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■2009/08/16 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P026 第4章 見合う前に跳べ


スクリーンに光が失いかけて、客間に照明が戻った。
“見合いの儀”の説明は終った。でも私たちは、さらなる説明を求めるように、スクリーンの右横に立っている時田に注目した。
「何なのよこれ。見合ったら結婚成立なんて、そんな見合い、聞いたことないわよ!」
私の右隣に座っていた千里が憤慨した声をあげた。千里は濃い青の着物で、唐草模様が全体に広がり、点々と白い花が配された柄だった。赤と青の団子状になった鼈甲の髪飾りをつけていた。
「そういう決まりになっているんですから、仕方ありません。大正天皇が神前式を取り入れる以前から続く、糸色家の習わしですから。これは変えるわけには行きません」
糸色先生がぼそっと呟く。糸色先生は私たちの一番左端で、私たちに背中を向けてうなだれていた。
「先生、そんなのでいいんですか。」
千里が糸色先生に厳しい声で問い詰めた。私はまあまあ、と千里を宥めようとした。
「決まりごとですから、これは。私が伏し目がちな人間になった理由がお分かりでしょう」
糸色先生がちょっとこちらに横顔を向けた。糸色先生の言葉には諦めが込められていた。
「あの、“見合いの儀”は理解しました。でも、何で私たち、着物なんですか?」
私は時田を振り返って訊ねた。着物に着替えさせられた理由は、いまだに説明されていない。
「あなたたちも“見合いの儀”に参加していただきます。だから儀式にふさわしい正装にさせてもらったのです」
「はーーー!」
時田の説明に、私と千里が驚きの声を合わせる。
「あなた方だけではありません。旧糸色家の領地内。つまり町中の人間が“見合いの儀”の参加者。目が合ったもの同士、即成立。例外はございません」
時田は重大発表のように強い言葉で宣言した。
もはや私たちは驚きの声すら上げなかった。カエレが何か訴えたそうに立ち上がっていた。クールなあびるも、無表情で目を動揺させていた。朗らかな微笑を浮かばせているのは、可符香と、どうも事態を理解できているのか怪しいマリアだけだった。
「それ本当ですか。本当に糸色先生と結婚できるんですか!」
まといが希望に満ちた声で訊ねた。まといは黄色の着物で、直線とタイルを組み合わせた幾何学模様の柄だった。袴姿ではなかったけど、さすがにまといは和装が似合っていた。
「もちろん。尤もその間、望ぼっちゃまは誰とも目を合わせようとはしませんけどね」
時田は重く頷いて答えた。
私は糸色先生を振り向いた。私の視線を感じたらしく、糸色先生は反射的にぷいんと別の方向を向いた。なるほど、これは手強そうだ。
ふふふ。いい話を聞きましたぞ。このシステムを利用すれば、変な宗教に入信しなくても結婚できる!
なんとなくどこからか生暖かい空気がぬるぬると流れ込んでくる気がした。
「誰か何か喋った?」
私は何となく声を聞いたような気がして、誰となく周りに声をかけた。
「ううん。気のせいじゃない?」
あびるがクールな返事を返した。あびるの着物は、白地に松と羽ばたきかけた鳥の柄だった。
「百歩譲って、着物きせられたのは許そう。でも、なぜ私だけこの丈なのよ!」
カエレが私たちの前にずんずんと進み出た。カエレの着物は黒に近い紺色で、大きな花が一杯に散りばめられ、袖口にレースがちらりと覗かせていた。
そのカエレの着物だけ、スカートが極端に短く、きわどく股間が隠れているだけだった。こうして座った姿勢で見上げると、スカートの裾から白いものがちらりと見えた。私はちょっと恥ずかしくなって目を逸らした。
「それはもう、調査済みでございますから」
時田は堂々と胸を張った。
「訴えてやる!」
カエレの怒りの声が客間一杯に満ちた。

次回 P027 第4章 見合う前に跳べ3 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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