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■2009/08/09 (Sun)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
5
新幹線が蔵井沢駅に到着した。私たちは新幹線を降りて、三角屋根の改札口を潜って北口から駅の外に出た。
駅は一段高いところにあって、駅前の風景が一望できた。蔵井沢の街は、建物の屋根が低く、視界を遮るものが少なくすっきりと開けた感じがあった。夏の盛りだというのに、巡り来る風は少し冷たく思えるくらいだった。さすが避暑地といった感じの空気だった。
すでに夕暮れの時刻に入りかけていた。斜めに射し込む光が柔らかく色づき始め、影が長く伸びていく。
「どっちに行けばいいのかしら。誰か蔵井沢に来たことのある人いる?」
千里が初めて不安な顔を浮かべて私たちを見回した。私たちは誰も答えず、ただ視線を返した。
蔵井沢駅を出たところは広い踊り場のようになっていて、左右に長いスロープが延びて地面と接地していた。スロープは駅前広場を両手で囲むように伸びていた。
「とにかく、交番に行って住所を聞くのがいいんじゃない?」
私は千里に提案した。どこでも駅前には交番があるものだ。
《俺のGPS使えるぜ》
すると全員の携帯電話が振動した。芽留がもじもじと背を向けながらメールを打っていた。確かにGPSがあるんだったら、交番にもいかなくてもいいかな。
「待って。皆、あそこを見て」
可符香が何かに気付いたように、踊り場の端へ行き、下の駅前広場を指した。
私たちも踊り場を囲む欄干の前まで進んだ。踊り場から見下ろすと、すぐ下は小さな公園になっていて、背の高い木が葉を茂らせていた。
可符香が指をさしていたのはそこではなく、スロープの右手の足元だった。そこで、背の高い女の子が私たちを見上げて手を振っていた。
まさかと思ったけど、手を振っているのは小節あびるだった。その隣に、木村カエレが腕組をして立っていた。
私たちはスロープを駆け下りて、あびるとカエレの前まで進んだ。
「どうして。どうして二人ともここにいるの?」
私はびっくりして二人に声をかけた。
「ベンガルタイガーの尻尾を追いかけていたら、いつの間に……」
あびるはいつもの感情のないクールな声で言葉を返した。
「僕もいますよ」
あびるは白い飾りのないシャツに、茶色のカーゴパンツを穿いていた。ゴーグルのついたヘルメットを被っていた。どうやらバイクでやってきたらしい。こうしてセーラー服以外の格好を見ると、意外とというか、かなり胸が大きいと気付いた。
「私はこの失礼な女を告訴してやろうと追いかけていたのよ!」
カエレはどういうわけかつんつんとして、ぷいっとそっぽ向いてしまった。
カエレは真っ白のワンピースに野球帽を被っていた。ちぐはぐしたファッションだけど、カエレくらい日本人離れしたプロポーションだとなんでも似合う気がした。
「みんなそれぞれ、理由があってここにたどり着いたというわけね。これは、何か裏がありそうね。」
千里が考えるように顎を手に当てた。
そんな私たちの前に、すっと何者かが近付いてきた。私たちは皆で何者かを振り返った。
「お待ちしておりました。望ぼっちゃまの生徒の皆様」
白い髪を後ろに撫で付け、鼻の下に立派なカイザー髭を蓄えた老人だった。老人は細く痩せていて、黒の礼装を身にまとい、私たちにかしこまって頭を下げる。
「セバスチャン!」
可符香が老人を見て声をあげた。私も同じことを思った。
「時田と申します。セバスチャンというのは、幼少の頃の何かによる刷り込みかと思われます。さて、最後の一人が到着したようですね。そろそろ出発しましょう」
時田が言いながら、私たちの後方に目を向けた。
私たちは促されるように後ろを振り返った。するとそこに、リンゴを両手一杯に抱えたマリアが立っていた。マリアはいつものよれよれのセーラー服姿に裸足という格好で、私たちに天真爛漫な微笑を見せた。
次回 P020 第3章 義姉さん僕は貴族です6 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P019 第3章 義姉さん僕は貴族です
