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■2016/07/06 (Wed)
創作小説■
第14章 最後の戦い
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10
クロースの軍勢が、密林の中へと踏み込んできた。しかしその勢力は、密林の深さに分断され、細く長い小道で引き延ばされてしまった。森を進むクロースの兵士達は、しんとした静寂の中を進んでいった。彼らには、樹齢千年を越える霊木は、グロテスクな物体に映っていた。
静寂が深く、森の奥から妖精が囁くような声が聞こえてきた。クロースの兵士達は、何だろうと耳を澄ませる。
と、何かが走り抜けた。風の刃だ。風の刃は兵士達の行列を駆け抜け、兵達を切り刻んだ。油断した何人かは、首を刎ね飛ばされた。
同時に、脇道からオークを先頭にした僧兵が飛び出してきた。クロース兵は身構える間もなく、オーク達に斬り伏せられた。戦いに参加しようと思っても、密林の深さゆえに、その前で踏みとどまるしかなかった。オークは迫り来る兵士を、1人1人斬り伏せた。
間もなくクロース兵達は、密林に魔法使いが隠れているのに気付いた。森の向こうに矢を投げ入れる。だがその矢は魔法の盾に防がれた。
対する魔法の刃は、何重にも折り重なる幹を潜り抜け、兵達を薙ぎ払う。
魔法の攻撃は風魔法だけにとどまらなかった。突然、クロース兵達の足下が吹っ飛んだ。兵達の列が衝撃に吹っ飛んだ。さらに幻術がクロース兵達に取り憑く。クロース兵はいるはずのない敵に惑わされ、でたらめに剣を振った。
オークは圧倒的な剣術で、魔法攻撃を切り抜けてくる兵士達を切り刻む。クロース兵達は一歩も進めなくなった。
だがクロース兵たちは数の面で絶対有利だった。クロースは次々に兵を投入した。時間が経るにつれて、魔術師の魔力にも、僧兵達の剣術にも、鈍りが見え始めた。クロース兵達はそこを付けいり、突破口を切り開いた。魔術師は矢で射られ、僧兵達はそこに群がる骸の仲間に加わった。
クロース兵はじわりじわりと森の奥へと攻略を進めていく。
ドルイドは数を減らしつつも、強行に抵抗し続けた。クロース兵達が進撃してくると、魔法使い達は魔法で大木に切り傷を入れた。すると高さ数十メートルにもなる巨木が、めりめりと音を立てて兵達の列をめがけて倒れた。
神を宿した大木の倒壊は凄まじく、山全体を震えさせ、土煙は雲に届くくらいに噴き上がった。
それでもクロース兵達は留まらなかった。クロース兵達は、倒れた幹の上に、巨大な橋を作り、軍団を進行させた。オーク達がクロース兵達に白兵戦を挑んだ。オークの剣術は凄まじく、たった1人で何十というクロース兵達を斬り倒した。
クロースの勢力は苛烈を極め、僧兵達は少しずつ後方へと押しのけられた。2日目の夜が訪れる頃には、戦いの中心はクリアリングの直前まで下がってきていた。もう今度こそ、後のない状況だった。
老師
「…………」
ソフィー
「老師様、ご指示を。戦いが迫っております」
ソフィーは言いながら、魔法を放った。杖の先から、魔法の刃を繰り出す。
クリアリングは静寂そのものだった。だがそこから一歩外に出ると、戦いの狂騒が溢れ出す。オーク達が今も戦っていた。
もはやドルイド達は戦いを続ける戦力がなかった。森のあちこちで死体が放り出されている。暗がりに入って行くと、必ず誰かの死体が転がっていた。もはや敗北は目前ではなく、確定的なものだった。
老師
「……なんということだ。ドルイドのほとんどがたった1人の弟子に知る全てを託す。どのドルイドにも、その者にしか知らない言葉や秘術があった。記録、歴史、王達が偽りに塗り固めたあらゆる事象の真実。……それが、こんなふうに失われるなんて……」
老師の目に涙が溢れた。それまで彼を支えていた気丈さが失われていくようだった。
ソフィー
「それでも皆戦っているのです。命を落とすのも覚悟の上。それでもここは守らなねばなりません」
老師は決心を固めるように、首を振った。
老師
「――ここを出よう。もうこれ以上、命失われるのを見たくはない。止められるのなら、今止めよう」
老人の独り言のように呟き、杖をそこに突き立てた。魔法の杖が、空中で直立不動になった。
ソフィーはそれで全てを察した。老師を振り向き、持っている杖を掲げた。
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