映画『ダークナイト』の公開に先立って製作された、アニメ作品である。
前作『バットマン・ビギンズ』との間を埋めるエピソードが描かれている。
今回のアニメ版は、すべて日本のアニメーション製作会社が作画を担当している。
アニメ『バットマン ゴッサムナイト』は6本の短編集から成り立っている。
構成の方法や、アプローチの手法は、『アニマトリックス』を参考にしている。
しかし、その方向性は、『アニマトリックス』とはまるで違う。
6本の作品は、いずれもバットマンだが、それぞれの作家がそれぞれの視点で、オリジナルのバットマン像を展開させている。
第3話(左)と第6話(右)のブルース。
説明されないと、同一人物とは思えないほど、タッチが違う。
6本のアニメ作品は、あまりにも個性的で、一貫性を見つけ出すのは難しい。
多様なテーマ、多様な舞台。
どうやら、時間的な連続性だけはあるようだ。
しかし、絵柄が違えば、声優も違うし、コスチュームすら変わってしまう。
絵柄については、あまりにも違いすぎて、誰が誰なのかわからなくなってしまう。
まるで6本のアニメが、違う国籍で作られたかのような印象すらある。
第1話は『鉄コン筋クリート』で作画を担当した西見祥示郎が担当する。
そのバットマン像は、史上最もユニークと評される。
どんな姿なのか、見てのお楽しみ。
『アニマトリックス』との決定的な違いは、ベーシック・アニメが存在しないことだ。
6人のアニメ監督が、それぞれのバットマン像を独自に追求した作品だ、といえるだろう。
異様な生々しさを持つゴッサムシティ。
どこかにありそうで、しかしどこにもない風景を作り出した。
今回のバットマンで、最も印象的だったのが、ゴッサムシティだ。
実写で架空の都市を描くのは、非常に難しい。
実景をデジタルで補強したり、セット撮影になったり、
撮影の自由度は、極端に制限されてしまう。
それが、今回のアニメ作品では、ゴッサムシティがより立体的で実在感のある都市として描かれていた。
高精細で、臭いすら感じられるようだ。
日本のアニメーションは、常に物質の手触りや汚れを表現しようとする。
そういった経験の積み重ねが、あの見事な表現力に結びついたのだろう。
第5話。哲学的な面から、バットマン像を探った作品。
6本の短編アニメは、確かにバットマンだが、奇妙なくらいバットマンは客観的だ。
どのエピソードも、バットマンを外から語っている。
バットマンの正体であるブルースですら、バットマンについて語り始めると、客観的になる。
バットマンが、自分自身を語るエピソードは存在しない。
バットマンは、いったい何者なのか。
「正体が誰なのか」といった議論ではない。もっと本質的な問いだ。
その正体について、それぞれの作家が、それぞれの方法で模索した作品だと言うべきだろう。
誰にとっても、バットマンは実像が不明なのだ。
恐怖や不安、恐れ。実像を探ろうとすると、そういった曖昧な言葉ばかりが出てきてしまう。
あるいは、ゴッサムシティという暗い都市が生み出した、幻影みたいなものなのかもしれない。
作品データ
監督:西見祥示郎 東出太 モリヲヒロシ
青木康浩 窪岡俊之
制作:STDIO4℃ ProductionI.G
マッドハウス
出演:玄田哲章 三木眞一郎 中田譲治
井上喜久子 小川真司 納谷六郎
池田勝