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■2010/04/02 (Fri)
シリーズアニメ■
第01話 ビギニング
まだ朝の早い時間。街の喫茶店でジョーイは給仕の仕事をしていた。そろそろ学校が始まる時間だ。ジョーイは喫茶店の仕事を仕事を切り上げて学校へ行く。
「ジョーイ、おはよう!」
学校までやってくると、リナが声を掛けた。金髪に青い瞳の容姿端麗の少女だった。チアリーダーをやっているから体がしっかりしていてスタイルもいい。ジョーイより身長は上だった。
「ねえ、週末空いてる?」
リナはジョーイの側に並び、好意を持って話しかけてくる。
「うん」
「チアリーダーのダンスパーティーがあるんだけど、今度こそ一緒に来てね。約束よ」
リナは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、半ば強引な誘い方をした。
「で、でも僕、週末家の用事が……。僕よりももっと素敵な男性を誘ったほうが……」
ジョーイはえっと顔をゆがめて、消極的にリナの誘いを断った。リナはむっと今度は怒りで頬を赤く染めた。
「お馬鹿! もう、いつ誘っても断ってばっかりなんだから」
リナはかっと声を上げると、不満そうに呟いた。ジョーイはリナを宥めようと愛想笑いを浮かべる。
とそこに、野太い男の声がジョーイを呼び止めた。リナの兄であるウィルだった。
「今すぐリナから離れろ、ジョーイ!」
ウィルはリナの腕を掴んで自分の側に引き寄せると、ジョーイを乱暴に掴みフェンスに押し付ける。
「俺は役立たずが大嫌いなんだ。そんな奴が妹の近くをうろちょとされるのは、迷惑なんだよ!」
ウィルは一方的にジョーイを罵倒して去っていった。
その日の放課後、ジョーイは道路を挟んだ向こう側にウィルたちが集っているのを見かける。ウィルの友人であるニックが、最新のおもちゃである《ヘイボ》と呼ばれるロボットを友人たちに自慢していたのだった。
「なあニック、俺にもやらせろよ」「俺にも触らせろ!」
ニックの友人たちがロボットを奪い取ろうとした。するとロボットが暴走し、車道に飛び出していく。そこに、車が横切った。ロボットは車に轢かれ、ぼろぼろに崩れてしまう。
「まあ、いいさ。また新しいのをパパに買ってもらうから」
ニックは気にせず、ロボットを屑かごに放り込んでその場を去っていく。
「もういらないって言ったよね。僕がもらってもいいんだよね」
ニックが捨てていったロボットをジョーイが手にする。すでにボロボロ。手足がちぎれ、内部の基盤を剥き出しにしていた。
もう壊れている、とサイは忠告したが、ジョーイは治すつもりだった。
それから数日後、ジョーイはロボットを修復させ、『ヒーローマン』の名前を与える。
修理が終わってすぐに、バイトの時間がやってきた。ジョーイはヒーローマンを椅子の上に乗せて、喫茶店へ急いだ。
だが間もなく街に雨が降り注いだ。そういえば、ヒーローマンを乗せた椅子の上の天窓を開けたままにしていたかもしれない。ジョーイは慌てて店を飛び出し、家へ帰る。
家に帰り、自分の部屋に飛び込むと、やはりヒーローマンは椅子の上で雨に濡れていた。ジョーイは慌てて手に取ろうとするが、その時、落雷が落ちた。閃光が天窓から降り注ぐ。衝撃にジョーイが吹っ飛ばされた。
落雷のショックが去り、ジョーイは恐る恐るヒーローマンに近づく。ヒーローマンは少し姿勢を崩し、蒸気を吹き上げていた。壊れたようには見えない。指を近づけてみると、静電気がビリッと光を放った。帯電しているのだ。
ふとジョーイのポケットの中で音がした。何だろう、と引っ張り出してみると、ロボットの操作盤が青い光を放っていた。
突如、操作盤が強い輝きを放った。操作盤がばらばらに砕け、ジョーイの腕の周囲で回転した。やがて操作盤は形を変えて、ジョーイの左腕を包んでしまった。
腕を包んだ機械の先端に、アイコンが青い光を放っていた。何だろう、と押してみると、今度はヒーローマンが光をまといながら巨大化した。ヒーローマンは天井に頭をぶつけたところで成長が止まり、光の衣を弾いて新たな姿を示した。
「すごい! すごい、僕のヒーローマンだ!」
ジョーイが興奮して声を上げる。
