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■2009/08/11 (Tue)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
7
糸色先生をキャデラックの中に監禁して、再び進み始めた。
間もなく田圃ばかりの風景に、お城のように高い塀が現れた。瓦屋根を備えた白漆喰を塀で、それが水平線を遮るように東西どこまでも伸びていた。その塀の向こう側に、瓦屋根が幾重にも折り重なるのが見えた。その様子は、まるで大きな時代劇のセットを外から見るようだった。
キャデラックは、真直ぐ白漆喰の塀に近づいた。塀に沿うように伸びる道を曲がって進むと、大きな追手門が現れた。槍を持った騎馬がもしいたとしても、問題なく通れそうな高さの門だった。
当然、その中へ入っていくのだ。キャデラックが近付くと、追手門が仰々しく開いた。追手門に駐在する涼しい格好の警備員たちが、キャデラックに向かって頭を下げる。私は、警備員の数を6人まで数えたが、その倍の数はいそうだった。
いよいよ、糸色先生の家の敷地へとキャデラックが入っていく。
追手門をくぐるとそこは広々とした日本庭園になっていた。緑の芝生を分けるように砂利が敷き詰められた道路が続き、キャデラックがゆっくり進んでいく。
日本庭園には、丸い形に刈り込まれた松の木や、それに形を合わせた石がいくつも配されていた。そんな風景の向うに、数奇屋造りの建物が建っていて、庭に面した廊下を女中らしい赤い着物の女たちがいそいそと駆け回るのが見えた。
「すごい。本当に豪邸だ」
私はあまりにも平凡な感想を呟いた。他の表現はどうしたって思いつきそうになかった。
「私のいた国でも、ここまでの大きな屋敷にはお目にかかったことはないわ」
カエレも感心したように窓の外に見入っていた。
「糸色家の現在の当主は、望様のお父様であり、地元選出の代議士、大様でございます」
時田が誇らしげに説明を始めた。
「望様は四男に当たり、3人のお兄様がいらっしゃいます。長男の縁様。次男の日本芸術院の景様。三男は医者であられる命様でございます。それから望様の下には、妹君の倫様がいらっしゃいます。倫様は若干17歳にして糸色流華道師範でもあり、3千人のお弟子を抱えておられる方であります」
私は言葉もなく時田の説明を聞いていた。糸色家の人は、みんなすごい経歴を持っているんだなと素直に感心した。特に興味を引いたのは、17歳で華道の師範であるという倫だった。私たちと変わらない年齢の、ううん、私は早生まれだから1歳年上だけど、同じ年頃でもまったく違う次元を生きている女の子がいるんだ、と感動した。
キャデラックはやがて、大きな三角屋根の書院つくりの建物の中に入っていった。いや、そこはガレージだった。中は広い土間のようになっていて、車を停めるところが、ちょうど板間と接していた。土足禁止車でも、靴を履かず、そのまま家の中に入れるようになっていた。
ガレージの中は広々としていて、左手には座敷があり、開けたままの障子から暗くなりかけた光が差し込んでいた。右手はすぐに行き止まっていて、締め切られた扉があった。正面は飾り棚ふうになっていて、工具やタイヤが美術品みたいに並んでいた。
「さて、到着です。皆様、長い旅、ご苦労様でございます。女中が部屋に案内しますので、しばらくごゆるりとくつろぎください」
時田が私たちを振り向き、頭を下げた。
次回 P022 第3章 義姉さん僕は貴族です8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P021 第3章 義姉さん僕は貴族です
7
糸色先生をキャデラックの中に監禁して、再び進み始めた。
間もなく田圃ばかりの風景に、お城のように高い塀が現れた。瓦屋根を備えた白漆喰を塀で、それが水平線を遮るように東西どこまでも伸びていた。その塀の向こう側に、瓦屋根が幾重にも折り重なるのが見えた。その様子は、まるで大きな時代劇のセットを外から見るようだった。
キャデラックは、真直ぐ白漆喰の塀に近づいた。塀に沿うように伸びる道を曲がって進むと、大きな追手門が現れた。槍を持った騎馬がもしいたとしても、問題なく通れそうな高さの門だった。
当然、その中へ入っていくのだ。キャデラックが近付くと、追手門が仰々しく開いた。追手門に駐在する涼しい格好の警備員たちが、キャデラックに向かって頭を下げる。私は、警備員の数を6人まで数えたが、その倍の数はいそうだった。
いよいよ、糸色先生の家の敷地へとキャデラックが入っていく。
追手門をくぐるとそこは広々とした日本庭園になっていた。緑の芝生を分けるように砂利が敷き詰められた道路が続き、キャデラックがゆっくり進んでいく。
日本庭園には、丸い形に刈り込まれた松の木や、それに形を合わせた石がいくつも配されていた。そんな風景の向うに、数奇屋造りの建物が建っていて、庭に面した廊下を女中らしい赤い着物の女たちがいそいそと駆け回るのが見えた。
「すごい。本当に豪邸だ」
私はあまりにも平凡な感想を呟いた。他の表現はどうしたって思いつきそうになかった。
「私のいた国でも、ここまでの大きな屋敷にはお目にかかったことはないわ」
カエレも感心したように窓の外に見入っていた。
「糸色家の現在の当主は、望様のお父様であり、地元選出の代議士、大様でございます」
時田が誇らしげに説明を始めた。
「望様は四男に当たり、3人のお兄様がいらっしゃいます。長男の縁様。次男の日本芸術院の景様。三男は医者であられる命様でございます。それから望様の下には、妹君の倫様がいらっしゃいます。倫様は若干17歳にして糸色流華道師範でもあり、3千人のお弟子を抱えておられる方であります」
私は言葉もなく時田の説明を聞いていた。糸色家の人は、みんなすごい経歴を持っているんだなと素直に感心した。特に興味を引いたのは、17歳で華道の師範であるという倫だった。私たちと変わらない年齢の、ううん、私は早生まれだから1歳年上だけど、同じ年頃でもまったく違う次元を生きている女の子がいるんだ、と感動した。
キャデラックはやがて、大きな三角屋根の書院つくりの建物の中に入っていった。いや、そこはガレージだった。中は広い土間のようになっていて、車を停めるところが、ちょうど板間と接していた。土足禁止車でも、靴を履かず、そのまま家の中に入れるようになっていた。
ガレージの中は広々としていて、左手には座敷があり、開けたままの障子から暗くなりかけた光が差し込んでいた。右手はすぐに行き止まっていて、締め切られた扉があった。正面は飾り棚ふうになっていて、工具やタイヤが美術品みたいに並んでいた。
「さて、到着です。皆様、長い旅、ご苦労様でございます。女中が部屋に案内しますので、しばらくごゆるりとくつろぎください」
時田が私たちを振り向き、頭を下げた。
次回 P022 第3章 義姉さん僕は貴族です8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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