講談社コミックス『さよなら絶望先生 第16集』に付属する、限定生産されたオリジナル・アニメーション・DVDのシリーズ第2弾だ。
テレビシリーズで構築された表現、技法はそのまま踏襲され、ここで改めて作品に論じるべきものはない。
『獄・さよなら絶望先生・下』において、最も注目すべきは、そのオープニングシーンだ。
過去のオープニングシーンが蒐集され、あえて継ぎ接ぎだらけにし、稚拙な色彩をで塗りたくり、そのうえに容赦なく切り刻んで列挙する。
それがオープニングテーマ曲とマッチした瞬間、途方もない毒々しさが吐き出され、かつてない病的イメージを作り出している。
まるで、悪夢そのものが動き出しているようであり、絶望先生という自在さを見事に味方につけている。
日本アニメーションのもはや単調ともいえる線の構成は、徹底的に破壊され、陵辱され、作家自身のイマジナリィを直裁的に刻印している。
作品の毒は、オープニングによってどこまでも強烈に強められている。
オープニング主題歌についても記さねばならない。
今回もオープニング曲は、大槻ケンジと絶望少女たちが熱唱している。
それに加えて、まさかの〈らっぷびと〉が加わり、奇跡のような共演を果たす。
〈らっぷびと〉はインターネットサイトなどでアニメの楽曲を“勝手に”ラップ風にアレンジし、“勝手に”発表していた歌手である。
通常ならば、言語道断極まりない話である。
しかし、〈らっぷびと〉の表現力・技術力の高さに誰もが言葉を失った。新たな才能が生まれた瞬間を目にしたのだ。
〈らっぷびと〉が歌う『人として軸がぶれている』は本家・大槻ケンジの公認を受けたほどである。
そして、遂に本家オープニング主題歌を担当。大槻ケンジとの共演が実現したのである。
〈らっぷびと〉が表現した絶望先生は、新鮮で、前衛的なイメージが強まり、絶望先生の果てなき発展性を象徴している。
すっかり“イタイ女の子”というイメージを定着させた日塔奈美(普通なのになぁ)。毒の多い作品に、朗らかな印象を与えている(普通だからか?)。
さて、アニメーション本編はこれまでのOADシリーズ同様、3話構成で成立している。
『第一話 暗中問答』
原作149話のエピソードだ。
夜更け。人知れぬ古寺に集る少女たち。絶望先生主要キャラクターである少女たちが顔を並べている。
そこに、糸色望が姿を現す。
「皆さん。それぞれのネタを持ち寄りましたね」
そう、これから話すのは怪談ではない。
“ネタ”である。
しかし、ネタというネタが、次々と吹き消されていく。
新しいネタが発見できない。
そんな、連載漫画家のリアルな恐怖を描く。
ホワイト・デーがネタにされている。そういえば『獄・さよなら絶望先生 上』では、バレンタイン・デーがネタにされていた。
ちなみに、「勝者なき」と言いつつ、本作品は『文化メディア芸術祭審査員推薦作品』に選ばれている(下の可符香のカット)。何だかんだで、一人勝ちである。
『第二話 負けた草子』
原作130話のエピソードだ。
二人の男がメイド喫茶に向かっている。その日は、ホワイト・デーだ。二人の男に掌は小さなチョコが握られている。
が、二人の男はメイド喫茶の前で睨みあう。
「自分のほうが愛されている!」
しかし、それは勝者のない、敗者しか生み出さない戦いであった。
世の中、敗者同士の勝者のない不毛の対立がいくつもある。
そんな世の中を皮肉ったエピソードだ。
絶望先生らしい、一篇だ。
オリジナル・ストーリの第三話。高校生の糸色望が桜並木で見たものとは?
『第三話 一本昔ばなし』
今作唯一のオリジナルストーリーだ。
糸色望の高校時代のエピソードが中心に描かれている。
糸色望がいかにネガティブな性格を形成していったか、社会に対して根暗な印象を持つようになっていったのか。
その経緯を、物語漫画風に綴る。
可符香の心象風景(?)
絶望先生のビジュアルイメージは、すでにテレビシリーズで確立している。
だが、このシリーズはあえてOADシリーズであったほうがいいだろう。
テレビには自主規制という縛りが多く、時間的制約すらある。
絶望先生にとって、テレビは、もはや鎖でしかない。
OADによって、その鎖から解き放たれて、のびのびと自由に暴走する姿のほうが絶望先生らしく思える。
かつてない毒素を持ったオープニング。
本編すら霞んでしまう強烈さ。
登場キャラクターを演じる声優達の演技は、見事な調和を果たしている。
アニメシリーズからすでに2年の時を経て演じ続け、どの俳優も、キャラクターの特性を充分に知り抜いている。
今や、声優たちが喋ると、そのキャラクターが本当に呼吸しているような印象すら感じる。
絶望先生はどこまで続き、どこまで広がっていくのだろう。
絶望先生という領域は、今現在をも広がり続けている。
通常の漫画作品より、絶望先生は作品の基盤が柔らかい。
あらゆる才能を受け止めて、その作品の洪水のような情報量の一つにしてしまう。
どんな才能も流行も、絶望先生の手にかかればネタのひとつとして、キャラクターのひとつとして、飲み込まれてしまう。
『獄・さよなら絶望先生・下』においてはらっぷびとという才能を獲得した。
今後も、どこまでも無限の発展性と可能性が期待されるシリーズである。
これからも、ネタ切れにはらはらさせながら、果てなく拡大していく様を見守っていきたい。
さよなら絶望先生 シリーズ記事一覧
コミックス:さよなら絶望先生 第1集
作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督・絵コンテ:龍輪直征
演出:宮本幸裕 飯村正之
作画監督:村山公輔 田中穣 岩崎安利
構成:東富那子 色彩:滝沢いづみ 佐藤加奈子
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻理奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 後藤沙緒里 井上喜久子
杉田智和 寺島拓篤 水島大宙 子安武人
協力:MAEDAX G