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■2009/08/18 (Tue)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
4
廊下を覗くと、足元で常夜灯が点々と光を投げかけているのが見えた。建物は古いが、意外と設備は新しいのかもしれない。
千里やまといはどっちに行ったのだろう。糸色先生はどこへ逃げたのだろう。私は廊下に出て、とりあえず正面の道を進んだ。
私は千里やまといほど、懸命にはなれない。千里やまといと同じ勢いで糸色先生が好き、とは言えない。でも糸色先生は若くてかっこいいし、落ち着きもあるから、憧れてはいる。こうして歩いていると、ひょっとしたら、棚から牡丹餅が落ちてくるかもしれない。私はその程度のつもりで、糸色先生を捜しはじめた。
間もなく廊下の先に中庭が現れた。中庭に置かれている石灯篭の中で、蝋燭の炎がゆらりと揺れている。中庭を挟んだ向こう側にも屋敷が続いているのが見えた。
私は渡り廊下を抜けて向こう側へ行くと、さらに廊下を進んでいった。どの廊下も点々と常夜灯の光が当てられている。土壁に埋め込まれている美術品が、常夜灯の光で立体的な影を浮かばせていた。私は、襖の装飾や壁に彫られたレリーフを何となく見ながら、廊下を奥へ奥へと進んでいった。
ふと私は、後ろを振り返った。そうすると、果たして自分がどの方向からやってきて、どの角を曲がってきたのかわからなくなってしまった。
私は心をざわざわとさせて、やってきた道を引き返そうとした。襖の模様や、横木に飾られた美術品が手掛かりになるはずだった。でもどの角を曲がっても、見覚えのある風景は出てこなかった。
道に迷った。私はようやく自覚して、本格的に焦った。初めて来る街とかならともかく、まさか誰かの家で迷子になってしまうなんて思いもしなかった。
どうしよう。そうだ、誰かに聞こう。糸色家には、たくさんの召使がいたはずだ。
そう思って辺りを見回した。でも、屋敷はしんと静まり返っていた。自分の胸の鼓動が、はっきり聞こえるくらいだった。
誰もいない。私の焦りは、困惑に変わりつつあった。なんだか周囲の闇が、急に恐いもののように思えてしまった。私はその場にしゃがみこんで、自分を抱くようにした。体が怯えを感じて、小さく震えていた。
すると、どこかで物音がするのを感じた。ざわざわとさざめく風の音に、それとは違うなにかの気配が混じった。
一瞬は不気味に思った。でも私は、誰かに会えるかも、と思って立ち上がった。
音が来た方向をたどって、廊下を進んでいく。廊下はやがて、庭のほうにせり出していった。広い庭園ではなく、茂みが多く、暗い影を落とす小さな庭だった。音は、庭の向うから聞こえてきた。
私はいよいよ本格的に不気味なものを感じた。幽霊や妖怪なんて信じる年頃でもなかったけど、古い様式を持った糸色家は、そういったものが現れそうな雰囲気が辺り一杯に漂っていた。
それでも私は、靴脱石に置かれた草履を履いた。不気味に思う気持ちの中に好奇心もあったし、それに人恋しかった。
庭は真っ暗ではなく、二つの石灯篭が光を放っていた。それを頼りに進んでいくと、奥に細い道があるのに気付いた。細い道は暗かった。細い道に沿って、点々と提灯が配されて、ぼんやりと揺れていた。足元の敷石が鈍く光を宿していた。
霊界トンネル。そんなものがもしあったとしたら、こんな眺めでこんな雰囲気だろう。私はむしろ肝試しの気分になって、真っ暗な細道に入っていった。
あの音は間もなくはっきりとした形を持って聞こえた。何かが鋭く風を切る。それに続くように、強い風が吹くように葉がざわざわと揺れた。あの音の正体はなんだろう、と私は細道を進んだ。
やがて細道を抜けた。細道を抜けると、左手に庭園と繋がっているのが見えた。正面は鬱蒼とした竹林になっていた。そこに、一人の少女が立っていた。
次回 P028 第4章 見合う前に跳べ5 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P028 第4章 見合う前に跳べ
