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■2015/11/26 (Thu)
創作小説■
第6章 キール・ブリシュトの悪魔
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10
それ以上は、馬は近付きたがらず、結界を張って近くの木に括り付けることにした。一同はキール・ブリシュトに至る道を進んでいく。地面は灰色の生命のない土ばかりだったけど、きちんと平らに均され、舗装された道路がまっすぐキール・ブリシュトの門まで続いていた。
キール・ブリシュトに近付くと、禍々しい気配はより濃くなってくる。騎士達は、誰となく剣を抜いた。
やがて大門が見えてきた。すでに破壊され、左の門は倒れ、右の門は斜めに傾いている。これを潜ると、ついにキール・ブリシュトの敷地内だ。
城内に漂う気配はさらに緊張感に満ち、道路のタイル張りにはかつての栄華を示すようなレリーフが刻まれているが、それもこの中で見ると、邪悪なもののサインにしか見えなかった。
中庭へと入っていくと、道の両脇にガーゴイルの石像が並んでいる。その異様な気配と、生々しい描写に、騎士達は恐れを抱く。
ゼイン
「ガーゴイルか。……しかしなんという存在感。まるで生きているようだ」
バン・シー
「気をつけよ。その石像はまさに生きている」
ルテニー
「まさか。ご冗談を」
バン・シー
「本当だ。忘れたのか。『悪魔は石に封じられた』のだ。こやつらも封印が弱まれば、自らの力で動き始めるだろう」
ルテニー
「…………」
屈強の戦士達も、黙るより他なかった。いつか、このガーゴイルと戦う日が訪れる恐怖を、胸に思い描いていた。
道路の向こうに、キール・ブリシュト本館の入口が見えてきた。そこは地獄の入口であるかのように暗く、その向こうからごうごうと風が唸っていた。豪勇の戦士でさえ、肝を潰す冷たさに満ち溢れていた。しかし何の恐れも抱かずに入っていくバン・シーに、ついて行かないわけにはいかない。
入口を抜けると、大広間に入った。その容積は小さな屋敷くらいおさまりそうなほどに広く、天井はどこまでも高く、はるか上方で光が射し、光の輪が暗い地面に2つ3つと落としていた。床は塵と埃が降り積もって灰色を浮かべている。広間の四方に通路が伸びていた。
何もかも灰色を浮かべる広間の中に、奥の壁に掛けられた十字架だけが真っ白に浮かび上がっていた。
バン・シー
「ネフィリムたちが管理している。ここは奴らの聖地だからな。奴らはあれを自分たちのシンボルマークだと思い込んでいるようだ」
十字のシンボルを見ながら、バン・シーが説明する。オークは古里に近い洞窟で見た、あの十字のマークを思い出していた。
不意に気配がした。それまで辺りを包んでいた不吉な気配が、実像を持ち始め、通路という通路から溢れ出してきた。上方の吹き抜けからも、大軍勢が飛び出してくる。ネフィリムたちだ。
セシル
「どうやら歓迎されていないようだな」
オーク
「人を歓迎する地獄があれば見てみたいものです」
ネフィリムたちは瞬く間に戦士達を取り囲み、手にした武器で襲い始めた。戦士達は邪悪な下僕どもに白刃の一撃を加え、次々に蹴散らしていく。2人の魔術師は、光の珠を掲げて暗黒の従者を怯えさせ、さらにその頭の上に雷を落とした。セシルの聖剣が斬りつける者に炎を放つ。不敗の戦士達は強く、群がり襲ってくる魔の者を迷いなく次々と斬り伏せていった。
しかしここは魔の者たちの楽天地だ。ネフィリムたちの数は圧倒的だった。澎湃となだれ込んでくるネフィリムをいくら斬り伏せても数も勢いも尽きることはないように思えた。
ネフィリムの勢力に、戦士達は少しずつ追い込まれていく。
セシル
「これではキリがないぞバン・シー! 悪魔をお目に掛ける前に力尽きてしまう!」
バン・シー
「うむ。危険だが奥に進もう。援護しろ。ソフィー、手を貸せ!」
ソフィー
「はい!」
バン・シーの合図と共に、杖の先から光の粒が溢れ出した。光の粒はソフィーが呪文を唱えるごとに大きくなり、ある瞬間、光が火柱を噴き上げた。それにバン・シーの霊力が加わり、炎と雷が混じったとてつもない爆炎が飛び散った。
ネフィリムたちは爆炎に吹っ飛ばされ、焼き尽くされた。
その瞬間、戦士達はネフィリムの大軍の中に、一筋の道を見出した。
バン・シー「走るぞ!」
バン・シーの導くままに、一同は走った。しかし群がり集まるネフィリムたちは人間達を逃がすまいと攻撃を加える。戦士達はこれをかわしつつ、通路の向こうへ、次の部屋に飛び込むと、そこにあるもので道を塞いだ。ネフィリムの気配は絶えなかったか、即席で作られたバリケードでとりあえず進路は阻まれた。
その部屋は最初の大広間ほど大きくなかったが、ネフィリムの気配はなかった。暗い天井に、蝙蝠がいくつかとまっていて、侵入者を不快そうに見下ろしているだけだった。
戦士達は最初の緊張から解放されて、へなへなと座り込んでしまった。すぐにソフィーが戦士達の治療に当たる。
セシル
「バン・シー! 悪魔はどこにいる。まさか案内人が道に迷ったではあるまいな」
するとバン・シーは口の端で笑った。
バン・シー
「30年の時を経て、同じ台詞を聞くとはな。父親に似たな。案ずるな。しっかり導いてやる」
ソフィー
「少し休みましょう。怪我人がいます」
ソフィーが言った。戦士の中に、足に重傷を負った者がいた。
しかしバン・シーは冷酷に言い放った。
バン・シー
「とどまるわけにはいかん。動けぬなら置いて行く。ゆっくりしている暇はない」
と、バン・シー達は向こうの通路へと行ってしまった。
戦士達もバン・シーの従って、その後を追っていく。
ソフィーは逡巡した。戦士の手を引いて行こうとした。しかし戦士はソフィーを拒んだ。
戦士
「見捨てて行け。足をやられた者は、ここでは生きていけん」
ソフィーが困惑の顔を浮かべた。
するとオークが側にやって来た。ソフィーは救ってくれると思って顔を明るくした。しかしオークは、ナイフを戦士の前に1つ置いて、恭しく頭を下げるだけだった。返礼のように、戦士がオークに家紋の入った護符を渡す。
戦士
「妻に」
オーク
「必ず」
オークはソフィーの腕を掴み、強引に戦士から引き離した。
ソフィー
「そんな……オーク様!」
オーク
「声を上げないで。戦士の死を辱めてはなりません。……だからあなたを連れて来たくはなかった」
ソフィー
「…………」
ソフィーは何も言わず、オークに従った。
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