが)、覆面で正体を隠して戦う。ベックと親しい友人と何度も接触するが、友人達は不自然なくらいトロンがベックであると気付かない。トロンはピンチの時にどこからともなく現れ、みんなを助けてくれる正義のヒーローなのだ。
『トロン:ライジング』はプログラム内の世界、という独創的なイメージで作られているが、底流にあるのは失われつつあるアメコミ・ヒーローの理想像だった。


作品データ
監督:ジョセフ・コシンスキー チャーリー・ビーン ショーン・ベイリー
原作:スティーブン・リズバーガー ボニー・マクバード
脚本:アダム・ホロウィッツ エドワード・キッツィス
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチャアズ 製作:ウォルト・ディズニー・テレビジョン・アニメーション
出演:イライジャ・ウッド ブルース・ボックスライトナー エマニュエル・シュリーキー
    ボール・ルーベンス マンディ・ムーア ネイト・コードリー
    ランス・ヘンリクセン レジナルド・ヴェルジョンソン フレッド・タタサイアー
吹き替え:伊藤健人 高瀬右光 棟方真梨子 白熊寛嗣
      山口理恵 高坂宙 西凛太郎 仲野裕





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