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■2009/08/08 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
3
大通りを外れて住宅街の細い道へ入っていくと、ありふれた街並みに病院の看板が現れた。
「こんなところに診療所なんてあったんだ」
私は看板を見上げながら呟いた。家からそう離れていない場所だったから、意外だった。
でも、看板の文字をちゃんと確認する前に、可符香が先に入口のガラス戸を潜ってしまった。私と千里も、可符香の後を追った。
可符香は靴を脱いで、スリッパに履き替えて中に上がった。入ってすぐのところが待合所になっていて、革張りのベンチと小さなブラウン管テレビが備え付けられていた。だけど、休診日みたいに待合室には人がいない。テレビのささやき声とセミの鳴き声だけが一杯に満ちていた。
私と千里もスリッパに履き替えて、待合室に入った。可符香は廊下を先に進み、診察室のドアを開ける。
「先生、また来ちゃいました!」
可符香が診察室の中の人に元気な声をかける。
可符香が私たちにも「覗いてみなさい」というふうに促した。私と千里は、遠慮がちに診察室を覗いてみた。
「先生!」
私と千里は、同時に驚いた声をあげた。
診察室にいたのは、間違いなく糸色先生だった。机でなにか書物をしていたらしく、それを中断して振り向いたところだった。糸色先生はまるで医者みたいにネクタイを締めて白衣を羽織っていた。
「また、あなたですか。今度は友達まで連れてきて……」
糸色先生は可符香を振り返って諦めたように呟いた。
「あの、糸色先生、ですよね?」
千里が診察室に入っていき、糸色先生の前まで進んだ。でも、違和感があるみたいに、その言葉は慎重だった。
私にも、なんとなく変なものを感じた。糸色先生によく似ているけど、どこか違う。いつも丸みのある眼鏡が今日は四角だったし、髪型も癖がなく落ち着いた感じだ。でもそれ以上に、どこか雰囲気が違っているように思えた。
「望の生徒ですね。私は望の兄の、命です」
糸色 命先生は不機嫌そうなものを取り払って、私たちに笑顔で微笑みかけた。
私は糸色 命の名前を聞いて、考えるように顎に手を当てた。
「えっと……。絶命……先生?」
「くっつけて言うな! こんな名前だから、医院が流行らないんだ!」
命先生は急に感情的になって声を張り上げた。
「先生、落ち着いてください!」
すぐに看護婦が飛び出してきて、命先生を取り押さえようとする。命先生はすっかり我を忘れて、床をのたうったり壁に頭を叩きつけたりしていた。
宥めようとする看護婦との取っ組み合いはしばらく続くようだった。悪意はなくとも、思いつきを口にしてはいけない。私は深く反省した。
そうして1時間が経過した。やっと命先生は正気を取り戻して落ち着いた。
「失礼しました。この程度で取り乱していては、医者は務まりません。今日は何の用事ですか。皆さん、随分健康そうに見えますが」
命先生はスツールの上で悠然と足を組んだ。どうやら、命先生の中ではさっきのできごとはリセットされたらしい。私たちもそれぞれスツールが用意されて座った。
「これのことで、ちょっと聞きたいことがあって来たんです。」
千里が“失踪します”の張り紙を命先生に差し出した。
「私たち、里帰りなんじゃないか、て思っているんです」
可符香が自分の推測を補足する。
命先生は張り紙を受け取って、一つ頷いた。
「ああ、なるほど。弟の文字ですね。弟が書きそうな内容です。時期的にもそうですし、多分、あれでしょう。ちょっと、実家に電話してみます」
命先生は千里に張り紙を返すと、立ち上がり、事務室に入っていった。
私たちはスツールに座ったまま、首を伸ばして事務室を覗き込んだ。事務室は診察室より狭く、棚に薬が一杯に置かれていた。受付も同じ場所にあって、看護婦が私たちを振り返って微笑みかけた。その奥に電話機を置いているらしく、命先生がそこで受話器を手に電話していた。黒のダイヤル式電話だった。
命先生はすぐに用事を終えて、受話器を置いて診察室に戻ってきた。
「やはりそうでした。望は見合いで実家に帰っているようですよ」
命先生は事務室のドアを後ろ手に閉めて、私たちに報告した。
「本当に里帰りかよ! ていうか、見合いってなによ。そういうのは私との関係をきっちり済ませてからにしてよ!」
千里が憤怒の叫びとともに立ち上がった。さらに、凄い気迫で命先生をじっと睨み付けて、
「先生の実家はどこ。すぐに教えなさい。」
それはまるで、脅迫でもするみたいだった。
