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■2009/08/04 (Tue)
シリーズアニメ■
前巻までのあらすじ(第6集より)
華の帝都でなぜか中高年に人気の霊媒師、望。はるばる招かれたのは、おはようからおやすみまで全ての挨拶が土下座という村、亡皺家有馬村。サンスクリット語で「35歳ニート」を意味するその村の長いわく「実は村の娘が大変なことに。きっとプロレタリア文学を読んだ崇りなんです。」と奥座敷に通されてみれば、村人が百年に一度の凶兆と恐れる逆土下座。前向きな土下座ととらえられなくもないが、それはそこ、霊媒師として風呂敷広げにゃならんと出た発言は、「これはケムコのCGです。」カルモチンを多量に飲めば治ります。
過多たたき
原作174話 昭和84年3月17日掲載
体育館では上級生たちを送る卒業式が始まっていた。その体育館の脇で、糸色望が震えながら桜の陰に隠れている。原作174話 昭和84年3月17日掲載
穏やかな春の陽射しに、散り落ちる桜の花びらが景色を桃色に染めている。
しかし糸色望の表情は、青く引き攣っていた。
「三年生は、卒業式なんですね。なに、びくびくしているんですか?」
千里が望を見つけ、呆れたように声をかける。
望は思わず「びくっ」と体をのけぞらせる。
「びくびくなんてしていません! 別にお礼参りを怯えているわけではないんですからね」
望は千里を振り向き、訊ねられてもいない言い訳を始める。
「……怯えているんだ。」
千里は呆れ果てて、哀れなものを見るような目をし始めた。
「怯えてないって言ってるでしょ!」
「おい、絶望!」
突然、樹上から声。
「ひえ!」
望は防犯ブザーを鳴らす。辺りに「ぴょー」の声がこだまする。
「そんなものを持ち歩いて、お前は女子中学生か!」
千里は耳を塞いで、大声で罵った。
「先生、三年生受け持っていないから、関係ないでしょう? それより、なんですか、これ?」
あびるは冷淡に場を諌めて、注目を集めた。
あびるの目の前に、看板がひとつ。『第44回 涙の卒業式』。そう書かれた看板が、桜の木に掲げてあった。
「“涙の卒業式”って。確かに卒業式って泣けるものだけど。わざわざこう書かれるともう、泣けない」
あびるは看板を見ながら、独白のように呟いた。
望は活力を取り戻して振り返った。
「よくぞ気付きました! 過剰な煽り文句に! もう日本人はこの手のコピーに騙されないんです! それを枕言葉につけることにより、むしろ懐疑的になる。
『爆笑』とつくともう爆笑できなくなったり、
『感想のフィナーレ』とか銘打たれると、もう感動できなくなったり、
普通の市民に『プロ』とつけると、ご近所付き合いしてもらえなくなったり、
国家に『地上の楽園』とかつけると、もう絶対楽園じゃない感じ。
言ってしまえば、過多書きです! わかりやすく言うと、アレです!」
糸色望は堂々と演説をぶって、その方向を指差した。
「私、これでも中学のときオモシロ人間で通ってたんだ」
得意げに語る日塔奈美。春の暖かな空気が、冷たく固まっていくのを誰もが感じていた。
しかし、風浦可符香は望の前に現れて、笑顔で訂正する。
「いやだなぁ、これくらい背負えないようでは、勝負の世界では通用しません」
と可符香が案内したのは、アキバ系で超人気の肩書きの多い専門店。中で待っていたのは、社会派として知られるニューカマーコメディアンの糸色倫。そこでは、夢大将を背負った人たちがトランプゲームを興じていた。ルールはババ抜きと一緒。ただし、最後になったものはトランプに書かれているシニカルギャグの金字塔的な肩書きを背負うことになってしまう。ハイパーメディアクリエイターなどのうっかりな肩書きを背負わないよう、ビッグマグナム先生、糸色望は勝負の世界に身を投じる……。
(以前、ビッグバンという名前のアニメスタジオがあったことはスルーしてあげてください)
絵コンテ:龍輪直征 演出:所俊克 作画監督:小林二三
色指定:佐藤加奈子 制作協力:MAP
アーとウルーとビィの冒険
原作166話 昭和84年1月14日掲載
冬の寒い空。音も立てずに雪が辺りに散っている。原作166話 昭和84年1月14日掲載
木津千里は孤独な気持ちで白く霞む空を見上げていた。
憂鬱を感じていた。今年の初めから、想いは決して晴れない。ブルーだった。
「原因は?」
可符香が心配そうに千里に訊ねた。
原因、それは……、
「“うるうだ”。今年1月1日に、うるう秒が1秒あってから、ずーっとイライラしているの! なぜそんな秒が生じてしまうのか、なぜ、きっちりできないのかと!」
そう。その年の1月1日午前9時――1秒のうるう秒が調整された。
