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■2009/08/17 (Mon)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
3
時計が12時を回った。どこかで打ち鳴らされた銅鑼の振動が、客間全体を満たした。
「それでは、見合いの義、開始でございます」
時田が力強く、ゲーム開始の宣言をした。
すぐに、千里が糸色先生の側に飛びついた。
「先生。ここは大人しく私と目を合わせて、きちんと籍を入れてください。」
千里が糸色先生に詰め寄る。だけど糸色先生は頭上を見上げて千里の目線をかわした。
「嫌です。私はいろんなものに背を向けて生きてきましたかね。見ないことに関してはプロですよ」
糸色先生は余裕の調子で返した。
千里が糸色先生の隙を探すように、その周囲をぐるぐるとまわる。でも糸色先生は、千里の動きを正確に察して、すばやく反対方向に目を向ける。
私たちは座布団に座ったままの姿勢で、糸色先生と千里のやり取りを見ていた。入っていく隙がない、というか、あの二人は何をしているんだろう、というような傍観者の立場だった。
「それじゃ、あの日のことはどう説明するつもりですか。今さら言い逃れは許しませんよ!」
千里が糸色先生の体を掴み、思い切り背伸びをして顔を近づける。
「誤解です。何もありませんでした!」
「嘘は許しません。いいから私の目を見て!」
千里は糸色先生にのしかかるようにして、目をくわっと見開いて迫る。
糸色先生がバランスを崩した。糸色先生が目線を下に向ける。その先に、まといが現れた。糸色先生はさっと掌で目の前を遮った。
「おっと、なにやら危険な気配がします。目を逸らした先に、何かいる気配!」
糸色先生はすぐに体勢を崩して、脇に目を逸らした。
「先生、私と目を合わせてください!」
まといが糸色先生にすがりついて、飛び上がった。糸色先生がまといの目線をかわす。千里がその先に回り込もうとする。糸色先生は素早い動きで、千里の目線を避けた。
それは、まるでボクシングのフットワークだった。糸色先生の動きは素早く、千里とまといを鮮やかな反射能力でかわしていった。千里とまといは、二人で共同して糸色先生の目を捉えようとする。だけど糸色先生の動きに一分の隙はなく、目線どころか顔すら合わせなかった。
糸色先生が千里とまといの一瞬の隙を突いて駆け出した。客間の外に出て、廊下を駆けていく。
「糸色先生!」
「待って!」
千里とまといは、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに糸色先生の後を追って駆け出した。
廊下を駆け抜ける足音が、バタバタと去っていく。
私たちは、その足音が消えるまで茫然と廊下を見ていた。千里とまといの気配が感じられなくなって、ようやく緊張が解けたみたいになった。
「何か、ついていけないって感じよね」
あびるがクールな声にもあきれたものを浮かべていた。
「しょーもないイベントに参加させられたって感じね。私はこんなところで結婚させられるなんてごめんだわ。ねえ、何か暇つぶしできるものはない? ゲームとか、目を合わせないものがいいわ」
カエレが溜息と共に立ち上がって、時田を振り向いた。
「それでは、遊戯室があります」
時田は頭を下げたままの姿勢で、カエレを廊下へと促した。
「私も行くわ」
あびるも立ち上がって、時田とカエレに続いた。
《俺はケータイやってるぜ。ここ 充電し放題だしな》
着物の帯の中で携帯電話が振動した。引っ張り出してみると芽留からのメールだった。
振り向くと、芽留は客間の隅で、こちらに背を向けていた。携帯電話をコンセントに繋げて、すでにネットの世界に没入しているらしい。通信料金は大丈夫なのだろうか。
芽留の着物は赤で、黒の帯を締めていた。着物全体に折鶴がプリントされていた。
客間を見回すと、いつの間にマリアがいない。座布団に座っているのは、私と可符香だけになっていた。
「奈美ちゃんはどうする?」
可符香がいつもの朗らかさで訊ねた。可符香はピンクの着物で、大きな椿の模様が描かれていた。
「私は、えーっと、ちょっと、屋敷の中を探検しようかなぁ」
私はごまかすように言って立ち上がった。なんとなく可符香の目を避けていた。確かに見合いの義は、節目がちになりそうな催しだ。
「ふ~ん、そう。頑張ってね」
私の背中に、可符香が励ましの声を送ってきた。でも私は、見透かされたような気持ちになって、グサリを感じてしまった。
