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■2009/08/31 (Mon)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
17
食事が終ると、いよいよこの屋敷ともお別れだった。私たちは女中に案内されて、廊下に出た。列を作って糸色家の長い廊下を進んだ。
中庭に出たところで人の気配がした。振り向くと、向うの廊下と廊下を結ぶ反り橋に、倫が立っていた。倫は側にボディガードを従えながら、こちらを見ていた。
「ちょっと待ってて」
私はみんなに断って、倫の前に進んだ。
倫も反り橋から降りて、私の前に進んできた。
「何だ、もう帰ってしまうのか」
倫はいつものように毅然としていたけど、どことなく寂しそうだった。
「うん。だって、帰ってしなくちゃいけないこともありますから。ああ、そうそう。倫さん、もう大丈夫ですよ」
私は倫を慰めるように微笑みかけ、思い出したように声をあげた。
「何がだ?」
倫が話の続きを促した。
「ほら、夜中に感じたっていう、あの気配。正体がわかりましたよ。地下坑道にいた、妖怪のおもちゃです。あれ、動く仕掛けになってたんです。あのおもちゃが多分、怪しい気配の正体ですよ」
私は何でもない事件のように微笑みながら説明した。私の想像だけど、糸色家にはああいう気味の悪い泥棒除けがたくさん設置されているのだと思う。それが夜中になって、勝手に動き出したりしたのだろう。倫が感じたという気配の正体はそれだったのだろう。
「うん、そうか」
倫は納得するように頷いた。
「それじゃあね」
と私は行こうと踵を返した。しかし、倫が名残惜しそうに私を引きとめようとした。
「あ、待って。……また、遊び来ても、いいぞ」
倫は少し目を伏せて、和人形のような白い肌をかすかに赤くしていた。
「うん。じゃあ、いつか必ず来るね。糸色先生と一緒に。じゃあね、倫ちゃん」
私は倫に手を振って、みんなの元に戻った。倫は恥ずかしげに微笑んで、小さく私に手を振って返していた。
しばらくして、廊下の先に正面玄関が見えた。正面玄関はどこかの旅館のように広かった。シンプルな木造の空間に、絵皿が二枚だけ飾られ、数奇屋造りのデザインをさりげなく引き立てていた。土間の敷石は綺麗な扇の形にはめ込まれていた。その土間に、私たちの靴が一列に並べて置かれていた。
私は列の一番後ろだったので、みんなが靴を履くのを順番にしばらく待った。
そうして立っていると、なぜか背中に目線を感じるような気がした。
私は振り向いた。すると、廊下を少し進んだ曲がり角のところに、女の子が一人立っていた。風浦可符香だった。
「何しているの、可符香ちゃん。こっちおいでよ」
私は呼びかけながら、なぜか奇妙な感覚に囚われるのを感じていた。
なぜ?
例えば、そこに立っている可符香はセーラー服姿だった。髪はたった今切ったばかりのようにぼさぼさで肩にかかっていた。トレードマークの髪留めは、いつも左の前髪なのに、右の前髪につけていた。それに、見間違いかもしれないけど、肌の色がかすかに緑色がかって見えた。そのせいかも知れないけど、いつも淡い赤の瞳が、その時は異様にくっきりとした色彩に見えた。
でもその容姿や背の高さ、印象は間違いなく風裏可符香だった。なのに、私は奇妙な違和感でセーラー服姿の可符香を見ていた。
「どうしたの、日塔さん。風浦さんだったら、ここにいるわよ。」
靴を履きおえた千里が、私を振り返って声をかけた。
私はえっとなって振り返った。確かに、千里の隣に可符香が立っていた。ここにやってきた時に着ていたワンピース姿だった。
わたしはもう一度、えっとさっきの場所を振り返った。しかし、そこに人の姿はなかった。
「日塔さん、しっかりしてよ。もう帰るのよ。」
千里が気を遣うように私に声をかけた。
私は茫然と廊下を眺めていた。私は幻を見ていたのだろうか。それとも……。
