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■2015/09/09 (Wed)
創作小説■
第3章 秘密の里
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8
太陽が落ちると、森は急速に闇を深めていく。森は鬱蒼としていて、足下すら見えない真っ暗闇に閉ざされていた。そんな只中を、オークは村人の何人かを連れて、静かに進んでいった。身を低くして、風の音に足音を紛らせて、ゆっくり進んでいく。村人
「こっちですだ」
案内人の村人がオーク達の先頭に立っている。あの堀の泥に隠れていた村人だ。あの時の格好のまま、まだ全身を泥まみれにして、森の野生に紛れていた。
間もなく森が途切れた。現れたのは、森をえぐり取ったような、小さな断崖だった。狭く切り取られた断崖は蔦や茨で覆われ、一見すると鬱蒼とした森の一部のように見えたが、よく見ると人工的な窓がいくつも作られていた。周囲を略奪品で作った不気味なオブジェで飾り立てられている。見張りの山賊が、窓の周囲をちらちらと動いているのが見えた。
山賊達の隠れ家だ。
オークは周囲の森に身を潜ませながら、様子を見守った。山賊の人数を慎重に確認する。
次に、矢の先に火を点けさせた。見張りが警戒を逸らした隙に、火矢を撃ち込む。火矢は隠し砦を囲む茨に引火した。しばらくくすぶっていたが、やがてめらめらと炎を噴き上げる。
と同時に、山賊達が侵入者の存在に気付いた。
山賊
「誰だ! 誰かが忍んだぞ!」
山賊達がねぐらを飛び出して、殺到した。夜中にも関わらず、山賊達は殺気立っていった。
オーク達はすぐに逃げ出す。闇に紛れながら、真っ直ぐ村を目指した。
◇
一方、村では警戒を強めていた。見張りが夜通しで村の周囲を見て回っていた。
そんな村の一角。藁が積まれた倉庫が、人知れず崩れた。中から、赤毛のクワンが出てきた。
赤毛のクワンは、慎重に村の様子を確認する。見張りはずっと向こうだ。気取られていない。
赤毛のクワンは、村の中を密かに偵察した。村人らは勝利を確信して、何人かで集まって酒を飲んでいた。見張り以外は警戒が緩そうだった。
赤毛のクワンはさらに村を調査する。すると、西の一角に引っ掛かるものが見付かった。不自然に墓場まで拡張された柵。墓場の中央に配置される木立。その周囲を、見張りが貼り付いている。
きっとあそこだ。赤毛のクワンは当たりを付けて、潜り込んでいった。闇に紛れて密かに接近する。見張りがランタンを手に、木立の入口に立っていた。その警戒が脇に逸れた一瞬を突いて、赤毛のクワンがその中に潜り込む。
木立の中に道が作られていた。外から見えないように、枝葉が頭上を深く覆っている。木がドーム状になって内部を隠していた。その中心に、小さな祠があった。石で作れた、霊廟のような場所だった。
見張りはいない。赤毛のクワンは祠の中へと入っていった。
祠の中は、狭い螺旋階段が下へと降りていた。階段は真っ暗で、月の明かりすら入らない。赤毛のクワンは、懐から小さなランプを出して、火を点けた。ランプの明かりは小さく、充分に階段を照らさなかったが、赤毛のクワンは手探りで下へ下へと降りていった。
間もなく一番下の層に出た。扉が3つ。赤毛のクワンは1つ1つを確かめ、扉に描かれているしるしを見比べる。一度頭上を注意した。見張りが侵入に気付いた様子はない。赤毛のクワンは、思い切って扉の1つに体当たりを喰らわした。
扉が崩れる。赤毛のクワンは扉と一緒に倒れた。
すると、光が飛び込んできた。赤毛のクワンが顔を上げる。
そこは小さな空間になっていた。その奥の祭壇で、杖が1つ、空中に浮かび上がっていた。先端に付けられた宝石が、不思議な光を放っていた。
赤毛のクワン
「あった! 魔法の杖はここにあったんだ。野郎、やっぱり隠していやがった!」
赤毛のクワンは歓喜の声を上げながら、立ち上がる。
そこに、何かが横切った。風がヒュンと通り過ぎる。
一瞬何が起きたかわからなかった。だが、ランプが落ちるのに、赤毛のクワンは自身の右腕が落とされたのを知った。
壁龕に置かれている石像が動いていた。ズズズと関節が唸りを漏らしながら、持っている剣で赤毛のクワンを襲う。ゴーレムだ。
赤毛のクワンはそこから逃げ出した。部屋を出ると、残りの2つの扉が倒されて、その向こうからゴーレムが次々と飛び出してくる。
赤毛のクワンは大慌てで階段を登り、祠を脱出した。
見張り
「誰だ!」
ようやく見張りが侵入者に気付いた。赤毛のクワンは、見張りを突き飛ばして村の中に飛び込む。
村人らが異変に気付いて、次々と殺到してくる。赤毛のクワンは村人らに取り囲まれる。
万事休す――。
しかしその時、別の声が上がった。
村人
「倉庫が! 倉庫が!」
悲鳴のような声。振り返ると、村の外から次々と火矢が撃ち込まれていた。食料庫が燃えていた。その周囲で、村人らが茫然と見ていた。
村人の警戒が、赤毛のクワンから逸れた。赤毛のクワンは目の前の村人を突き飛ばした。そのまま、村の外を目指して走っていく。
村人が山賊を追いかけた。しかしついに誰も追いつけなかった。赤毛のクワンは柵を乗り越えて、何とか森へと逃げ込んだ。
次回を読む
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