「1秒くらいいいじゃない。言わなきゃ誰も気付かないのに」
奈美が千里を振り向いて、軽く声をかけた。
誰も、気付かない。
その言葉を聞いて、急に糸色望が震え始めた。
「どーしたんですか、先生」
あびるが糸色望に訊ねる。
「うるう秒なんて、まだいいです。このクラスに、うるう人が増えているかもしれません!」
望は恐怖に引き攣った声で、クラス全員を宣言した。
だが、生徒たちはぽかんと沈黙してしまった。
「うるう人?」
奈美が誰も答えを返さない望に、気を遣うように鸚鵡返しにした。
「うるう年やうるう秒があるのだから、うるう人がいてもおかしくありません! 奴はいつの間にか増えている。日や時間が少し増えたり減ったところで、もし時計やカレンダーが無かったら、いったいどれだけの人が気付くというのでしょう」
糸色望は警告するかのように、説教節を始めた。
「いやあー、でも皆、前から知っているんだし」
奈美は呆れながら論を正そうとした。
「知っている? 本当に? うるう秒がこともなげにごく自然に存在するように、うるう人もあたかも自然にまるで昔からいたかのように存在しているのかもしれないのです。この中の誰かが、うるう人かもしれないのです!」
緊張の走る教室。
確かに現実世界、人が多いときがある。
飛行機のダブルブッキング。
アフタヌーンの合コンに呼んでもいないのにやって来るマガジン編集者。
それから、アフレコに勝手にやって来る素人とか。
それだけではない。うるう人は集団で発生することがある。しかも、彼らうるう人は日本の経済活動において、すでに欠かせない存在となりつつあるのだ。例えば、
ガラガラの野球場なのに、「本日の入場者数、5万5000人です」の発表。
誰も買っていないのに、オリコンチャート1位を獲得するCD。
2000人しか参加していないデモなのに、主宰者発表11万人。きっとうるう人が10万8000人が参加していたに違いない。
そう、うるう人こそが、日本の経済を支えているのだ。
『うるう』に関する正しい説明→ウィキペディアの『うるう』へ
絵コンテ:龍輪直征 演出:所俊克 作画監督:中村直人 潮月一也 色指定:石井里英子
ライ麦畑で見逃して
原作第105話 昭和82年8月8日掲載
縁日だった。お寺の前の石畳の通りに賑やかな通りでは、出店でひしめき、賑っていた。原作第105話 昭和82年8月8日掲載
「先生、捕まえた」
あびるが包帯を糸色望を手首に絡ませる。その声は、始まったばかりの恋にときめいていた。
「ははは。掴まってしまいましたか。ならばここは、キャッチ&リリースでどうでしょう」
望は引き攣った笑いを浮かべ、あびるに提案をした。
「キャッチ&リリース?」
あびるはきょとんとして首をかしげた。
「そう、なぜなら今日は放生会ですし。仏教の年中行事のひとつで、捕えた魚介や動物を放ってあげるという善行をする日です。と同時に、他人の失敗や間違いを見逃してあげる日でもあるのです。つまり、リリースすると同時に、先週の影武者での一件を見逃していただけるとありがたい日なのです! リリースしていただき、ありがとうございます!」
糸色望は一方的に言い放って、突然駆け出した。包帯が千切れる。あびるはただ驚くばかり、望を追えなかった。
「放生会ですね」
逃げ出した糸色望の前に、艶やかな着物姿の可符香が現れた。
「何ですかあなたは。唐突に現れて」
望は手に絡みついた包帯をほどきながら、可符香にいくらの警戒心を持ちながら声をかけた。
「見逃してあげる優しさ。放生会は本日に限らず、もはや日本人のライフスタイルになっているのです。それがスルーライフです」
可符香はいつもの暖かさのこもった微笑で、スルーライフを提言した。
「スルーライフ? スローライフっていうのは聞いたことがありますが?」
望は顎を撫でて少し考えるふうにした。
「スルーライフですよ。
道で倒れている人をスルーしたり、
隣の子供の悲鳴をスルーしたり、
教室での過剰なじゃれ合いをスルーしたり、
そんな見逃してあげる日本人の優しさ。先生もすでに、スルーライフを実践していらしたんですね」
可符香は歩きながら、望を尊敬の目で振り返った。
「していませんから!」
望は全力で否定する。
二人はやがてお寺を外れ、静かな住宅街へと入っていく。祭の喧騒や太鼓の振動が、背景に遠ざかっていく。
「そんなスルーライフを実践している呂羽須さん一家です」
可符香はある家庭を紹介する。呂羽須は夫婦で望と可符香を迎えた。望は、すぐに呂羽須の主人の頭髪に、違和感のようなものに気付いてしまう。
「何か?」
「あ、いえ……」
望は言い出しにくく、ごまかす。
「スルーライフですよ、先生」
可符香がそっと望に忠告した。
「どうぞ、昼食でも食べていって下さい」
