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■2015/09/15 (Tue)
創作小説■
第3章 秘密の里
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11
が、その時だ。暗雲が草原にたれ込んできた。雷鳴がひっそりと轟き、湿り気のある風が横切った。森の暗闇が影を深くして、草原まで流れ込んでくるようだった。草原の清涼とした空気は、暗い影に押し流され、邪な気配が周囲を支配していく。
オーク
「集まれ! 集まれ!」
オークが若者達に集まるように指示を出す。草原や森に散った若者達がオーク達のもとへ引き返そうとする。
しかし、森からいくつもの悲鳴がこぼれた。間もなくして、刃を血に染めた獣が森から現れた。ネフィリムたちだ。草むらを押し分けて、ネフィリムたちの軍団が次々と現れる。
村人達の顔に恐怖が走る。村人達は山賊との戦いで、疲労を浮かべていた。対してネフィリムたちは凶暴な顔に、血に飢えた狂気を浮かべていた。
オークもどう戦うべきか、判断に迷っていた。頼みの空は、まだ晴れそうにない。
不意に、風に馬のいななきが混じった。背後から蹄の群れが迫ってくる。
オークが振り向いた。騎馬の一群が草原に出現していた。騎馬は疾風のごとく迫り、オーク達の側を駆け抜けていった。
オークは村人らを守るように、両手を広げて村人らの前に立った。騎馬はオーク達の前を疾駆する。山賊の残党を追撃し、ネフィリムの軍団を攻撃した。その攻撃は速やかで、村の敵を瞬く間に駆逐する。
混沌が一瞬にして去り、張り詰めた空気だけが草原に残った。騎士団の頭がオークの前までやって来た。
オーク
「救援を感謝したい。どこの騎士団でございますか。できれば名を知りたい」
???
「パンテオンのしるしが見えなければ、ネフィリムと山賊もろとも踏みつぶしていたところだ。近くの村の者か」
村人
「名を名乗れ!」
騎士
「無礼であるぞ! 頭を下げよ! どなたと心得る!」
???
「よせ。我が名はセシル。正統な王の後継者。ヴォーティガンの長男だ。城の腰抜けどもに代わって気に入らんものを潰して回っていたところだ。貴様はどこの者だ。この村の者か」
村人達に騒然とした気配が走り、膝を着いた。
オーク
「乞われて共に戦っていた者です。私はドル族の生まれです」
セシル
「ドル族……。南の氏族か」
オーク
「はい」
セシル
「ドル族は壊滅した。数日前、近くを通り過ぎた。山賊にやられたか、ネフィリムに潰されたか、あったのは廃墟だけだ」
オーク
「まさか……」
セシル
「行って確かめるがよい。歩行だと時間も掛かるだろう。馬を授けよう」
オーク
「ありがとうございます」
騎士団の1人が、馬を連れてくる。
セシル
「戦士のようだな。貴様、名前は」
オーク
「オークと申します。ドル族のオーク」
セシル
「…………。その名、生来の名か」
オークの名前を聞いて、セシルの表情がぴくりと強張る。
オーク
「いいえ。訳あって親から授かった名前は奪われてしまいました。オークの名はパンテオンで授かった名前です」
セシル
「そうか……」
セシルは馬を下りると、指輪を1つ外し、オークに差し出した。
セシル
「オークよ、もしも行き場がなければ城に来い。この指輪を見せれば城に入れるはずだ」
オーク
「授かります」
オークはセシルの前で膝をつき、指輪を受け取った。
セシル
「俺はゼーラ族の砦をもうあと1つ2つ潰して、それから城に戻るつもりだ。貴様が来るのを待っているぞ」
セシルは再び馬に乗ると、騎士団を引き連れて去って行く。オークは深く頭を下げて、その後ろ姿を見送った。
騎士団が連れている檻の中に、あの赤毛のクワンの姿があった。どうやら騎士団達に捕らえられたようだ。
騎士団は現れた時のように、風のように去って行った。それからオークは、王子から授かり物の馬の許に進んだ。村人達が集まってくる。
村人
「行ってしまうのか。あんたには、村を救ってくれた感謝をしなければならない」
オーク
「いいえ、気持ちだけで。今は里に戻らねばなりません」
ステラ
「オークよ。すまぬな。私が引き留めなければ……」
オーク
「いいえ。ここに留まらなければ、あなたの隠里が滅ぼされていました。あなたの隠里が無事に残ったことが私には幸いです」
ステラ
「いつか必ず会おう! 感謝の品を授けなければならない」
オーク
「いつか必ず。戦いが武勇になるその時に!」
オークが馬の腹を蹴った。ステラと村人達が、その後ろ姿を見送った。
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