■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2015/08/11 (Tue)
創作小説■
第2章 贋作疑惑
前回を読む
3
「ねえねえ、それで? 屋敷のオヤジさんとエッチしたん?」コルリが頬を赤くして、秘密を聞き出すように声を潜めた。
ツグミは「えー? えー?」と狼狽する声を上げて、ヒナとコルリを交互に見た。
ヒナは微笑みを崩さず、首を振った。
「まさか。私は自分の体は大切にするよ。さんざん気をもたせといて、その夜は一人で寝てもらったわ」
「へえ……。それでええの? 仕事はうまくいったん?」
コルリはなんとなく拍子抜けというように、それでいて言葉に懸念を混じらせた。
「うん。オヤジさん、簡単に落ちる女は嫌いなタイプやったみたいやね。翌朝、契約成立。絵画16枚の貸し出し契約を結び、空輸。5000万円の保険料も肩代わりしてくれたわ。その代わり、しばらくオヤジさんのところに通うことになってもうたけどな」
ヒナはすっと緊張を解くように明るい声で締めくくった。ツグミはほっと溜め息をつきたい気分になった。
「凄いやん。男の心、わかっとおねんな」
コルリは気分を高揚させたように声のトーンを高くした。
「まあね。……と言いたいけど、本当は危なかったな。ちょっとの読み違えで契約破棄っていう状態やったし、それに、オヤジさん口説きが意外にうまくてな。ついコロッと行きかけそうやったわ」
ヒナはまるで過酷な戦いを潜り抜けたような、頼もしげな微笑を浮かべた。
ツグミはそんなヒナの手を、そっと握った。
「あかんよ、ヒナお姉ちゃん……」
ツグミは不安な気持ちになって声を沈め、首を振った。それきりヒナが遠くに行って、帰ってこないんじゃないか、という気持ちになってしまった。
ヒナは優しくツグミの掌を握り返した。
「大丈夫。家族が一番大事やで。ツグミが成人するまで、私、結婚もせえへんから」
静かに宥めるようだった。ツグミは「うん」と細く途切れそうな声で頷いた。ヒナの気持ちは嬉しいけど、「結婚しない」と宣言されると、それはそれで罪悪感だった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
PR