と呂羽須夫婦に差し出されたのは、立派な漆塗りの箱に入れられたうな丼。暖かそうな湯気がほかほかと立ち昇っている。
「大変申し上げにくいのですが、このうなぎの産地はどこですか?」
糸色望は箸を手に、躊躇した。
「そのウナギはスルーフードなので」
呂羽須は静かに言い放った。
「ウナギはスローフードですが、産地不明なウナギはスルーフードです」
可符香が注釈を加えた。
「ああ、スローフードとスルーフードの間に、ものすごい格差社会を感じます」
望はどんより顔を曇らせた。
「ここは私たちがよく利用するスーパーマーケットです。スルーフードの品揃えが豊富です。何の肉を使っているかはスルーな加工品とか、再利用したスルーした乳製品とか、明らかに安すぎるブランド米とか」
呂羽須夫婦が行きつけのスーパーマーケットを紹介する。
そんなスーパーマーケットに、なぜかいる千里。
「ちょっと、どうなっているの、この野菜! きちんと産地表示しなさいよ! ……あれ、先生?」
千里は商品に怒鳴りつけて、それから望がいるのに気付いて振り返った。
「木津さん、どうしたんですか?」
望は千里の暴走を止めようと声をかける。
「いろいろ見逃してあげる優しい生活だよ」
可符香が今回のお題を説明した。
「スルーライフ? ん? なんか、同じネタ、昔、やらなかったっけ?」
千里は何か思い出すように宙を見上げた。
「その辺はスルーで」
望と可符香がぴったり気持ちを合わせて声を揃えた。
つづく
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:岩崎安利 色指定:佐藤加奈子『懺・さよなら絶望先生』第4回の記事へ
『懺・さよなら絶望先生』第6回の記事へ
懺・さよなら絶望先生 シリーズ記事一覧へ
作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
矢島晶子 杉田智和 後藤沙緒里 寺島拓篤
斎藤千和 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
特別出演:畑健二郎
この番組はフィクションです。
実在する地上の楽園、おもしろまんがさよなら絶望先生、ブルーマン、アフレコに遊びに来て声をあてて収録後に女性声優さんたちと記念写真を撮っていった漫画家の畑健二郎先生とそのアシスタントさんとサンデー編集者の方とは、一切関係ありません。
実在する地上の楽園、おもしろまんがさよなら絶望先生、ブルーマン、アフレコに遊びに来て声をあてて収録後に女性声優さんたちと記念写真を撮っていった漫画家の畑健二郎先生とそのアシスタントさんとサンデー編集者の方とは、一切関係ありません。
さのすけを探せ!
『肩たたき』のタイトルバック。左下隅に、ちいさく断片が映っている。ちょっとわかりにくいと思う。
(この画像はクリックすると拡大されます)
『アーとウルーとビィの冒険』
千里の子供時代の回想。クッションらしきものに描かれたさのすけ。原作どおりの配置。
三本目『ライ麦畑で見逃して』のタイトルバック。
左端の提灯と思わしきものが実はさのすけ。縮小画面だとわかりにくいと思う。
スルーフード専門に扱うスーパーマーケット。
大草麻菜実の手前にある棚にさのすけ。これは色がないとわかりにくいと思う。
おまけ
呼ばれてもいないのにアフレコに来てしまった素人の実例。まさかの畑健二郎御本人。といっても、知らない人がいるのではないかと思うので解説。
畑健二郎は、『さよなら絶望先生』の作者、久米田康治の弟子。
間もなく久米田康治から独立し、サンデー誌で『ハヤテのごとく!』を連載開始。これがスマッシュヒット。現在も連載継続中。
しかし久米田康治は弟子の成功を喜ぶどころか、激しく嫉妬し、「踏み台にされた」と逆恨み。という経緯で、『さよなら絶望先生』においても何度もネタにされている。
……とはいえ、実際はそこまで仲が悪いわけではないらしい。
絶望絵描き歌
左:斎藤千和
右:矢島晶子
斎藤千和は、最初から違うものを書く気でマンマン。これは、『パックマン』のアレかしら?
矢島晶子は潰れた『ボンバーマン』の火力アップアイテム。どうやら原点(原因?)は新谷良子にあるらしい。新谷良子流の絶望先生が、本家を越えて広まってしまっている。
ちなみに、ヘッドフォンで聞くと、斎藤千和の歌声を聞くことができる。是非お試しを。
エンドカード
ここでうるうページが発生してしまったので、調整のためしばらくお付き合いください
ここでうるうページに対するうるうオチが発生しました。もうしばらくお付き合いください
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