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■2009/09/17 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
15
突然、私は解放された。私は地面に崩れ落ちて、夢中になって空気を吸い込んでいた。体に空気が流れていく感触を、はじめて感じていた。両掌を縛っていたロープも解放されていて、いつのまにか自由が与えられていた。
私の前に、金属音が落ちて跳ね上がった。顔を上げると、目の前にナイフが放り出されていた。
顔を上げた。男爵がにやにやした微笑を浮かべて、私を見下ろしていた。
私は体内に、火が点いたような衝動を感じた。ナイフを握り、男爵に飛びついた。
ナイフの切っ先が、男爵の体に飲み込まれた。肉を深くえぐる感触を掌に感じていた。
「おめでとう、こっちの世界へ」
男爵は悪魔の微笑を浮かべて、輝く目で私を見ていた。
私は突然に我に返った。手が生暖かいもので濡れるのを感じた。私は意識が真っ白になるのを感じて、ナイフを放り出し、ふらふらと後ろに下がった。
「どうしたのかね。さあ、もっとナイフでえぐりたまえ。一度目は躊躇う。刷り込みと衝動が対立するからだ。だが、二度目には何の感情も起きなくなる。三度目には作業になる。四度目には情欲が欲するようになる。さあ、二度目を行いたまえ。二度目は一度目に感じた躊躇いと怖れなど感じなくなるはずだ」
男爵は今までにないくらい目を生き生きと輝かせて、私に囁きかけてきた。
男爵の言葉が、私の無防備になった意識に流れ込んでくるのを感じた。だけど私は男爵の操り人形にすらなれなかった。私はふらふらと後ろに下がり、足をもつれさせて尻をついてしまった。
「残念だよ。君には才能がない。私の弟子になる資格はなさそうだ」
男爵が落胆したように視線を落とした。腹に刺さったままだったナイフを引き抜いて、私の前に放り出す。私は「ひっ」とナイフを蹴って後ろに下がった。男爵の腹から、ぴゅっと赤い血が噴き出していた。
「日塔さん、こっちです。私の声が聞こえるほうへ、走ってください」
糸色先生の優しい声が聞こえた。
私は今にももつれそうな足で立ち上がった。意識はまだ真っ白で、目に映る光と色彩がなんであるか識別できなくなっていた。でも私は、私にかけてくる声に優しさとぬくもりを感じて、その方向に這い進むように歩いた。
富士額の少女が飛び出してきて、私の手を握った。私は本能的な反射で少女の手を握り返していた。
「私、どうしてここにいるの? 何が起きたの?」
私は混乱しながら、誰かに答えを求めようとしていた。
「大丈夫。助かったんだよ。助かったんだから。」
少女が宥めるように私を抱きしめて、背中をなでた。
急に私は、視界に色とぬくもりが戻るのを感じた。私を抱きしめているのは千里だった。千里の肩越しに、まといと藤吉とあびるが私を見詰めていた。そうして私は、「そうだ、助かったんだ」と理解した。
次回 P058 第5章 ドラコニアの屋敷16 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P057 第5章 ドラコニアの屋敷
15
突然、私は解放された。私は地面に崩れ落ちて、夢中になって空気を吸い込んでいた。体に空気が流れていく感触を、はじめて感じていた。両掌を縛っていたロープも解放されていて、いつのまにか自由が与えられていた。
私の前に、金属音が落ちて跳ね上がった。顔を上げると、目の前にナイフが放り出されていた。
顔を上げた。男爵がにやにやした微笑を浮かべて、私を見下ろしていた。
私は体内に、火が点いたような衝動を感じた。ナイフを握り、男爵に飛びついた。
ナイフの切っ先が、男爵の体に飲み込まれた。肉を深くえぐる感触を掌に感じていた。
「おめでとう、こっちの世界へ」
男爵は悪魔の微笑を浮かべて、輝く目で私を見ていた。
私は突然に我に返った。手が生暖かいもので濡れるのを感じた。私は意識が真っ白になるのを感じて、ナイフを放り出し、ふらふらと後ろに下がった。
「どうしたのかね。さあ、もっとナイフでえぐりたまえ。一度目は躊躇う。刷り込みと衝動が対立するからだ。だが、二度目には何の感情も起きなくなる。三度目には作業になる。四度目には情欲が欲するようになる。さあ、二度目を行いたまえ。二度目は一度目に感じた躊躇いと怖れなど感じなくなるはずだ」
男爵は今までにないくらい目を生き生きと輝かせて、私に囁きかけてきた。
男爵の言葉が、私の無防備になった意識に流れ込んでくるのを感じた。だけど私は男爵の操り人形にすらなれなかった。私はふらふらと後ろに下がり、足をもつれさせて尻をついてしまった。
「残念だよ。君には才能がない。私の弟子になる資格はなさそうだ」
男爵が落胆したように視線を落とした。腹に刺さったままだったナイフを引き抜いて、私の前に放り出す。私は「ひっ」とナイフを蹴って後ろに下がった。男爵の腹から、ぴゅっと赤い血が噴き出していた。
「日塔さん、こっちです。私の声が聞こえるほうへ、走ってください」
糸色先生の優しい声が聞こえた。
私は今にももつれそうな足で立ち上がった。意識はまだ真っ白で、目に映る光と色彩がなんであるか識別できなくなっていた。でも私は、私にかけてくる声に優しさとぬくもりを感じて、その方向に這い進むように歩いた。
富士額の少女が飛び出してきて、私の手を握った。私は本能的な反射で少女の手を握り返していた。
「私、どうしてここにいるの? 何が起きたの?」
私は混乱しながら、誰かに答えを求めようとしていた。
「大丈夫。助かったんだよ。助かったんだから。」
少女が宥めるように私を抱きしめて、背中をなでた。
急に私は、視界に色とぬくもりが戻るのを感じた。私を抱きしめているのは千里だった。千里の肩越しに、まといと藤吉とあびるが私を見詰めていた。そうして私は、「そうだ、助かったんだ」と理解した。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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