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■2010/04/12 (Mon)
シリーズアニメ■
第1話 高3!
まだ朝の早い時間で、光は穏やかで人通りは少なかった。
そんな通りを、女の子がぱたぱたと慌てるように駆け抜けていく。路上に散った花びらがふわりと舞って、女の子の足にまとわりついた。平沢唯だ。
唯は高校の校舎に入っていくと、茫然と立ち尽くしてしまった。
誰もいない。
唯はあっと思って、階段を駆け上り音楽
ギー太とアンプをコードで繋いで、スイッチを入れた。ぶぅんと低いソニックブーム音が響いた。
唯はベンチに座り、軽く弦を弾いた。低く淀んだ音が空間一杯に長く尾を引いた。
今度は連続してピックで弦を弾いた。音の一つ一つが音楽を作り出し、心地よいリズムを作り出す。
唯は自分で作り出したメロディにうっとりと身を委ねた。気持ちは次第に膨らんで行き、いきなり立ち上がると腕を大きく振り回すように弦を弾いた。
そうして演奏が終わった。
「何やってんの?」
田井中律、秋山澪、琴吹紬、中野梓の4人だった。
4人は何ともいえない、ぽかんとした表情で唯を見守っていた。
「え? 新歓ライブに向けて、必殺技開発中!」
唯は元気に答えた。
「それにしても、唯先輩早いですね」
何気ない感じに梓が訊ねる。
「目覚まし時計見間違えて、1時間早く登校しちゃった」
唯は軽い失敗を笑って、自分の頭をなでた。梓が呆れた微笑を浮かべた。
「何かついてるぞ」
律が自分の顎を指差した。
「あ、パン。……食パン!」
唯は物凄い発見のように声を上げた。
◇
といっても、当初は後に語られるほどの大きな評判はなかった。その他の多くの作品と同じように、しれっと深夜の時間に放送され、『けいおん!』はその他の多くの作品の一つ
しかし放送後まもなく、人気はじわじわと、それでいて猛烈な勢いで広がって行き、その影響力は日本全土を覆うばかりではなく世界にまで広がっていった。
関連商品の売り上げは言うに及ばず、登場キャラクターが使用する楽器は空前の売り上げを記録した。秋山澪が使用するフェンダー・ジャズベースは在庫が尽き、平時の2年分の発注があったという。
DVD売り上げは『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』、『化物語』に次いでその年の第3位を記録。『けいおん!』は関連する商品だけでも数億円を売り上げ、特に関連していない多くの企業がその恩恵にあずかった。
『けいおん!』は作品人気や評判だけにとどまらず、不況を救う起爆剤でもあるのだ。
それはある意味、めまぐるしく隙間を埋めたがる現代に対する反逆でもある。現代は何もかもに効率を求め、ほんの一時の休憩の“間”すら有効利用するべき、と語られる。現
『けいおん!』そんな現代に対するアンチテーゼのように、活動の合間にほんの一瞬訪れる“間”のみを集めて描かれる。
『けいおん!』を鑑賞していると、時間の経過が停止しているような不思議な感覚に捉われる瞬間がある。『けいおん!』と接している間は忙しく流れていく時間は忘却され、驚くほど静かで穏やかなくつろぎの時間がやってくる。考えてみれば、贅沢な一幕を描いた作品であるといえる。
作中に登場する風景のほとんどは実際の世界に存在する風景である。制服はオリジナルで制作されたものだが、もし現実世界にあったとしても普通の女学生と何ら違和感はないだろう。登場キャラクターが身につける衣装や
しかしよくよく考えてみれば映像作り作品作りにおいて当然のアプローチである。現実世界の風景をよく観察し、作品のなかで再現し、物語の一様として描写する。むしろ作品作りに
『けいおん!』のような作品を、いわゆる“癒し系”と呼ばれがちだが、実際の画像は濃密に描き込まれ、充実した世界が舞台となっている。
最近製作された学園ものアニメは、ほとんどが現実世界ではありえないような装飾の多い制服で、学校制度に謎めいた魔術や超能力の要素が加えられている。日本の漫画・アニ
だから『けいおん!』は、実は平凡な特徴を持った作品であるといえる。しかしその平凡さが、今の時代において際立った個性を持ったのだ。
作品を特徴付けようとして奇抜さに捉われてしまっている作家は、『けいおん!』を学んだほうがいいかもしれない。
だが第2期放送に懸念もある。
ほとんどの第2期作品が失敗作になるのは、製作期間の短さと、制作進行が作家側になく製作側の都合で決定されているからである。
一見すると第2期作品は必要な要素――設定や世界観が第1期で準備され容易に思える。だが実際の現場は想像以上に過酷だ。
まずいって時間がない。実際にあるメカ作監に話しを聞いたことがあるのだが、第2期制作に用意された期間がたったの3日だったという。だから3日間徹夜作業で必要なデザインを全てを書き起こしたそうだ。
シナリオ作りでも同じ状況なのだろう、と思う。第1期放送の人気で急遽続編が決定し、放送日時もすでに決められている。しかしアニメは一本作るのに3ヶ月。シナリオや設定に費やせる時間は自然と少なくなってしまう。一週間とか一ヶ月といった期間で、あれもこれも決定して制作をスタートしないと間に合わなくなってしまう。結末をどうするかも決められず、後は作りながら出たとこ勝負、という状態だ。第1期で全て語り終えたつもりになっている作家にとって、どうモチベーションを維持するか、という問題にもぶち当たる。
しかも『けいおん!』は展開の遅い4コマ漫画が原作で、もちろんまだ連載中の作品だ。だというのに第1期放送で物語中時間は2年も過ぎ去ってしまった。このペースで作品が進むと、どう考えても登場キャラクターの卒業まで描くことになる。原作に描かれていない領域に入っていくわけだ。
オリジナルという骨組みを頼りにできず、何もかも脚本をゼロから作らねばならない。ちょっとした匙加減で作品が大きく転覆する可能性をはらんでいるわけだ。
第1話は高校三年生になった唯たちが描かれている。
その描写や物語の運びは相変わらずだ。静かで穏やかな休息のひとときがゆったり綴られていく。何も変わらない、1年前の延長が当り前のように流れ過ぎていく。
今は懸念を抱くより、唯たちが戻ってきたことを素直に喜びたい。
作品データ
監督:山田尚子 原作:かきふらい
シリーズ構成:吉田玲子 キャラクターデザイン・総作画監督:堀口悠紀子
音楽プロデューサー:小森茂生 音楽:百石元 楽器設定:高橋博行
音響監督:鶴岡陽太 編集:重村健吾
美術:田村せいき 色彩設計:竹田明代 撮影監督:山本倫
アニメーション制作:京都アニメーション
出演:豊崎愛生 日笠陽子 佐藤聡美 寿美菜子 竹達彩菜
〇 真田アサミ 藤東知夏 米澤円 永田依子
〇 山村響 平田真菜 永木貴依子