ヒーローマンは沈黙してジョーイを見詰め、次に窓の外を振り返った。近くの高速道路で事故があったらしい。雨で暗くなりかける風景の中でそこだけ赤く浮かび、もくもくと黒い煙を噴き上げていた。
ジョーイの左腕のアイコンが変わった。押してみると、ヒーローマンが動き始めた。ヒーローマンはジョーイを背に乗せて家の壁を破壊しながら道路に飛び出した。凄まじい速度で疾走し、雨粒を切って進む。
やがてヒーローマンは高速道路へ到着した。ちょうど事故現場の側だった。ジョーイは倒れている車を見て、もしかして、と近付く。
やはりそうだった。リナの父が運転する車で、助手席にリナが乗っていた。しかし扉は事故で曲がってしまい、開かなくなっていた。
「お願い、助けて! リナを助けて!」
ジョーイはヒーローマンに懇願した。するとジョーイの左腕のアイコンがまた違う記号に変わった。拳の記号だ。
「よし……。ヒーローマン、ゴー!」
ジョーイは力強くアイコンを叩いた。ヒーローマンがアクションを始めた。車のボンネットに腕を突っ込むと、そのまま引き剥がしてしまった。
だがその時、広がった油が電線に触れた。爆炎が辺りを包んだ。刹那、ジョーイは青い光の膜に包まれた。ジョーイは衝撃に吹っ飛ばされるが、青い膜がジョーイを守った。
ジョーが起き上がると辺りは真っ赤な炎で包まれていた。ジョーイは茫然と炎を見ていた。すると炎の中から、ヒーローマンが現れた。リナとリナの父親を肩に乗せていた。
『ヒーローマン』の舞台となっているのはアメリカのありふれた町だ。人物や風景といったアメリカ的な描写はしっかりした観察して描かれている。アメリカ人が日本を描こうとするとどうしても謎の世界になりがちで、しばしば中国の風景と混同しがちだが、そういった違和感はなく、一貫性をもった風景を描き出している。
学校周辺の風景は特にすっきりした印象で、青空が美しく映える。電柱がないからだ。それに雲も描かれていない。電柱と雲という、日本でおなじみの景色がそこから完全に引きぬかれている。だから驚くほどすっきりと澄んだ印象にさせてくれる。空の色が作品の明るい色彩とうまく調和していて、快活な気分でエンターティメントの世界に引きこんでくれる。
主人公のジョーイはちょっと見たところ少女に見える。今に関わらず、日本は昔から子供の主人公を物語の中で描き続けた。『桃太郎』や『一寸法師』、戦後アメリカ文化が流れこんでくる中でさえ、『鉄腕アトム』や『鉄人28号』といった作品が描かれてきた。成熟した男性の英雄を描き続けた西洋には考えられない発想だろう。もしそんな発想があっても、規制の厳しい今の時代、誤解を招くだけだ。
主要人物の一部は、キャラクターの特徴を誇張した奇抜なデザインで描かれる。常にチアリーダーの衣装で現れるリナや、巨大アフロのサイ。とんがり角を持つウィルなどはまあまあ大人しいほうだ(むしろ彼をサイと呼ぶべきだ)。もっとも奇抜な方向に傾いているのは数学教師であるヴェラ先生だろう。一人だけ世界観が違う、と思わせるようなファッションセンスである。
その中でも主人公のジョーイは驚くほど没個性的に描かれているように思える。いや、アメリカが舞台だからこそジョーイはむしろ際立って浮かび上がってくる。
ジョーイは年齢不詳(バイトをしているくらいだから、高校生くらいだろうか?)だが、周囲の少年達に較べて極端に幼く描かれている。体の線はもろく崩れそうなくらい細く、柔らかな容姿で男性とは思えない高い声で会話している。ジョーイのルックスは幼形成体のアジア人の特徴を強調的に描いている。
その幼く見える容姿は、アメリカが舞台だからこそ油のように浮かび上がり、主人公としての特異性を(多分)獲得している。
アメリカ人の作家には決して描けない感性だし、欧米圏のどこで放送しても子供たちは受け入れてくれないだろう。日本で放送するのに相応しい形態に翻訳をしているといえる。
どの国の知識階層も、男性的な力やそれを養うスポーツを称揚するが、現実には暴力を発散し弱者を威嚇するためだけに使われる。男性は常にマウンティングが必要な人種で、それが社会的立場を作っていく。理想と現実は違う。ただ、ウィルとは後に和解する展開が予想される。
創作物のほとんどは、創作者の願望を強く刻印して描かれている。主人公は作者の代理人格であり、物語の展開は現実世界とは異なる夢世界で、多くは作者にすら制御不能のカオスであるが、最終的には願望を達成させ、主人公をヒーローに格上げする。読者が物語に共感するのは作品の品質とは別に、願望を共有するからである。