5
新幹線が蔵井沢駅に到着した。私たちは新幹線を降りて、三角屋根の改札口を潜って北口から駅の外に出た。
駅は一段高いところにあって、駅前の風景が一望できた。蔵井沢の街は、建物の屋根が低く、視界を遮るものが少なくすっきりと開けた感じがあった。夏の盛りだというのに、巡り来る風は少し冷たく思えるくらいだった。さすが避暑地といった感じの空気だった。
すでに夕暮れの時刻に入りかけていた。斜めに射し込む光が柔らかく色づき始め、影が長く伸びていく。
「どっちに行けばいいのかしら。誰か蔵井沢に来たことのある人いる?」
千里が初めて不安な顔を浮かべて私たちを見回した。私たちは誰も答えず、ただ視線を返した。
蔵井沢駅を出たところは広い踊り場のようになっていて、左右に長いスロープが延びて地面と接地していた。スロープは駅前広場を両手で囲むように伸びていた。
「とにかく、交番に行って住所を聞くのがいいんじゃない?」
私は千里に提案した。どこでも駅前には交番があるものだ。
《俺のGPS使えるぜ》
すると全員の携帯電話が振動した。芽留がもじもじと背を向けながらメールを打っていた。確かにGPSがあるんだったら、交番にもいかなくてもいいかな。
「待って。皆、あそこを見て」
可符香が何かに気付いたように、踊り場の端へ行き、下の駅前広場を指した。
私たちも踊り場を囲む欄干の前まで進んだ。踊り場から見下ろすと、すぐ下は小さな公園になっていて、背の高い木が葉を茂らせていた。
可符香が指をさしていたのはそこではなく、スロープの右手の足元だった。そこで、背の高い女の子が私たちを見上げて手を振っていた。
まさかと思ったけど、手を振っているのは小節あびるだった。その隣に、木村カエレが腕組をして立っていた。
私たちはスロープを駆け下りて、あびるとカエレの前まで進んだ。
「どうして。どうして二人ともここにいるの?」
私はびっくりして二人に声をかけた。
「ベンガルタイガーの尻尾を追いかけていたら、いつの間に……」
あびるはいつもの感情のないクールな声で言葉を返した。
「僕もいますよ」
あびるは白い飾りのないシャツに、茶色のカーゴパンツを穿いていた。ゴーグルのついたヘルメットを被っていた。どうやらバイクでやってきたらしい。こうしてセーラー服以外の格好を見ると、意外とというか、かなり胸が大きいと気付いた。
「私はこの失礼な女を告訴してやろうと追いかけていたのよ!」
カエレはどういうわけかつんつんとして、ぷいっとそっぽ向いてしまった。
カエレは真っ白のワンピースに野球帽を被っていた。ちぐはぐしたファッションだけど、カエレくらい日本人離れしたプロポーションだとなんでも似合う気がした。
「みんなそれぞれ、理由があってここにたどり着いたというわけね。これは、何か裏がありそうね。」
千里が考えるように顎を手に当てた。
そんな私たちの前に、すっと何者かが近付いてきた。私たちは皆で何者かを振り返った。
「お待ちしておりました。望ぼっちゃまの生徒の皆様」
白い髪を後ろに撫で付け、鼻の下に立派なカイザー髭を蓄えた老人だった。老人は細く痩せていて、黒の礼装を身にまとい、私たちにかしこまって頭を下げる。
「セバスチャン!」
可符香が老人を見て声をあげた。私も同じことを思った。
「時田と申します。セバスチャンというのは、幼少の頃の何かによる刷り込みかと思われます。さて、最後の一人が到着したようですね。そろそろ出発しましょう」
時田が言いながら、私たちの後方に目を向けた。
私たちは促されるように後ろを振り返った。するとそこに、リンゴを両手一杯に抱えたマリアが立っていた。マリアはいつものよれよれのセーラー服姿に裸足という格好で、私たちに天真爛漫な微笑を見せた。
次回 P020 第3章 義姉さん僕は貴族です6 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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