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■2015/10/03 (Sat)
第4章 王の宝

前回を読む
 宝箱はただちに城まで運ばれた。厳重な警備が終始ぴったり貼り付いていた。
 セシルは送られてきた宝箱を一度確認すると、充分に満足してその足で父の部屋へ向かった。
 ヴォーティガン王の部屋は、人目を避けるように窓が閉め切られていた。王は、しばらく全ての面会を拒絶していた。部屋の内装は質素で、机とベッドがあるだけだった。
 ヴォーティガン王が、1人で静かに書き物をしている。側に召使いの少年が控えていた。
 部屋にセシルが入っていく。その後に、宝箱を抱えた従者が続いた。

セシル
「父上。少し時間を。例のものが発見されました」

 王がすっくと立ち上がった。
 王は老いで全身が衰弱し、そのうえに病気が追い打ちをかけていた。もはやかすかな生命を残すばかりである。だが、宝箱を前にして、失いかけた生命が一瞬にして力を取り戻させた。
 ヴォーティガン王はただちに臣下の者を下がらせた。セシルの従者にも部屋を出て行くように指示する。部屋にセシルとヴォーティガン王だけが残された。


「……遂に……見付けたのか」

 王の声が震えていた。
 セシルは何もいわずに、宝箱の前で膝をついた。
 王は杖を突きながらだが、力強い足取りで宝箱の前まで向かった。


「お前は、もう見たのか」
セシル
「はい。我が目で確かめました。例のものに間違いありません。太古のものとは思えぬ霊力で漲るのを感じました」

「早く見せろ」
セシル
「はっ」

 セシルは宝箱の蓋を開けた。
 するとそのなかにあったのは、ただ1つ。ひとふりの剣だけだった。
 セシルは剣に向かって頭を下げると、丁重に取り上げ、ヴォーティガン王に差し出す。
 剣を前にしたヴォーティガン王の手が震えた。
 剣の長さは、刃の長さが1メートルをやや越えるほどで、柄は質素で力強かった。鞘は探索隊が取り付けたものだが、その剣に相応しい上等な品が使われていた。
 見た目だけの印象ではない。その剣がまとう霊気は神々しく、峻厳な冷たさをまとい、信心のない者ですら頭を下げさせる神秘を漂わせていた。まさに伝説の剣に相応しい存在感だった。


「これが……伝説の剣……エクスカリバーか……」

 それが王が生涯探し続けていた剣だった。エクスカリバー。史上最も高貴な剣。精霊が鍛えし最強の剣にして、英雄の守護者。
 ヴォーティガンは柄を握り、ゆっくり鞘を外した。
 そこから溢れるのは封じ込めようのない清々しい英気であった。あまりの感動に、王は白みかけた目に涙を浮かべた。
 しかし、その刃を見た瞬間、感動は一転して失望に変えられた。


「……なんということだ。こんな有様だとは……」

 エクスカリバーの刃は無残に赤く錆びて、ボロボロになっていた。辛うじて刃の先まで残っているものの、もはや錆びきった鉄の棒杭に過ぎなかった。

セシル
「千年の間、泉の底で眠っていたのです。むしろ失われず、形だけでもこうして残っていたことを喜びましょう。人生をかけてそれを探した忠臣のためにも」

「……そうだな」

 落胆の大きかった王は、剣を鞘に戻すと、息子に押しつけるように差し出した。


「アーサーとその下僕が死んで、すでに千年か。かの者の伝承もここに失われた」
セシル
「父上。お言葉ですが、こうして剣は見付かったのです。伝承は蘇ります。その魂も」

「そうあってほしいがな。それも我が国の宝だ。地下に運び、厳重に保管しろ。誰に目にもつかんようにな」
セシル
「――はっ」

 王はむしろ以前よりも衰えた様子で、よろよろと椅子に上に戻った。落胆が全身に滲み出ていた。
 セシルは剣を箱に戻すと、従者を呼びつけた。従者は王の部屋に入ってくると、王と剣の入った箱に1つ頭を下げて、持ち上げた。

セシル
「――父上。オークを名乗る者が現れました」

「また騙りではあるまいな」
セシル
「その者は知らないようです。私も話していません。単なる偶然かも知れません。真偽はいずれ明らかになるでしょう」

「そうか。わかった」

 王はあまり関心を持たない様子だった。
 セシルは王に頭を下げて、王の部屋を去った。

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