次回 P028 第4章 見合う前に跳べ4 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P027 第4章 見合う前に跳べ
3
時計が12時を回った。どこかで打ち鳴らされた銅鑼の振動が、客間全体を満たした。
「それでは、見合いの義、開始でございます」
時田が力強く、ゲーム開始の宣言をした。
すぐに、千里が糸色先生の側に飛びついた。
「先生。ここは大人しく私と目を合わせて、きちんと籍を入れてください。」
千里が糸色先生に詰め寄る。だけど糸色先生は頭上を見上げて千里の目線をかわした。
「嫌です。私はいろんなものに背を向けて生きてきましたかね。見ないことに関してはプロですよ」
糸色先生は余裕の調子で返した。
千里が糸色先生の隙を探すように、その周囲をぐるぐるとまわる。でも糸色先生は、千里の動きを正確に察して、すばやく反対方向に目を向ける。
私たちは座布団に座ったままの姿勢で、糸色先生と千里のやり取りを見ていた。入っていく隙がない、というか、あの二人は何をしているんだろう、というような傍観者の立場だった。
「それじゃ、あの日のことはどう説明するつもりですか。今さら言い逃れは許しませんよ!」
千里が糸色先生の体を掴み、思い切り背伸びをして顔を近づける。
「誤解です。何もありませんでした!」
「嘘は許しません。いいから私の目を見て!」
千里は糸色先生にのしかかるようにして、目をくわっと見開いて迫る。
糸色先生がバランスを崩した。糸色先生が目線を下に向ける。その先に、まといが現れた。糸色先生はさっと掌で目の前を遮った。
「おっと、なにやら危険な気配がします。目を逸らした先に、何かいる気配!」
糸色先生はすぐに体勢を崩して、脇に目を逸らした。
「先生、私と目を合わせてください!」
まといが糸色先生にすがりついて、飛び上がった。糸色先生がまといの目線をかわす。千里がその先に回り込もうとする。糸色先生は素早い動きで、千里の目線を避けた。
それは、まるでボクシングのフットワークだった。糸色先生の動きは素早く、千里とまといを鮮やかな反射能力でかわしていった。千里とまといは、二人で共同して糸色先生の目を捉えようとする。だけど糸色先生の動きに一分の隙はなく、目線どころか顔すら合わせなかった。
糸色先生が千里とまといの一瞬の隙を突いて駆け出した。客間の外に出て、廊下を駆けていく。
「糸色先生!」
「待って!」
千里とまといは、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに糸色先生の後を追って駆け出した。
廊下を駆け抜ける足音が、バタバタと去っていく。
私たちは、その足音が消えるまで茫然と廊下を見ていた。千里とまといの気配が感じられなくなって、ようやく緊張が解けたみたいになった。
「何か、ついていけないって感じよね」
あびるがクールな声にもあきれたものを浮かべていた。
「しょーもないイベントに参加させられたって感じね。私はこんなところで結婚させられるなんてごめんだわ。ねえ、何か暇つぶしできるものはない? ゲームとか、目を合わせないものがいいわ」
カエレが溜息と共に立ち上がって、時田を振り向いた。
「それでは、遊戯室があります」
時田は頭を下げたままの姿勢で、カエレを廊下へと促した。
「私も行くわ」
あびるも立ち上がって、時田とカエレに続いた。
《俺はケータイやってるぜ。ここ 充電し放題だしな》
着物の帯の中で携帯電話が振動した。引っ張り出してみると芽留からのメールだった。
振り向くと、芽留は客間の隅で、こちらに背を向けていた。携帯電話をコンセントに繋げて、すでにネットの世界に没入しているらしい。通信料金は大丈夫なのだろうか。
芽留の着物は赤で、黒の帯を締めていた。着物全体に折鶴がプリントされていた。
客間を見回すと、いつの間にマリアがいない。座布団に座っているのは、私と可符香だけになっていた。
「奈美ちゃんはどうする?」
可符香がいつもの朗らかさで訊ねた。可符香はピンクの着物で、大きな椿の模様が描かれていた。
「私は、えーっと、ちょっと、屋敷の中を探検しようかなぁ」
私はごまかすように言って立ち上がった。なんとなく可符香の目を避けていた。確かに見合いの義は、節目がちになりそうな催しだ。
「ふ~ん、そう。頑張ってね」
私の背中に、可符香が励ましの声を送ってきた。でも私は、見透かされたような気持ちになって、グサリを感じてしまった。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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