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■2015/09/28 (Mon)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
ふと、絵に生命が宿っているのを感じた。絵具が生き生きとキャンバスの上で踊り、今も脈打っているのを感じた。
ナイフを握りしめたまま、ツグミは決心が揺らいだ。ほんの一瞬でも「できない」と躊躇ってしまった。
贋物だから、絵に生命はない。誰がそんな思いあがったことを決めた?
贋物にだって、描いた人間の想いがどこかに込められている。魂の残像が絵に宿っている。時には、本物ではありえないくらいの重い怨念が込められる瞬間すらある。
本物も贋物も、絵は同じように呼吸して生きているんだ。
その絵の命を、絶たねばならない。それが今のルールなのだ。
ツグミはゆっくりと、震えの止まらない手を振り上げた。
「ごめん」
目をつむり、思い切って振り落とした。
絵具で塗り固められ、素晴らしい光沢を放とうとも、それは所詮、麻の布だ。ナイフは簡単にキャンバスに突き刺さり、ビリビリと引き裂き、固まった絵具を四方に飛び散らせた。
その瞬間、ツグミは自分の胸を抉ったような気がして、ふらっと気を失いかけた。
「ツグミ、大丈夫?」
すぐにコルリが支えて、顔を覗き込んできた。
「うん、平気」
ツグミは心配させまいと、笑顔を浮かべようとした。だが、顔が引き攣り、声の尻がしぼんでしまった。
ひどい罪悪感で、胸が抉れるようだった。絵を殺してしまった。そんな気がした。
コルリは何も言わずに、ただ「よくやった」というように、ツグミを抱きしめて背中を叩いた。
「さあ、正解を言い当てたで。ミレーを返してもらおうか」
コルリが宮川を振り返って怒鳴りつけた。
しかし、宮川は愉快そうに微笑を浮かべていた。その手がスッと上がり、パチンと音を鳴らす。
レンブラントを照らしていたスポットライトが消えて、ちょっと向うの闇が明かりで浮かび上がった。
振り返ってみると、さっきと同じように、イーゼルが2つ並び、絵が掛けられていた。
「第2ステージに進みたまえ。ゲームはまだ始まったばかりだ」
宮川はレンブラントの時と同じように、闇の向こうへ進むように指先で示した。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第3章 贋作工房
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11
ツグミは改めて、レンブラントの贋物の前に立った。ふと、絵に生命が宿っているのを感じた。絵具が生き生きとキャンバスの上で踊り、今も脈打っているのを感じた。
ナイフを握りしめたまま、ツグミは決心が揺らいだ。ほんの一瞬でも「できない」と躊躇ってしまった。
贋物だから、絵に生命はない。誰がそんな思いあがったことを決めた?
贋物にだって、描いた人間の想いがどこかに込められている。魂の残像が絵に宿っている。時には、本物ではありえないくらいの重い怨念が込められる瞬間すらある。
本物も贋物も、絵は同じように呼吸して生きているんだ。
その絵の命を、絶たねばならない。それが今のルールなのだ。
ツグミはゆっくりと、震えの止まらない手を振り上げた。
「ごめん」
目をつむり、思い切って振り落とした。
絵具で塗り固められ、素晴らしい光沢を放とうとも、それは所詮、麻の布だ。ナイフは簡単にキャンバスに突き刺さり、ビリビリと引き裂き、固まった絵具を四方に飛び散らせた。
その瞬間、ツグミは自分の胸を抉ったような気がして、ふらっと気を失いかけた。
「ツグミ、大丈夫?」
すぐにコルリが支えて、顔を覗き込んできた。
「うん、平気」
ツグミは心配させまいと、笑顔を浮かべようとした。だが、顔が引き攣り、声の尻がしぼんでしまった。
ひどい罪悪感で、胸が抉れるようだった。絵を殺してしまった。そんな気がした。
コルリは何も言わずに、ただ「よくやった」というように、ツグミを抱きしめて背中を叩いた。
「さあ、正解を言い当てたで。ミレーを返してもらおうか」
コルリが宮川を振り返って怒鳴りつけた。
しかし、宮川は愉快そうに微笑を浮かべていた。その手がスッと上がり、パチンと音を鳴らす。
レンブラントを照らしていたスポットライトが消えて、ちょっと向うの闇が明かりで浮かび上がった。
振り返ってみると、さっきと同じように、イーゼルが2つ並び、絵が掛けられていた。
「第2ステージに進みたまえ。ゲームはまだ始まったばかりだ」
宮川はレンブラントの時と同じように、闇の向こうへ進むように指先で示した。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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