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■2010/01/06 (Wed)
映画:外国映画■
オリバーには親がいなかった。救貧院で生まれ、養育院で育ち、救貧院に戻ってきてしまった。
救貧院での暮らしは劣悪だった。昼は麻屑つくりの仕事を強制され、食事は僅かなお粥だけ。
ある晩、オリバーは配膳係である大人に「もう少しください」と訴える。
この一言に、教区史たちは激怒した。オリバーの一言は問題発言として取り上げられ、オリバーは問題行動を引き起こしたとして救貧院から追い出されてしまう。
嘘みたいな劣悪な救貧院の様子。これは当時の『新救貧法』を元に描かれている。こういった光景は、当時、実際にあったようだ。
引き取り手として現れたのは、少年の下働きを求めていたサワベリーだった。
サワベリーはオリバーに理解を示し、自身のお気に入りとして葬儀のお供に抜擢する。
だがそれが周囲の激しい反感と嫉妬を買ってしまった。オリバーは覚えのない悪戯の濡れ衣を着せられる。サワベリーはオリバーではないと直感していたが、周りに押し切られ、オリバーを罰として杖で叩いてしまう。
葬儀屋に居場所がなくなったと感じたオリバーは、夜明けと共に脱走する。引き取ってくれる大人を探してロンドンを目指した。
明るい色彩に解放感のある構図。カットの中の全てが物語を語るために機能している。物語の語り方にしても人物の描き方にしても、クローズアップや言葉に頼らず映像で語っている。
ロンドンにたどり着くと、ドジャーと名乗る少年がオリバーに話しかけてきた。ドジャーはオリバーが家出少年と察すると「何か食べさせてやるよ」とオリバーを誘う。
ドジャーは泥棒の少年だった。オリバーは窃盗団の頭であるフェイギンに引き取られ、盗みのやり方を教わる。
数日が過ぎて盗みのテクニックを学んだオリバーは、ドジャーたちとともに街に繰り出す。もちろん盗みを働くためだ。
しかしオリバーは盗みに失敗して捕まってしまう。ただちに裁判所に送られるが、幸運にも盗品を持っていなかった。オリバーは冤罪だと判断されて解放されることとなった。
そんなオリバーに同情したブラウンローはオリバーを引き取り、自分の屋敷で養うと申し出た。オリバーは金持ちの屋敷で暮らし、幸福を得た――かのように思えた。
だがフェイギンたちは危機を募らせていた。
「もしもオリバーが自白したら、人員捕まってしまうぞ」
フェイギンはオリバーを誘拐する計画を立てる。
街の風景。デジタルは使わないセット撮影だ。予算規模の大きな映画であったとわかる。
『オリバー』は純然たる物語映画だ。この作品に驚くような特撮やアクションはない。オリバー少年がいかにに行動し、判断し、どんな結末を迎えるか。その過程を順を追って丁寧に描いた作品だ。
優れた語り手による映画で、物語は淀みなく静かに流れていく。流麗に流れる映像や言葉のやり取りは語り口に相当するものだろう。『オリバー』に接していると、優れた名調子にゆったりと耳を傾けている気分にさせる。
オリバーはただ流されるだけの主人公である。弱々しい体や意思を見ていると、どこか少年愛的なものを連想させる。ショタ属性の方は是非、といったところだ。
オリバーという少年に主人公としての主体性はない。ただただ周囲の状況に流されていくだけで、自身の意思はどこにもない。どこか、「捉われのお姫様」を連想させる弱々しさだ。オリバーという少年が力を発揮して、物語を動かしていく場面はない。常に誰かに助けられ、幸運に助けられ、周囲の世界のほうが勝手に動いていく、といった具合だ。
それはオリバーが純粋だからだ。あまりにも汚れた世界に対して、オリバーの内面は純潔そのものである。
不潔と不徳と不法ばかりが横行するイギリス社会に対して、作者はオリバーという少年を使って警鐘する。少年達ですら日常の言葉や行動は汚く、道徳の意識は希薄だ。そんな社会に入っていこうとしたら、どんな純粋に育てられた少年もいつか汚されてしまうだろう。
そんな中で、オリバーは天使のような理想像として描かれる。おそらく作者が夢想した理想の人間像なのだろう。
途方もない人間不信と社会に対する絶望が、『オリバー』という物語を生んだのではないだろうか。
どこか古典映画の気風をまとう作品。最近作られた映画ではなく、クラシックに接している気分にさせる。映画が特撮に頼るようになった以前は、こうした物語主導の映画が普通だった。
あらゆる構図、音楽、色彩が物語を語るために機能している。優れた語り手の名調子であると共に、合奏のような調和の取れた作品だ。
しばらく時間を忘れて、創作者の語りに身を預けていたい――。そう思える映画だ。
映画記事一覧
作品データ
監督:ロマン・ポランスキー 原作:チャールズ・ディケンズ
音楽:レイチェル・ポートマン 脚本:ロナルド・ハーウッド
出演:バーニー・クラーク ベン・キングスレー
〇 ハリー・イーデン ジェイミー・フォアマン