次回 P042 第4章 見合う前に跳べ18 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P041 第4章 見合う前に跳べ
17
食事が終ると、いよいよこの屋敷ともお別れだった。私たちは女中に案内されて、廊下に出た。列を作って糸色家の長い廊下を進んだ。
中庭に出たところで人の気配がした。振り向くと、向うの廊下と廊下を結ぶ反り橋に、倫が立っていた。倫は側にボディガードを従えながら、こちらを見ていた。
「ちょっと待ってて」
私はみんなに断って、倫の前に進んだ。
倫も反り橋から降りて、私の前に進んできた。
「何だ、もう帰ってしまうのか」
倫はいつものように毅然としていたけど、どことなく寂しそうだった。
「うん。だって、帰ってしなくちゃいけないこともありますから。ああ、そうそう。倫さん、もう大丈夫ですよ」
私は倫を慰めるように微笑みかけ、思い出したように声をあげた。
「何がだ?」
倫が話の続きを促した。
「ほら、夜中に感じたっていう、あの気配。正体がわかりましたよ。地下坑道にいた、妖怪のおもちゃです。あれ、動く仕掛けになってたんです。あのおもちゃが多分、怪しい気配の正体ですよ」
私は何でもない事件のように微笑みながら説明した。私の想像だけど、糸色家にはああいう気味の悪い泥棒除けがたくさん設置されているのだと思う。それが夜中になって、勝手に動き出したりしたのだろう。倫が感じたという気配の正体はそれだったのだろう。
「うん、そうか」
倫は納得するように頷いた。
「それじゃあね」
と私は行こうと踵を返した。しかし、倫が名残惜しそうに私を引きとめようとした。
「あ、待って。……また、遊び来ても、いいぞ」
倫は少し目を伏せて、和人形のような白い肌をかすかに赤くしていた。
「うん。じゃあ、いつか必ず来るね。糸色先生と一緒に。じゃあね、倫ちゃん」
私は倫に手を振って、みんなの元に戻った。倫は恥ずかしげに微笑んで、小さく私に手を振って返していた。
しばらくして、廊下の先に正面玄関が見えた。正面玄関はどこかの旅館のように広かった。シンプルな木造の空間に、絵皿が二枚だけ飾られ、数奇屋造りのデザインをさりげなく引き立てていた。土間の敷石は綺麗な扇の形にはめ込まれていた。その土間に、私たちの靴が一列に並べて置かれていた。
私は列の一番後ろだったので、みんなが靴を履くのを順番にしばらく待った。
そうして立っていると、なぜか背中に目線を感じるような気がした。
私は振り向いた。すると、廊下を少し進んだ曲がり角のところに、女の子が一人立っていた。風浦可符香だった。
「何しているの、可符香ちゃん。こっちおいでよ」
私は呼びかけながら、なぜか奇妙な感覚に囚われるのを感じていた。
なぜ?
例えば、そこに立っている可符香はセーラー服姿だった。髪はたった今切ったばかりのようにぼさぼさで肩にかかっていた。トレードマークの髪留めは、いつも左の前髪なのに、右の前髪につけていた。それに、見間違いかもしれないけど、肌の色がかすかに緑色がかって見えた。そのせいかも知れないけど、いつも淡い赤の瞳が、その時は異様にくっきりとした色彩に見えた。
でもその容姿や背の高さ、印象は間違いなく風裏可符香だった。なのに、私は奇妙な違和感でセーラー服姿の可符香を見ていた。
「どうしたの、日塔さん。風浦さんだったら、ここにいるわよ。」
靴を履きおえた千里が、私を振り返って声をかけた。
私はえっとなって振り返った。確かに、千里の隣に可符香が立っていた。ここにやってきた時に着ていたワンピース姿だった。
わたしはもう一度、えっとさっきの場所を振り返った。しかし、そこに人の姿はなかった。
「日塔さん、しっかりしてよ。もう帰るのよ。」
千里が気を遣うように私に声をかけた。
私は茫然と廊下を眺めていた。私は幻を見ていたのだろうか。それとも……。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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