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■2010/01/06 (Wed)
95b70127.jpgオリバーには親がいなかった。救貧院で生まれ、養育院で育ち、救貧院に戻ってきてしまった。
救貧院での暮らしは劣悪だった。昼は麻屑つくりの仕事を強制され、食事は僅かなお粥だけ。
a967c6a7.jpgある晩、オリバーは配膳係である大人に「もう少しください」と訴える。
この一言に、教区史たちは激怒した。オリバーの一言は問題発言として取り上げられ、オリバーは問題行動を引き起こしたとして救貧院から追い出されてしまう。
10b72958.jpg59102351.jpg嘘みたいな劣悪な救貧院の様子。これは当時の『新救貧法』を元に描かれている。こういった光景は、当時、実際にあったようだ。

f378f91f.jpg引き取り手として現れたのは、少年の下働きを求めていたサワベリーだった。
サワベリーはオリバーに理解を示し、自身のお気に入りとして葬儀のお供に抜擢する。
d373d486.jpgだがそれが周囲の激しい反感と嫉妬を買ってしまった。オリバーは覚えのない悪戯の濡れ衣を着せられる。サワベリーはオリバーではないと直感していたが、周りに押し切られ、オリバーを罰として杖で叩いてしまう。
fc08029d.jpg葬儀屋に居場所がなくなったと感じたオリバーは、夜明けと共に脱走する。引き取ってくれる大人を探してロンドンを目指した。
c5c1d22a.jpg明るい色彩に解放感のある構図。カットの中の全てが物語を語るために機能している。物語の語り方ef6a32d8.jpgにしても人物の描き方にしても、クローズアップや言葉に頼らず映像で語っている。
ロンドンにたどり着くと、ドジャーと名乗る少年がオリバーに話しかけてきた。ドジャーはオリバーが家出少年と察すると「何か食べさせて0eeda565.jpgやるよ」とオリバーを誘う。
ドジャーは泥棒の少年だった。オリバーは窃盗団の頭であるフェイギンに引き取られ、盗みのやり方を教わる。
数日が過ぎて盗みのテクニックを学んだオリバーは、ドジャーたちととfc07cd8d.jpgもに街に繰り出す。もちろん盗みを働くためだ。
しかしオリバーは盗みに失敗して捕まってしまう。ただちに裁判所に送られるが、幸運にも盗品を持っていなかった。オリバーは冤罪だと判断されて解放されることとなった。
6f623f48.jpgそんなオリバーに同情したブラウンローはオリバーを引き取り、自分の屋敷で養うと申し出た。オリバーは金持ちの屋敷で暮らし、幸福を得た――かのように思えた。
だがフェイギンたちは危機を募らせていた。
ffae23f8.jpg「もしもオリバーが自白したら、人員捕まってしまうぞ」
フェイギンはオリバーを誘拐する計画を立てる。
54d4fc3e.jpg街の風景。デジタルは使わないセット撮影だ。予算規模の大きな映画であったとわかる。
930c8424.jpg

『オリバー』は純然たる物語映画だ。この作品に驚くような特撮やアクションはない。オリバー少年がいかにに行動し、判断し、どんな結7c40efd8.jpg末を迎えるか。その過程を順を追って丁寧に描いた作品だ。
優れた語り手による映画で、物語は淀みなく静かに流れていく。流麗に流れる映像や言葉のやり取りは語り口に相当するもの7ab42c2e.jpgだろう。『オリバー』に接していると、優れた名調子にゆったりと耳を傾けている気分にさせる。
27748903.jpgオリバーはただ流されるだけの主人公である。弱々しい体や意思を見ていると、どこか少年愛的なものを連想させる。ショタ属性の方は是非、といったところだ。

オリバーという少年に主人公としての主体性はない。ただただ周囲の状況に流されていくだけで、自身の意思はどこにもない。どこか、「捉われのお姫様」を連想させる弱々しさだ。オリバーという少年が力を発揮して、物語を動かしていく場面はない。常に誰かに助けられ、幸運に助けられ、周囲の世界のほうが勝手に動いていく、といった具合だ。
それはオリバーが純粋だからだ。あまりにも汚れた世界に対して、オリバーの内面は純潔そのものである。
不潔と不徳と不法ばかりが横行するイギリス社会に対して、作者はオリバーという少年を使って警鐘する。少年達ですら日常の言葉や行動は汚く、道徳の意識は希薄だ。そんな社会に入っていこうとしたら、どんな純粋に育てられた少年もいつか汚されてしまうだろう。
そんな中で、オリバーは天使のような理想像として描かれる。おそらく作者が夢想した理想の人間像なのだろう。
途方もない人間不信と社会に対する絶望が、『オリバー』という物語を生んだのではないだろうか。
116d93e4.jpgどこか古典映画の気風をまとう作品。最近作られた映画ではなく、クラシックに接している気分にさせる。映画が特撮に頼るようになった以前は、こうした物語主導の映画が普通だった。


あらゆる構図、音楽、色彩が物語を語るために機能している。優れた語り手の名調子であると共に、合奏のような調和の取れた作品だ。
しばらく時間を忘れて、創作者の語りに身を預けていたい――。そう思える映画だ。

映画記事一覧

作品データ
監督:ロマン・ポランスキー 原作:チャールズ・ディケンズ
音楽:レイチェル・ポートマン 脚本:ロナルド・ハーウッド
出演:バーニー・クラーク ベン・キングスレー
  ハリー・イーデン ジェイミー・フォアマン
  エドワード・ハードウィック リアン・ロウ



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