〇 エドワード・ハードウィック リアン・ロウ
救貧院での暮らしは劣悪だった。昼は麻屑つくりの仕事を強制され、食事は僅かなお粥だけ。
ある晩、オリバーは配膳係である大人に「もう少しください」と訴える。
この一言に、教区史たちは激怒した。オリバーの一言は問題発言として取り上げられ、オリバーは問題行動を引き起こしたとして救貧院から追い出されてしまう。
嘘みたいな劣悪な救貧院の様子。これは当時の『新救貧法』を元に描かれている。こういった光景は、当時、実際にあったようだ。
引き取り手として現れたのは、少年の下働きを求めていたサワベリーだった。
サワベリーはオリバーに理解を示し、自身のお気に入りとして葬儀のお供に抜擢する。
だがそれが周囲の激しい反感と嫉妬を買ってしまった。オリバーは覚えのない悪戯の濡れ衣を着せられる。サワベリーはオリバーではないと直感していたが、周りに押し切られ、オリバーを罰として杖で叩いてしまう。
葬儀屋に居場所がなくなったと感じたオリバーは、夜明けと共に脱走する。引き取ってくれる大人を探してロンドンを目指した。
明るい色彩に解放感のある構図。カットの中の全てが物語を語るために機能している。物語の語り方にしても人物の描き方にしても、クローズアップや言葉に頼らず映像で語っている。
ロンドンにたどり着くと、ドジャーと名乗る少年がオリバーに話しかけてきた。ドジャーはオリバーが家出少年と察すると「何か食べさせてやるよ」とオリバーを誘う。
ドジャーは泥棒の少年だった。オリバーは窃盗団の頭であるフェイギンに引き取られ、盗みのやり方を教わる。
数日が過ぎて盗みのテクニックを学んだオリバーは、ドジャーたちとともに街に繰り出す。もちろん盗みを働くためだ。
しかしオリバーは盗みに失敗して捕まってしまう。ただちに裁判所に送られるが、幸運にも盗品を持っていなかった。オリバーは冤罪だと判断されて解放されることとなった。
そんなオリバーに同情したブラウンローはオリバーを引き取り、自分の屋敷で養うと申し出た。オリバーは金持ちの屋敷で暮らし、幸福を得た――かのように思えた。
だがフェイギンたちは危機を募らせていた。
「もしもオリバーが自白したら、人員捕まってしまうぞ」
フェイギンはオリバーを誘拐する計画を立てる。
街の風景。デジタルは使わないセット撮影だ。予算規模の大きな映画であったとわかる。
『オリバー』は純然たる物語映画だ。この作品に驚くような特撮やアクションはない。オリバー少年がいかにに行動し、判断し、どんな結末を迎えるか。その過程を順を追って丁寧に描いた作品だ。
優れた語り手による映画で、物語は淀みなく静かに流れていく。流麗に流れる映像や言葉のやり取りは語り口に相当するものだろう。『オリバー』に接していると、優れた名調子にゆったりと耳を傾けている気分にさせる。
オリバーはただ流されるだけの主人公である。弱々しい体や意思を見ていると、どこか少年愛的なものを連想させる。ショタ属性の方は是非、といったところだ。
オリバーという少年に主人公としての主体性はない。ただただ周囲の状況に流されていくだけで、自身の意思はどこにもない。どこか、「捉われのお姫様」を連想させる弱々しさだ。オリバーという少年が力を発揮して、物語を動かしていく場面はない。常に誰かに助けられ、幸運に助けられ、周囲の世界のほうが勝手に動いていく、といった具合だ。
それはオリバーが純粋だからだ。あまりにも汚れた世界に対して、オリバーの内面は純潔そのものである。
不潔と不徳と不法ばかりが横行するイギリス社会に対して、作者はオリバーという少年を使って警鐘する。少年達ですら日常の言葉や行動は汚く、道徳の意識は希薄だ。そんな社会に入っていこうとしたら、どんな純粋に育てられた少年もいつか汚されてしまうだろう。
そんな中で、オリバーは天使のような理想像として描かれる。おそらく作者が夢想した理想の人間像なのだろう。
途方もない人間不信と社会に対する絶望が、『オリバー』という物語を生んだのではないだろうか。
どこか古典映画の気風をまとう作品。最近作られた映画ではなく、クラシックに接している気分にさせる。映画が特撮に頼るようになった以前は、こうした物語主導の映画が普通だった。
あらゆる構図、音楽、色彩が物語を語るために機能している。優れた語り手の名調子であると共に、合奏のような調和の取れた作品だ。
しばらく時間を忘れて、創作者の語りに身を預けていたい――。そう思える映画だ。
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作品データ
監督:ロマン・ポランスキー 原作:チャールズ・ディケンズ
音楽:レイチェル・ポートマン 脚本:ロナルド・ハーウッド
出演:バーニー・クラーク ベン・キングスレー
〇 ハリー・イーデン ジェイミー・フォアマン
〇 エドワード・ハードウィック リアン・ロウ
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