次回 P018 第3章 義姉さん僕は貴族です4 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P017 第3章 義姉さん僕は貴族です
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大通りを外れて住宅街の細い道へ入っていくと、ありふれた街並みに病院の看板が現れた。
「こんなところに診療所なんてあったんだ」
私は看板を見上げながら呟いた。家からそう離れていない場所だったから、意外だった。
でも、看板の文字をちゃんと確認する前に、可符香が先に入口のガラス戸を潜ってしまった。私と千里も、可符香の後を追った。
可符香は靴を脱いで、スリッパに履き替えて中に上がった。入ってすぐのところが待合所になっていて、革張りのベンチと小さなブラウン管テレビが備え付けられていた。だけど、休診日みたいに待合室には人がいない。テレビのささやき声とセミの鳴き声だけが一杯に満ちていた。
私と千里もスリッパに履き替えて、待合室に入った。可符香は廊下を先に進み、診察室のドアを開ける。
「先生、また来ちゃいました!」
可符香が診察室の中の人に元気な声をかける。
可符香が私たちにも「覗いてみなさい」というふうに促した。私と千里は、遠慮がちに診察室を覗いてみた。
「先生!」
私と千里は、同時に驚いた声をあげた。
診察室にいたのは、間違いなく糸色先生だった。机でなにか書物をしていたらしく、それを中断して振り向いたところだった。糸色先生はまるで医者みたいにネクタイを締めて白衣を羽織っていた。
「また、あなたですか。今度は友達まで連れてきて……」
糸色先生は可符香を振り返って諦めたように呟いた。
「あの、糸色先生、ですよね?」
千里が診察室に入っていき、糸色先生の前まで進んだ。でも、違和感があるみたいに、その言葉は慎重だった。
私にも、なんとなく変なものを感じた。糸色先生によく似ているけど、どこか違う。いつも丸みのある眼鏡が今日は四角だったし、髪型も癖がなく落ち着いた感じだ。でもそれ以上に、どこか雰囲気が違っているように思えた。
「望の生徒ですね。私は望の兄の、命です」
糸色 命先生は不機嫌そうなものを取り払って、私たちに笑顔で微笑みかけた。
私は糸色 命の名前を聞いて、考えるように顎に手を当てた。
「えっと……。絶命……先生?」
「くっつけて言うな! こんな名前だから、医院が流行らないんだ!」
命先生は急に感情的になって声を張り上げた。
「先生、落ち着いてください!」
すぐに看護婦が飛び出してきて、命先生を取り押さえようとする。命先生はすっかり我を忘れて、床をのたうったり壁に頭を叩きつけたりしていた。
宥めようとする看護婦との取っ組み合いはしばらく続くようだった。悪意はなくとも、思いつきを口にしてはいけない。私は深く反省した。
そうして1時間が経過した。やっと命先生は正気を取り戻して落ち着いた。
「失礼しました。この程度で取り乱していては、医者は務まりません。今日は何の用事ですか。皆さん、随分健康そうに見えますが」
命先生はスツールの上で悠然と足を組んだ。どうやら、命先生の中ではさっきのできごとはリセットされたらしい。私たちもそれぞれスツールが用意されて座った。
「これのことで、ちょっと聞きたいことがあって来たんです。」
千里が“失踪します”の張り紙を命先生に差し出した。
「私たち、里帰りなんじゃないか、て思っているんです」
可符香が自分の推測を補足する。
命先生は張り紙を受け取って、一つ頷いた。
「ああ、なるほど。弟の文字ですね。弟が書きそうな内容です。時期的にもそうですし、多分、あれでしょう。ちょっと、実家に電話してみます」
命先生は千里に張り紙を返すと、立ち上がり、事務室に入っていった。
私たちはスツールに座ったまま、首を伸ばして事務室を覗き込んだ。事務室は診察室より狭く、棚に薬が一杯に置かれていた。受付も同じ場所にあって、看護婦が私たちを振り返って微笑みかけた。その奥に電話機を置いているらしく、命先生がそこで受話器を手に電話していた。黒のダイヤル式電話だった。
命先生はすぐに用事を終えて、受話器を置いて診察室に戻ってきた。
「やはりそうでした。望は見合いで実家に帰っているようですよ」
命先生は事務室のドアを後ろ手に閉めて、私たちに報告した。
「本当に里帰りかよ! ていうか、見合いってなによ。そういうのは私との関係をきっちり済ませてからにしてよ!」
千里が憤怒の叫びとともに立ち上がった。さらに、凄い気迫で命先生をじっと睨み付けて、
「先生の実家はどこ。すぐに教えなさい。」
それはまるで、脅迫でもするみたいだった。
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