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■2015/08/31 (Mon)
創作小説■
第2章 贋作疑惑
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13
部屋を出ると、幅の広い螺旋階段が現れた。人気がなくなったせいか、空気がすっと涼しくなった。ツグミは今さら息苦しさに気付き、口を大きく開けて、空気を入れ替えた。「どう、楽しんどお?」
ヒナは先頭に立ち、階段を昇りながらツグミとコルリを振り返った。
「うん、すっごい楽しい!」
ツグミとコルリが勢いよく声を合わせた。興奮して、声が上擦ってしまっていた。
ヒナは嬉しそうに微笑んだ。少し誇らしげに見えた。
「あの展示方法、ヒナお姉ちゃんのアイデアやろ?」
「うん。猛反発喰らったけどな。でもああいう風にすると面白いやろ?」
ツグミの問いに、ヒナが勝ち誇るような清々しさを浮かべた。ツグミはやっぱり、と明るい気分になって頷いた。ヒナを尊敬する気持がまた少し強くなるように思えた。
「でもヒナ姉、大変やったやろ? これだけの作品、よく集められたよね」
コルリが感心したふうに、遠ざかりつつある1階を振り返った。
短期間のうちに日本とフランスを往復して、《ルーブル》や《オルセー》などからレンタルの許可を貰う。数は少ないものの、どれも作家の代表作と呼ばれる絵画だ。保険金だって、下手すれば億単位の額になりかねない。神戸西洋美術館の年間予算はせいぜい数千万円程度だ。どこにそんな力があったのか不思議だった。
「大変やったんやで。体を張った仕事やったわ」
ヒナは力強く言って、二の腕を見せ付けた。
「ヒナお姉ちゃん……」
ツグミは心配な顔でヒナを見上げた。
「大丈夫。ツグミが心配するようなことはしてないから。ちゃんと体も大事にしとおよ」
ヒナはツグミの側にやって来ると、宥めるようにその背中を撫でた。ツグミは気持ちが晴れず、不安な思いでうつむいた。
「さっ、作品はまだまだあるんやで。ここからはプロの案内付きや。あ、でも2人には不要かもね」
ヒナは声を明るくさせて、先頭に立って階段を昇った。ツグミは気持ちを改めて、上を見上げた。階段の先に、美術館の2階が見えてきた。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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