『ヒーローマン』の主人公ジョーイは意志が弱く、貧しい家庭だから欲しいおもちゃも買えない。早くに両親を亡くしてしまったから、自身と祖母を養うために働いている。気になっている女の子はいるけど、乱暴者の兄が立ち塞がり、関係は進展しない。
そんなジョーイの前に現れるのは力の象徴であるヒーローマンである。ヒーローマンはニーチェ的な力でジョーイを取り巻いている停滞を強引に破壊し、間接的にとはいえジョーイをヒロインを救う英雄へと止揚させる。
第1話のクライマックスである、リナを事故から救い出す場面。かすかに記憶を戻したリナが見るのはヒーローマンであるが、奇怪な姿に変貌したジョーイであるといえる。
その力の獲得が宇宙からやってきた悪の軍団との闘争という望まぬカオスを引き連れてくるが、いずれ望むすべてをジョーイに与えるだろう。『ヒーローマン』は創作に込められる願望を一切隠蔽せず、ストレートな形で描き出している。
主人公が勤める店のカウンターにいつもいいる老人。これはひょっとしてスタン・リー先生ではないだろうか?スタン・リーは映像化された自分の原作作品には必ずどこかに登場する。とはいえ英語翻訳のない作品だから、出演してるとはいえないのだが。
『ヒーローマン』の粗筋を大雑把に要約すると、宇宙からやってきた悪の軍団を正義のロボットヒーローが撃退し、平和を守というストーリである。骨格となるプロットは呆れるほどひねりがなく、ヒーローの描き方はスタン・リー印の古典的なスタイルそのままである。もはや、錆び付きかけた様式であるといっていい。
そんな典型的なストーリーを、『ヒーローマン』躊躇いもなく描こうとしている。その映像は繊細で瑞々しい美しさに溢れている。キャラクターの造形は大胆であるが、線の一本一本は詳細で徹底され、色彩は調和をもった温かみを表現している。もしこれがアメリカ人が描いたら、気持ち悪くなるくらいのギトギトした色彩になるだろう。光の当て方や散らし方なども、日本のアニメならではの繊細さとダイナミズムだ。
地球を侵略しようとするエイリアンは、人間にゴキブリを足したような姿である。そのエイリアン・スクラッグが乗る円盤のデザインと動きは、通俗的なテレビでうんざりするほど見せられたUFO映像をそのまま再現している。あまりの捻りのない没個性的な発想に驚かされてしまう。
特に際立っているのがアクションだ。『ヒーローマン』第1話には後半数分しかアクションはなかったが、その印象は圧倒的だ。線の少ない画から想像できないくらい立体的でダイナミックな破壊シーンが繰り出される。地味に思えた作品が別領域に一気に飛躍し、輝きだす瞬間である。
『ヒーローマン』はストーリーにしてもキャラクターにしても潔いくらい作品の独自性を主張していない。あらゆるものが直線的に描かれている。今時は見られない(パロディ以外)、直球的な作品だ。アニメが少年の立場に戻って、改めて今の子供たちに問わんとしている。
しかしそれだけに物語の展開やアクションの力強さでどれだけ作品を魅力的に描けるかが勝負だ。制作側に突きつけられたプロットを、どの領域まで昇華させられるかが作家の腕の見せ所だ。
次回 第02話『エンカウンター』を読む
HEROMAN 目次
HEROMAN 公式ホームページ
作品データ
監督:難波日登志 原作:スタン・リー
シリーズ構成:大和屋暁 キャラクターデザイン:コヤマシゲト
チーフアニメーター:川元利浩、富岡隆司 デザイン協力:ねこまたや
クリーチャーデザイン:武半慎吾 タイトル・アイコンデザイン:草野剛
メカ・プロップデザイン:田中俊成 石本剛啓 ディスプレイデザイン:佐山善則
美術デザイン・美術監督:近藤由美子 色彩設計:岩沢れい子
撮影監督:木村俊也 3DCGIディレクター:カトウヤスヒロ 太田光希
編集:定松剛 音響監督:原口昇 音響効果:倉橋静男
音楽:METALCHICKS・MUSIC HEROES
音楽プロデューサー:山田勝哉 美登浩司 音楽制作:愛印
プロデューサー:奈良初男 山西太平
アニメーション制作:BONES
出演:小松未可子 木村良平 小幡真裕 チョー
〇 進藤尚美 保村真 陶山章央 石塚運昇
〇 長克巳 伊井篤史 石井康嗣 井上剛