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■2015/10/17 (Sat)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
6
森の中は鬱蒼としていて、昼にもかかわらず暗かった。あちこちで藪が繁茂し、ぬかるんだ毒沼が口を開いていた。入る者を拒むようなそこを、オークとソフィーが進んでいった。ソフィーは要所要所で足を止めて、風の流れに耳を澄ませた。地霊の囁きに身を委ねる。
オーク
「どうですか」
ソフィー
「幽霊でも出そうですね。何の声も聞きません。よき隣人はこの辺りには住んでいないようです。この荒れ状態だと、いつ悪いものが棲み着くかわかりません」
ソフィーの顔が暗く影を落としている。
しばらく荒れ地ばかりが続いたかと思うと、その向こうでさわやかに風が抜けるのを感じた。森は急に明るくなり、緑は鮮やかで、木漏れ日が美しく煌めき始めた。
ソフィー
「いい風……。この辺りは残しましょう。森に自浄作用があれば、自然と再生します。森の管理人がいない場所は人が手を加えたほうがいいでしょう」
ソフィーの顔が一転、晴れやかに輝いた。
さらに奥へと進んでいく。するとその周辺だけ木々が後退して光が射し込み、草むらがそよ風に揺れていた。
ソフィーは目を輝かせて光の中へ入っていき、うっとりとした表情で深呼吸した。
ソフィー
「こういう場所を、ドルイドは神聖な場所と呼んでいます。クリアリング。森の中の正円。清き精霊が集まってくる場所です。風が気持ちいい……。大地の霊が生き生きとしているわ。きっとはるか古代から、この森を守ってきたのね」
ソフィーは目を閉じて、光と風に身を委ねる。
オークはその姿に癒やしを感じた。ソフィーの美しさは、清らかな光の中でこそ際立っているように思えた。
ソフィー
「オーク様。新しい名前はどうですか。不都合はありませんか」
オーク
「いいえ。あなたは幸運を与えてくれました。オークの名前には不思議な霊力があるようです。この名前のお陰で王子に救われ、王からも仕事が与えられました。みんなあなたのお陰です」
ソフィー
「そんな、よしてください。私はあなたが本来持っていた名前を呼び起こしただけです。それよりも、突然名前が変わったことに戸惑いはありませんでしたか」
オーク
「不思議ですが、オークの名前は私にぴったり合うような気がしています。まるで生まれた時からの本当の名前のような、それくらいの感覚です」
ソフィー
「良かった。本当は不安でしたの。名前を与える儀式は初めてだったから」
オーク
「あなたが不安に思う必要はまったくありません。何もかもうまくいっています」
ソフィー
「ええ、そうですね」
ソフィーは満足げに頷いた。
オーク
「まだ種明かしをしてくれませんね。あの子供の名前をどうして知ったのか……」
ソフィー
「……ごめんなさい」
オーク
「いいえ。言いにくい話なら聞きません」
ソフィー
「本当にごめんなさい。お話しするという約束でしたのに。老師様から固く口止めされているのです。私には他の人にはない運命を背負っています。ゆえに母から疎まれ、寺院に預けられ、その後何年も身を隠して暮らしていました。幼い頃は、私はいつも1人きりで、自分の運命を呪っていました」
オーク
「ソフィー、もういいです。それ以上言わないでください」
ソフィー
「今でも心の傷は癒えません。気持ちを鎮めようとしてもその当時を思い出してしまいます。駄目ですね、私ってば……」
オーク
「いいえ。あなたは気高い。人に安らぎを与えます。それに――美しい人だ」
ソフィー
「…………」
ソフィーは、オークの言葉に頬を赤くする。
オーク
「今でも不幸だとお考えですか」
ソフィー
「いいえ。今はとても心安らかです」
オーク
「よくぞ来てくれました」
ソフィー
「ええ、久し振りです。オーク様」
オーク
「久し振りです、ソフィー」
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