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廊下を覗くと、足元で常夜灯が点々と光を投げかけているのが見えた。建物は古いが、意外と設備は新しいのかもしれない。
千里やまといはどっちに行ったのだろう。糸色先生はどこへ逃げたのだろう。私は廊下に出て、とりあえず正面の道を進んだ。
私は千里やまといほど、懸命にはなれない。千里やまといと同じ勢いで糸色先生が好き、とは言えない。でも糸色先生は若くてかっこいいし、落ち着きもあるから、憧れてはいる。こうして歩いていると、ひょっとしたら、棚から牡丹餅が落ちてくるかもしれない。私はその程度のつもりで、糸色先生を捜しはじめた。
間もなく廊下の先に中庭が現れた。中庭に置かれている石灯篭の中で、蝋燭の炎がゆらりと揺れている。中庭を挟んだ向こう側にも屋敷が続いているのが見えた。
私は渡り廊下を抜けて向こう側へ行くと、さらに廊下を進んでいった。どの廊下も点々と常夜灯の光が当てられている。土壁に埋め込まれている美術品が、常夜灯の光で立体的な影を浮かばせていた。私は、襖の装飾や壁に彫られたレリーフを何となく見ながら、廊下を奥へ奥へと進んでいった。
ふと私は、後ろを振り返った。そうすると、果たして自分がどの方向からやってきて、どの角を曲がってきたのかわからなくなってしまった。
私は心をざわざわとさせて、やってきた道を引き返そうとした。襖の模様や、横木に飾られた美術品が手掛かりになるはずだった。でもどの角を曲がっても、見覚えのある風景は出てこなかった。
道に迷った。私はようやく自覚して、本格的に焦った。初めて来る街とかならともかく、まさか誰かの家で迷子になってしまうなんて思いもしなかった。
どうしよう。そうだ、誰かに聞こう。糸色家には、たくさんの召使がいたはずだ。
そう思って辺りを見回した。でも、屋敷はしんと静まり返っていた。自分の胸の鼓動が、はっきり聞こえるくらいだった。
誰もいない。私の焦りは、困惑に変わりつつあった。なんだか周囲の闇が、急に恐いもののように思えてしまった。私はその場にしゃがみこんで、自分を抱くようにした。体が怯えを感じて、小さく震えていた。
すると、どこかで物音がするのを感じた。ざわざわとさざめく風の音に、それとは違うなにかの気配が混じった。
一瞬は不気味に思った。でも私は、誰かに会えるかも、と思って立ち上がった。
音が来た方向をたどって、廊下を進んでいく。廊下はやがて、庭のほうにせり出していった。広い庭園ではなく、茂みが多く、暗い影を落とす小さな庭だった。音は、庭の向うから聞こえてきた。
私はいよいよ本格的に不気味なものを感じた。幽霊や妖怪なんて信じる年頃でもなかったけど、古い様式を持った糸色家は、そういったものが現れそうな雰囲気が辺り一杯に漂っていた。
それでも私は、靴脱石に置かれた草履を履いた。不気味に思う気持ちの中に好奇心もあったし、それに人恋しかった。
庭は真っ暗ではなく、二つの石灯篭が光を放っていた。それを頼りに進んでいくと、奥に細い道があるのに気付いた。細い道は暗かった。細い道に沿って、点々と提灯が配されて、ぼんやりと揺れていた。足元の敷石が鈍く光を宿していた。
霊界トンネル。そんなものがもしあったとしたら、こんな眺めでこんな雰囲気だろう。私はむしろ肝試しの気分になって、真っ暗な細道に入っていった。
あの音は間もなくはっきりとした形を持って聞こえた。何かが鋭く風を切る。それに続くように、強い風が吹くように葉がざわざわと揺れた。あの音の正体はなんだろう、と私は細道を進んだ。
やがて細道を抜けた。細道を抜けると、左手に庭園と繋がっているのが見えた。正面は鬱蒼とした竹林になっていた。そこに、一人の少女が立っていた。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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